マグロの養殖に成功しそれを実際に販売するなど、画期的な取り組みで知られているのが近畿大学です。実学教育の大切さを掲げる大学が多い中、真の実学教育とは何かについて、細井美彦学長にお話を伺いました。 近畿大学 学長 細井 美彦 1956年生まれ、農学博士。専門分野は生殖生理学。 兵庫県西宮市出身。 京都大学農学部畜産学科卒業 京都大学大学院農学研究科畜産学専攻博士後期課程修了 2018年4月、近畿大学学長に就任。

高度な基礎能力を発揮できる人材を育てる、近畿大学流「実学教育」とは?

近畿大学は、1949年の設立から創設者・世耕弘一の「学びたい者に学ばせたい」という信念のもと、「実学教育」と「人格の陶冶」を建学の精神とし、社会に貢献できる人材の育成を目指してまいりました。社会貢献と言ってもさまざまですが、私たちが目的としているのは産業に貢献できる人材を育てることです。昔と比べて現在は、大学で実施した理論研究や基礎研究の成果が、そのまま社会に還元される時代になったと感じています。今後、どのような実学教育が必要なのかと考えても、そのコンセプトはどんどん変化していくでしょう。だからこそ、社会に対応できるよう人格の陶冶が重要になってくるのです。これまでは、天才を育て、その天才が進路を発見してきました。しかし、これからの時代に対応するためには、個人ではなくチームで1つの課題を解決していく力も求められていくでしょう。チームで課題に取り組むには、人から信頼される存在になる必要があります。そこで、学生一人ひとりが持つ人間性をどう伸ばしていけるかが、私たち教育者に与えられた課題であると考えております。

最近では、「実学教育」を強みに掲げる大学が増えてきました。しかし、実学教育といっても、ただ成功例を見せるだけであれば座学と同じです。そこで、私たちは近畿大学流の実学教育を考え、基礎学力だけではなく、いかに統合的な教育を提供できるかを大事にしています。私たちが日頃から積極的に取り組んでいるのが、企業との「共同研究」です。共同研究を通して、問題を解決する力を養います。それは、高度な基礎能力を利用して社会で実走するための考える力です。実学教育というからには、説得力のある学びでありたい。

例えば、マグロの養殖であれば、ただ研究のために養殖に関わるのではなく、自分が養殖したマグロを実際に販売してみる。そして、そこで稼いだお金でさらに研究をしていくという「実物教育」を実施しています。実際に自らの力でやってみて、その中で見える発見のみならず、「理論と合わない」「効率が悪い」などの違和感まで感じ取って学んでほしい。それが、本当の実学教育であると考えています。

豊かな社会を目指して変化を受け入れ、数々のめぐり逢いの中で学べる環境づくりに挑戦

日本には数多くの大学があり、それぞれに考えられた教育方針があると思います。近畿大学は、本校のスケールメリットを活用した教育をしたいと考え、さまざまな「出会い」から学べる機会を学生たちに提供しています。例えば、本学には現在14の学部がありますが、その枠を超えて学べる環境づくりに取り組んでいます。その一つが、会社経営をしているOBと学生をつなげる「KINDAIサミット」です。学生にとって先輩は、特別な存在であり、多くの影響を与えてくれます。さらに、このようなイベントを開催することで、学生同士が交流し、ともに学べる場を設けています。

また、2017年4月には「ACADEMIC THEATER(アカデミックシアター)」をオープンしました。ここには、たくさんの本が並んでいますが、図書館のようにインデックスどおりには並んでいません。ここで、学生たちにはどの本を読もうかと迷い、そこで出会った本から学んでいただこうというコンセプトです。検索能力が高いインターネットに慣れてしまった現代だからこそ、目的以外の情報を得ることの大切さも知ってほしいのです。

現在、日本のみならず世界を取り巻く環境は大きな変革期を迎えています。これから日本は、第4次産業革命の技術革新をあらゆる産業や社会に取り入れ、さまざまな社会問題を解決していく「Society5.0」を実現していかなければいけません。今、私たちは学生に発信するための広報手段としてSNSを活用するなど、インターネットによる情報発信を強化しています。また、本学では入試の出願もすべてインターネットで対応し、紙を使用した出願を廃止いたしました。これらは、時代が変化する中で私たちも変化していこうという大学からのメッセージであり、それらに取り組んでいくことで、私たち自身の意識も改革していくことが目的です。

また、本学では、グローバル化を進めるための取り組みとして国際学部の設置や、ロシアとの学術交流なども行っています。社会や文化、経済の違う国との積極的な交流は、学生に大きな刺激を与えており、今後も戦略的に挑戦していきたいと考えております。

固定概念を覆し、100%活躍してほしい。夢を実現する力を持つ若い人たちへのメッセージ

私たちが学生だった頃の世の中は固定概念が強く、社会は変わらないものだと思われていました。しかし今思えば、固定概念の中で生きたほうが楽で、適応しやすかったのだと思います。10年前は、スマートフォンが普及することなんて想像できませんでした。しかし、そのようなテクノロジーを駆使した製品は、昔から漫画の中にたくさん登場し、それら「憧れのアイテム」を人間は現実化させてきたのです。必要だと思ったデバイスを現実にする力を人間は持っている。そのことを、今の若い人たちに知ってほしいですね。そして、今の状況に満足してしまうのではなく、より豊かな社会を目指して考えることを諦めず、そのアイデアを具現化する方法を、実学教育の中で学んでいただけたらと思っています。

私たちは、近畿大学で学んだ学生たちが100%活躍できるよう、大学のことをもっと知っていただく努力をしなければいけません。そして、学生たちが学ぶ機会をロスしないよう努めたいと思っています。学びは、やはり楽しくなければいけません。近畿大学には、授業を楽しんでいただくためのバックグラウンドがあります。学びを楽しくするためには、地道な努力が必要です。今後も、学生たちの努力をフォローアップできる教育システムを充実させていきたいと思っております。人間は、基本的に変わっていくものです。以前は、生涯働ける会社に就職するものだという考え方でしたが、今はそう考えていない人も多いようですね。確かに、今学んでいることが20年後も役に立つという保証はありません。さらに20年後には、今ある職業の50%がなくなるともいわれています。しかし、それを悲観する必要はありません。社会の変化に対応し、どんな職業にも適応できる人材になればいいのです。そのためには、関西弁でいうところの「いっちょかみ」になっていただきたい。この言葉は、ネガティブに使われがちですが、要するに好奇心を持っていろいろなことに関わっていけるポジティブな人のことを表します。さまざまな価値観があることを知り、多様性を認めてあげることで対応できる力を身につけてほしい。それが、学生一人ひとりの可能性を広げることになると信じています。

取材・記事作成:株式会社マイナビ
写真提供一部:近畿大学