外環道圏央道など、首都圏における「環状道路」の整備が急速に進展しています。人やモノの流れが変化するなか、それら道路を日本の成長にどう生かすかを考えるシンポジウムを国土交通省が開催されました

20世紀は放射道路、21世紀は環状道路の時代

2018年6月に外環道の「千葉区間(三郷南IC~高谷JCT)」が、計画から半世紀を経て開通するなど、ここ数年で首都圏では圏央道外環道首都高C2中央環状線といった「環状道路」の整備が急速に進んでいます。そうしたなか、今後の日本の成長に環状道路をどう生かすかを考えるシンポジウム「東京外かく環状道路外環道)の役割と整備効果を考える」が、国土交通省 関東地方整備局と産経新聞社の主催で2019年3月4日(月)に開催されました。

「20世紀の道路整備は、江戸時代の『5街道』を意識のなかで引っ張ってきたのか、東京を起点とした放射状の高速道路が優先されてきました。このため首都圏を通過しようとすれば、必ず首都高を経由することとなり、首都高は混雑しました」と語るのは、日本総合研究所会長で多摩大学学長の寺島実郎さん。

2009(平成21)年の政権交代により、『コンクリートから人へ』のキャッチフレーズで(道路整備の抑制が)議論された際、私は『必要なコンクリートもある』と説きました。『優先すべき道路はどこか』と問われ、真っ先に答えたのが『首都圏3環状(圏央道外環道首都高中央環状線)』です。これら道路が『日本の未来へのメッセージ』になると話しました」(寺島さん)

寺島さんによると、世界の有力な都市は例外なく道路が「蜘蛛の巣状」に整備されているのに対し、東京は遅れているとのこと。今後、22世紀を迎えるころに日本の総人口は、ピーク時の半分である6000万人になると予測されているなか、国力を減衰させないために「移動と交流の活発化」が重要だとし、環状道路が大きな役割を果たすといいます。

「圏央道×リニア」で価値観が変わる?

「たとえば5、6年前は、工場の立地について『山梨だけは避けたほうがいい』というのが業界の常識でした。東京方面で発生する渋滞で、物流計画が成り立たなかったからですが、それがいまや見直されています」と寺島さんは話します。圏央道の整備により、八王子JCTから北は関越道経由で新潟方面へ、南は横須賀方面へと、日本海側と太平洋側の主要港湾へ抜けるルートができたためだそうです。

貿易面において、成長著しい「アジアのダイナミズムを吸収する」ためにも、太平洋側と日本海側を戦略的に結び付ける圏央道の存在に物流関係者も注目しているといいます。関東地方整備局長の石原康弘さんによると、圏央道の沿線では大型物流施設の立地も加速しており、たとえば茨城県五霞町では、工業地の地価上昇率で18%と全国1位の伸び率を記録しているそうです。

加えて、2027年リニア中央新幹線が開業すれば、圏央道の沿線である神奈川県相模原市品川駅から10数分、そこからさらに甲府市までも10数分で結ばれ、人の動きが大きく変化。そのなかで、物流と人の動き双方を担う圏央道がさらに存在感を増すと、寺島さんは指摘します。「たとえば品川で1億円のマンションが、相模原ならば半額です。10数分で行けるところの物件が半額になるのですから、ライフスタイルも大きく変わるでしょう」といいます。

外環道は「PR不足」

一方、2018年6月に「千葉区間」が開通した外環道については、関東地方整備局が2019年1月に、「東北道東関東道を行き来する交通の約8割が、都心経由から外環道へ転換」「首都高中央環状線より内側の渋滞損失時間が約3割減少」といった整備効果を発表しています。

シンポジウムに登壇した、ちばぎん総合研究所 専務取締役の松永哲也さんによると、千葉県民が集中している常磐道東関道道のあいだが高速道路でつながり、「松戸から東京ディズニーリゾートまで、従来の半分以下の30分で行けるようになった」といった速達性や定時性の向上、周辺道路の渋滞緩和など、大きな効果を生んでいるとのこと。同じく登壇者のひとりで、自らも千葉県市川市外環道近くに住むリクルートライフスタイル じゃらんリサーチセンターの森戸香奈子さんは、たとえば市川市から見て、千葉県北部の野田市埼玉県内などへ「近場」の定義が広がったと話します。

その一方で森戸さんは、外環道の千葉区間や並行する一般道(国道298号)などで道路の利便性が向上したことが「地元の人以外にあまり知られていないのでは」と指摘。圏央道の開通時を振り返っても、その外側に位置する観光地の盛り上がり期待されたものの、PRが不足しているといいます。

「そこへ行くのにどれだけの時間がかかっていたところ、(圏央道外環道といった)新しい道路の開通でどれだけ近くなるのか、観光地においては、道路とセットでPRするのがいいでしょう」(じゃらんリサーチセンター 森戸さん)

なお、関東地方整備局長の石原さんによると、現在は外環道「東名~関越」区間の建設が進んでいるほか、圏央道の未開通区間である神奈川県藤沢市から横浜市にかけての区間は2020年度、千葉県内の松尾横芝JCT~大栄JCT間は2024年度(用地買収が順調に進んだ場合)に開通予定。また圏央道 久喜白岡JCT~大栄JCT間の4車線化も決定しており、2024年までに同区間の全てで完成の見込みとしています。

外環道の千葉区間(2018年5月、中島洋平撮影)。