両角敏明[元テレビプロデューサー

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新聞は連日一面の厚労省毎勤統計問題ですが、テレビニュースはともかく生ワイド番組はほとんど取り上げません。事が「統計」ですから視聴率稼ぎには不向きです。しかしこのネタ次々と「裏の事実」が見えてきて、ヤジウマ的にけっこうオモシロイのです。

調査報告書発表の記者会見、荒井史男委員長代理(元名古屋高裁長官)の発言。『(隠蔽の)意図があったとまでは認められなかった』のならば『(隠蔽の)意図がなかったとまでは認められなかった』ということでもあるはずです。

要は「わからなかった」ということですから調査を続ければ良かったのですが・・・。これほど重大かつ長期間、日本経済、国際社会、さらに政権に打撃を与えかねない問題で、その事実経過と責任を調査し、明らかにするのは大変な作業です。

その大変な作業にあたる外部有識者による第三者委員会・特別監察委員会が厚労省によって設置され、最初の全体会合がもたれたのは1月17日でした。5日後の1月22日には第二回の、それが最終の全体会合が開かれ、調査報告書を発表します。報告書の最終行にわざわざ『関係職員の厳正なる処分が行われることを臨む』とあり、厚労省は即日に懲戒処分を発表します。

これだけの重大事例で、たった足かけ6日で、のべ69名からヒアリング、資料調査、議論検討、報告書作成を済ませ、さらにこれを受けて一事不再理が常識の懲戒処分まで発表するのはもはや神の業です。人には不可能のはずですが、厚労省には奥の手がありました。

以前から厚労省は「監察チーム」と呼ばれる組織を常設していました。たびたび重大問題を起こしてきた厚労省が内部に置いた職員と外部の弁護士などで構成された監察組織です。昨年12月末、毎勤統計不正が明らかになるとこのチームは内部調査をはじめます。

【参考】新標語「統計の、不正で作る、好景気。発覚したら、部下のせい」

この「監察チーム」の弁護士など5名に樋口美雄委員長を含む2名ほどの外部識者を新たに加えて新設されたのが「特別監察委員会」でした。樋口委員長厚労省の研修機構の理事長です。つまり、内部組織である「監察チーム」に外部風の冠を乗っけて作った第三者委員会モドキが「特別監察委員会」です。

先行した「監察チーム」の調査を土台とし、すこぶる聞き分けの良い「特別監察委員会」は奇跡の突貫工事で「組織的隠蔽はなかった」と結論づけ、厚労省はさっさと懲戒処分まで終えます。これで、「すべては済んだ話」として火を消すべく国会の閉会中審査に臨みます。しかし、厚労省の大甘な目論見は次から次へと木っ端微塵と吹っ飛びます。国会閉会中審査は極めて痛快な法廷劇のごとく展開します。

まず大もめにもめたのはこの「監察チーム」と「特別監察委員会」のヒアリング数についてでした。報告書には「のべ69人からヒアリング」とあるのですが、「のべ」ではない実数を確認する質問あたりから雲行きが怪しくなります。この単純な質問になぜかあやふやな答弁で議事が再三中断します。あげく「監察チーム」がヒアリングした24人はすべて厚生省職員だけによるものとバレて、議場全体に「やっぱり!」感が漂います。誰もが6日でまともな調査が出来るはずはないと考えていたのです。さらに「特別監察委員会」の外部委員がヒアリングした人数についての質問でも、大臣をはじめ官僚も右往左往、あげく30分も質疑がストップします。

結局、「特別監察委員会」の外部委員がヒアリングしたのは局長級11名、課長・課長補佐級9名の計20名と答えたのですが、どこかアヤシゲです。そこで野党議員が重ねて詳細な説明を求めると、また混乱。あげく懲戒処分との関係で公開できない決まり、などという不可解な理由で逃げ回ります。やはりなにかを隠しているニオイがプンプンです。

後日、20名は嘘っぱちで本当は12名、しかも第三者委員会と言いながらすべて厚労省幹部や職員が同席し、逆に外部委員だけでのヒアリングはゼロだったことまで報道されます。またヒアリング総数も37名に訂正されるます。さらに報告書の原案も厚労省職員が作成していたことが発覚、どこが第三者委員会だ、と議場は大荒れに。

結局のところ、ほとんど厚労省側が作成した調査結果を、あたかも第三者外部委員による「特別監察委員会」の調査結果であるがごとき体裁で発表したのが報告書だったとわかったのです。強く第三者偽装のニオイがしますが、それが奇跡のスピードのヒミツでした。

一方で、この報告書の最終責任者は誰か、と問われた根本厚労大臣は、どういうわけか「責任は特別監察委員会にある」とし、自らが最終責任者であることを頑なに否定しました。しかし報告書の冒頭にはこう書かれています。

厚生労働省監察本部長たる厚生労働大臣の下に設置された委員会である』

監察本部長たる厚労大臣が最終責任を拒否するような監察報告書で事態を収拾できるはずがありません。案の定、あまりの批判の強さに調査結果発表から3日後の1月25日、根本大臣から「一部再調査」が発表されました。再調査を同じ委員でやるという話です。調査も結論もすべて厚労省のひいたレールに乗った特別監察委員会には独立性も第三者性もなく、委員は調査のドシロートという強い批判があります。

【参考】<ボロボロ出てくる事実>厚労省勤労統計問題はオモシロイ

こんな再調査で世間の批判に耐えられるのかと思った矢先、4日後の29日午前、わずか中3日ほどで「特別監察委の外部有識者が計40人の再ヒアリングを終えた」と報じられます。しかも、すべての再ヒアリング厚労省職員が同席とも。

信用失墜の第三者委員会にとっては、たとえヒアリングの記録要員であろうが独立した外部スタッフがあたる厳しさを示すことが重要でしょうに。またまた非常識対応を強行する厚労省には何か調査を外部にまかせられない事情があるかのようです。

姑息な対応がバレて、その批判にまた姑息な対応でこたえ、それがバレてまた批判が・・・。今回の騒動、ボロボロ、ボロボロとこそげ落とされるように明らかになる事の事実、筆者のようなヤジウマにはどこかミステリーを読んでいるようなオモシロサがあります。おそらくは再調査もまたボロが・・・。

今回の毎勤統計不正問題には二つの要素があります。ひとつは長年にわたり保険金給付などで膨大な数の国民に与えた重大な影響。もうひとつは不正確な統計値をアベノミクスの成果と誇った安倍政権の振る舞い。いまのところメディアは前者を中心に報道していますが、国会審議や野党合同ヒアリングなどでは、お役人たちが後者の問題を認め始めているようにも見えます。こちらの方もボロボロと真実が見えてくるかも知れません。

2017年2月27日、全国ネットの生ワイド番組がそれまで取り上げなかった森友問題を一斉に伝えた日です。その日から森友は歴史的事件になりました。今回の問題、「統計」ながら厚労省の狼狽ぶりや、事の経緯、広がりが謎解き感覚でけっこうオモシロイのです。そろそろ生ワイド番組でも取り上げはじめ、歴史的事件に化けるのかもしれません。