デジアナウォッチの祖が作り上げた唯一無二の存在感を放つパイロット向け多機能時計

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シチズン
プロマスター PMV65-2272
実勢価格:9万1800円
問い合わせ:シチズンお客様時計相談室 0120-78-4807

時計業界でほぼ絶滅したジャンルのひとつが、デジアナ、あるいはアナデジである。1980年代以降、国内外の時計メーカーは、こぞって針で時間を示し、デジタルで別の時間やカレンダーを示すデジアナに取り組んだ。

しかし、デジタル=安物という認識が広まったためか、1990年代以降姿を消すこととなる。現在このジャンルの時計を手がけているのは、カシオ、ブライトリング、そして今回取り上げるシチズンぐらいではないか。

1978年シチズンアナログとデジタルの両機能を持つ全く新しい時計を作りあげた。デジタルとアナログを合わせて「デジアナ」という名前も、そもそもはシチズンが使い始めたものだ。

続く’82年、同社はクロノグラフアラーム、カレンダー、温度を測るセンサー機能まで搭載した豪華版の「サーモセンサー」をリリース。これはデジアナ時計の傑作であり、多機能時計のハシリとも言える存在だった。

そんなシチズンが、今なおデジアナ時計をカタログに残しているのは当然だろう。モデルはいくつかあるが、筆者が、もっとも実用的で、もっともかっこいいと思っているのは、今回紹介するプロマスターの『PMV65-2272』だ。

ツール感の強いデザイン。直径は43.7mm、厚さは13.9mmもあるが、軽いスーパチタニウムのおかげで装着感は実に快適だ。またラグを短く切って全長を抑えたため、細腕の人にもマッチする。

この時計の特徴は、徹底してパイロット向けであることだ。そのため搭載する機能も、協定世界時(UTC)表示、4エリア対応の電波受信機能に、回転計算尺、タイマーに1/100クロノグラフ(24時間)、ワールドカレンダー、ワールドタイムアラームとなっている。これだけ機能を盛り込めば使いにくくなるのが常である。

しかしデジアナにすることで、シチズンはこのモデルに優れた操作性と視認性をもたらした。この時計が単なるガジェットではない証拠に、知り合いのパイロットは、飛行する際、この時計をいつも腕に巻いている。正確な上、飛行に必要な情報が得られ、しかも使いやすいのだから、プロに好まれるのは当然だろう。

パイロットウォッチらしい、ステッチを効かせたレザーストラップ。なおシチズンを含む国産メーカーの純正ストラップは、アレルギーが極めて起こりにくい。

このモデル大きな魅力は、見やすい2カ国表示にある。文字盤左のTYOは東京を意味し、中心の時分針が示す場所を表す。右側のNYCはニューヨークを意味し、デジタルでその時間を示す。メインとサブの時間は44都市に対応しているため、世界中のすべての時間帯を基本的にはカバーする。

仮に複数の針で同じことをやろうと思ったら、見にくくて仕方ないはずだ。そこでシチズンは、デジアナのメリットをフルに生かして、プロのパイロット向けの時計を完成させた。ちなみに実用時計を作らせたら、シチズンは世界で一番うまい、と筆者は思っている。

デジアナらしい、情報満載の文字盤。ただし表示を完全に切り分けてあるため、視認性は良好だ。12時位置に見えるのは、世界標準時を示すUTC表示。複数の時間表示に加えて、UTCも表示できるパイロットウォッチは、世界にも数えるほどしかない。

このプロ向けデジアナ時計も例外ではなく、上質な実用時計としての完成度は極めて高い。ケースは軽くてアレルギーの起こりにくいチタニウムだし、防水性能も20気圧もある。加えて本作は、外装の出来もいい。デジアナなのに定価は8万5000円もするが、仕上げは価格相応以上だ。デュラテクトを施したベゼルはなめらかな表面を持ち、7時位置のリュウズで回す回転計算尺も、動きは実にスムースだ。同じような仕上げをスイスで行ったら、販売価格は数十万に跳ね上がるだろうが、そこはシチズン、価格を抑えてみせた。

よくできたスーパチタニウム製の尾錠。このモデルにはブレスレット仕様もあるが、個人的なおすすめはより軽くて取り回しの良い、レザーストラップ付きだ。

この時計が最も映えるのは、言うまでもなくプロのパイロットだ。しかし、海外に頻繁に出かける人はもちろん、かっこいい多機能時計が欲しい人にも、本作をおすすめしたい。

そもそもデジアナという絶滅危惧種をここまで洗練させた時計は、現時点ではプライトリングの「エアロスペース」とプロマスターの『PMV65-2272』のみだ。しかも外装が上質な上、価格も頑張れば手が届く範囲内にある。

この原稿を書いている時点で、筆者はまだこの時計を手にしていない。しかし、原稿を書き終わったら時計屋に向かっていると思う。シチズンが作り上げたデジアナの最高峰は、唯一無二の味わいに満ちている。

広田雅将(ひろたまさゆき1974年生まれ。時計ライター/ジャーナリストとして活動する傍ら、2016年から高級腕時計専門誌『クロノス日本版』の編集長を兼務。国内外の時計賞の審査員を務めるほか、講演も多数。時計に限らない博識さから、業界では“ハカセ”と呼ばれる。

※『デジモノステーション』2019年3月号より抜粋。

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プロマスター PMV65-2272

text広田雅将
(d.365
ツール感の強いデザイン。直径は43.7mm、厚さは13.9mmもあるが、軽いスーパチタニウムのおかげで装着感は実に快適だ。またラグを短く切って全長を抑えたため、細腕の人にもマッチする。