コンビニやファストフード店に限らず、多くの職場で増えている外国人労働者。4月の改正入管難民法施行で、労働者を含む日本在住の外国人がさらに増加することが予想されます。日本語の理解に不安のある人も少なくありませんが、東日本大震災のような大災害が起きたとき、彼らにどう情報を伝え、災害に対応すべきなのでしょうか。東京大学総合防災情報研究センター特任助教の宇田川真之さんに聞きました。

「余震に注意」では伝わらない

Q.外国人への防災情報伝達について、課題を教えてください。

宇田川さん「まず、日本語の知識の問題があります。それは単純に『日本語』自体の知識というだけではなく、日本人なら当然知っていることでも、地震がめったにない国から来た人には理解が難しい、ということです。例えば、大地震が起きたら『余震に注意』『頭を守れ』と言えば、日本人なら分かりますが、それをそのまま翻訳しても、『余震って何』『なぜ頭を守るの?』となってしまいます。

次に文化の違いです。例えば、避難所での情報伝達では、イスラム教など宗教上の理由で食べられないものがある人がいます。炊き出しでも『こういう材料で作っている』と説明する必要があるケースも考えられます」

Q.日本語にまだ習熟していない外国人に、どのように防災情報を伝えたらよいのでしょうか。

宇田川さん「多言語への対応ということでは、『地震が発生』『震度7』などの定型文は、気象庁が多言語の文例を作って公開しています。自治体や地域レベルでは、財団法人自治体国際化協会が『災害時多言語情報作成ツール』をホームページで公開しており、『避難場所』『この水は飲めます』といった内容を、複数の言語で用意しておくことができます。このツールにはピクトグラム絵文字)もあり、活用できます。

また、ある程度日本語が分かる人も想定して、『やさしい日本語』を使うことも大切です。『高台』は『高いところ』、『配給』は『食事をここで配ります』というふうに。そうした文例をあらかじめ作っておくと有効です。『やさしい日本語』やピクトグラムは、ユニバーサルデザインでもあります。発達障害の人や知的障害のある人にも理解しやすくなります」

Q.避難場所に関する情報は。

宇田川さん「『○○小学校に避難して』と言っても、その小学校になじみがないと伝わりません。地図で示すのが有効です。地図は土地勘のない旅行者のためでもあります。日本人だって、関西在住の人が東北地方を観光中に大地震に遭ったら、『○○センターが避難所です』と言われても分かりません」

Q.食料の入手方法などはどうでしょうか。北海道胆振東部地震では、地元コンビニのセイコーマートで、停電の中、ガス釜でお米を炊き、おにぎりを作って提供したことが話題になりました。そうした情報をどう伝えればよいでしょうか。

宇田川さん「地域レベルの情報は、その地域の外国人コミュニティーのリーダー的な人を通じて、SNSで発信してもらうのがよいと思います。そのためには、平常時からそうした人を育てておくことが大事です」

「災害弱者」から「協力者」へ

Q.防災情報を外国人にうまく伝えるために、普段から地域住民や行政が心掛けるべきことは何でしょうか。

宇田川さん「災害時だけでなく、平常時から外国人との『共生』を考えることです。ごみ出しのルールや教育のことなど、共有しておくべきことはいろいろあります。その中に防災も含めていくのです」

Q.4月に改正入管難民法が施行され、外国人労働者がさらに増えることが予想されます。

宇田川さん「企業の役割が重要になります。勤務中に地震に遭う可能性もあるからです。地域レベルの取り組みでもそうですが、防災のことを共有する場に、労働者を含む外国人に多く参加してもらうことが大切です」

Q.外国人の防災に関する取り組みで参考になる事例は。

宇田川さん「阪神大震災後、神戸市で放送を始めたコミュニティーFM『エフエムわいわい』(現在はネットラジオ)は多言語での情報発信をしています。ベトナムから来て、地元で暮らしている人が『私はこういうことを思っています』と普段から情報を発信しています。災害時にも、その国の言語でその国の文化も踏まえた情報伝達ができるわけです。

宮城県気仙沼市では、地元のFM局の番組にフィリピン出身の女性たちが出演しています。東日本大震災後の取り組みです。平常時から地域情報を外国人自身が発信することで、災害時も当事者に寄り添った情報提供が期待できます」

Q.外国人は「災害弱者」とみなされることもあります。

宇田川さん「確かに、外国人は情報面から『災害弱者』とみなされることもありますが、言葉の問題などを克服すれば、地域の貴重な『協力者』になります。体はしっかり動くわけですから、日本人が助けてもらうこともありえます。地域の中で、日本人と外国人が共生し、『一緒に災害を乗り越えましょう』となるとよいですね」

オトナンサー編集部

東京大学総合防災情報研究センター特任助教の宇田川真之さん