アメリカ国防総省は、毎年春に実施してきたアメリカ軍韓国軍の大規模合同軍事演習「フォール・イーグル」と、それと並行して行われてきた米韓合同図上演習「キー・リゾルブ」を中止することを決定したと発表した。

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北朝鮮にとっては最大の軍事的脅威

 フォール・イーグルは、1997年から毎年韓国で開催されてきた世界最大規模の軍事演習の1つである。アメリカ軍側も韓国軍側も海軍、海兵隊、陸軍、そして空軍の部隊を参加させて実施される米韓統合軍総合軍事演習である。2008年からは、指揮官レベルの高度なコンピューターシミュレーションによる合同図上演習、キー・リゾルブも同時に開催されてきている。

 いまだに国際法上は休戦状態にある朝鮮半島の警戒監視にあたり、米韓軍事同盟の責務を果たすために韓国に駐留を続けている在韓米軍にとって、フォール・イーグルとキー・リゾルブは突出して重要な軍事訓練である。

 また、大規模な統合部隊を実戦さながらに機動させるフォール・イーグルは、アメリカ軍にとっても貴重な機会である。またアメリカとしては、大規模部隊展開能力を北朝鮮や中国に見せつけることによって抑止効果を生み出そうという目論見もある。

 もちろん北朝鮮にとっては、アメリカ海軍空母部隊やアメリカ海兵隊上陸部隊などが参加して、朝鮮半島で世界最大規模の軍事演習を繰り広げるフォール・イーグルは、軍事的挑発以外の何物でもない。それどころか、軍事演習を口実にして大軍を集結させ戦争に突入した事例は少なくないため、まさに北朝鮮にとっては最大の軍事的脅威なのである。

 金正恩政権だけではない。北朝鮮の背後に控える中国にとっても、フォール・イーグルが最大限に不快極まる軍事演習の1つであることは論を待たない。

米軍首脳は中止したくなかった

 このようにフォール・イーグルは、在韓米軍にとってだけでなくアメリカ国防当局にとっても戦略的に極めて重要な軍事演習である。しかしトランプ大統領は、莫大な経費がかかるこの種の軍事演習は中止すべきであるとの考えを表明していた。

 昨年(2018年)には、2月に平昌オリンピックパラリンピックが開催され、また6月には米朝首脳会談の開催も予定されていたため、外交的見地からフォール・イーグルとキー・リゾルブの開催が危ぶまれた。

 しかしながら、米国防当局には中止する考えはなく、時期を調整するとともに規模を若干縮小して実施することとなった。

 昨年11月、マティス国防長官は、「2019年春に予定されているフォール・イーグルならびにキー・リゾルブは継続して実施するが、アメリカ北朝鮮の外交関係の進展に水を差さないように、規模を若干縮小して継続する」との方針を表明した。国防当局にとっても、北朝鮮の非核化はぜひとも実現させたい目標である。そうである以上、北朝鮮にとって最大の軍事的脅威の1つであるフォール・イーグルを若干控えめに実施することは、マティス長官にとっても妥当な方針であったのだ。

 米軍首脳は、米朝交渉が始まっても北朝鮮軍の脅威は決して低下しておらず、米韓合同軍事演習を継続する必要性があると考えていた。

 第2回米朝首脳会談前、在韓米軍司令官を兼ねる太平洋陸軍司令官、ロバートエイブラムス陸軍大将は、「北朝鮮の軍事力の変化は皆無、あるいは極めてわずかである」と連邦議会で証言した。また、エイブラムス司令官は、北朝鮮の軍事システム開発は、アメリカ、韓国、そして周辺地域の同盟国に対して極めて危険な脅威となっていると指摘した。実際に北朝鮮軍がこの冬に実施した冬季軍事演習はこれまでにない大規模なものであった。

 これ以前の連邦議会公聴会でも、エイブラムス大将は「(2018年8月の)米韓合同軍事演習(ウルチ・フリーダムガーディアン)を中止したことによって、在韓米軍の即応性がわずかなものではあるとはいっても低下した」と証言している。したがって、在韓米軍司令部としては、これ以上在韓米軍の即応性が低下し、米韓同盟の抑止力が低下することを防ぐためにも、マティス国防長官が表明したように「フォール・イーグルならびにキー・リゾルブは継続するべきである」とホワイトハウス側に釘を刺したものと思われる。

 しかしながら、そのホワイトハウスでは、すでに2018年末に、ともに海兵隊大将という職歴があり、フォール・イーグルのような大規模軍事演習の価値を熟知しているジョン・ケリー大統領首席補佐官ならびにマティス国防長官が辞任してしまった。そのため、在韓米軍司令官の警告にもかかわらず、「大金がかかる大規模軍事演習は中止」というトランプ大統領のかねてよりの持論が、「北朝鮮の非核化の可能性に水を差す挑発的な大規模軍事演習は差し控えるべきである」という外交的論理と相まって、実現してしまったのであろう。

米韓軍事演習が復活する条件

 もっとも、フォール・イーグルが開始される1997年以前にも、アメリカ軍韓国軍の間では大規模な合同軍事演習が行われていた。「チームスピリット」という米韓合同演習が1976年から93年まで実施され、フォール・イーグル同様に北朝鮮にとっては最大の軍事的威嚇となっていた。しかし、アメリカ北朝鮮との外交関係の進展が期待されたため94年から96年にかけては大規模な米韓軍事演習は中断されたのだ。

 このような前例もあるため、フォール・イーグルが中止されたとはいっても、アメリカ当局が「北朝鮮との真剣な外交交渉は無意味である」という判断を下した場合には、再びフォール・イーグル以上の規模の米韓軍事演習が復活するかもしれない。

 しかしながらチームスピリットが中止された際には、大統領から「莫大な費用がかかる軍事演習は中止すべきだ」といった声が上がったことなどなかった。一方、今回の米韓軍事演習の中止は、少しでも北朝鮮の非核化の気配が存続する限り、そしてトランプ政権が存続する限り、継続される可能性がある。

 いずれにせよ、当面の間は、北朝鮮そして中国にとって好ましからざる大規模軍事演習が2つ消えたことだけは事実である。

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