第91回アカデミー賞長編アニメ映画賞をはじめ数多くの映画賞を圧倒的な強さで席巻してきた『スパイダーマン:スパイダーバース』が、ついに公開となった。本作は、アニメーション表現の新たな時代の幕開けを告げるような作品だ。ブルックリンに暮らす黒人とプエルトリコ系の両親を持つ少年マイルス・モラレスと、中年で無精髭とたるんだお腹のピーター・B・パーカー、こ2人のキャラクターこそ『スパイダーバース』が過去に類を見ないヒーローものとして、一足早く公開されたアメリカにて驚きと歓喜で受け入れられた理由だ。

【写真を見る】名コンビ誕生!?主人公をマイルス役のシャメイク・ムーアとピーター・B・パーカー役のジェイク・ジョンソン

マイルスの声を演じたシャメイクムーアは、バズ・ラーマンが手がけたNetflixオリジナルドラマゲットダウン」でのDJシャオリン・ファンタスティック役で知られている。『スパイダーバース』の制作陣がシャメイク白羽の矢を立てたのは、15年のサンダンス映画祭でのことだった。「僕は日記をつけているんだけど、当時の日記を読み返したらそのときのことが書いてあった。(製作・脚本を手がけた)フィルロードクリストファーミラーが、僕の出演した『DOPE/ドープ!!』がサンダンス映画祭で上映された際に観てくれていたんだ。映画が公開されてからじゃなくて、わざわざサンダンスプレミアで観てすぐに声をかけてくれた。それがとても嬉しかった」とシャメイクは思い返す。

さらに、本作への出演が決まり2Dキャラクターマイルスと対面したとき、あまりにも自分に似ていることに驚いたそうだ。「従兄弟たちはアメリカンコミックファンで、どちらかというと僕はアニメ化されたもをテレビで楽しんでいた。マイルスの姿もアニメで観た記憶がある。最初に観たアニメでは、マイルスの髪はとても短かったんだ。でもこの映画のマイルスは少し長めのウェービーヘアで、まるで誰かが僕の写真を使ってアニメ化したような感じだったんだ!(笑)黒人というだけでなく、マイルスは本当に僕そっくりで、自分自身をアニメのなかで見ているような気分だったんだよ」とシャメイクは明かす。

本作でマイルスと年齢差を超えたバディとなっていくピーター・B・パーカーを演じたジェイク・ジョンソンはこう付け加える。「映画のマイルスと違って、実際のシャメイクはとても堂々としていて、良いオーラを出している男だ。だから、脚本家たちは本作のマイルスを原作の設定よりもシャメイクキャラクターに近づけていったんじゃないかな。特にシャメイクの怖いもの知らずで、周りの人を巻き込んで行くパワーが良かったんだと思う」。

ジェイク・ジョンソンは、ズーイー・デシャネル主演の人気ドラマシリーズ「New Girl / ダサかわ女子と三銃士」で人気を博した役者で、まさか自分がピーター役としてアニメーション映画に関わることになるとは思っていなかったようだ。2人とも声優初挑戦ということもあり、アニメーション映画では珍しく、揃ってアフレコを行うことが多かったという。ジェイクは、「2人でアフレコを行ったことの利点は、ピーターというキャラクターマイルスの対になる存在として受け止めることができたことだね。マイルスとピーターはこの映画のなかで強い絆で結ばれる。もし個別に演じていたら、マイルスとの絆をそこまで強く感じることはできなかったんじゃないかな」と語る。

一方のシャメイクも、ジェイクとの共演をとても楽しんでいたようだ。「ジェイクは自由な演技を好むタイプで、セリフの合間にフリースタイルヒップホップのようにジョークを挟んでくる(笑)。それで僕らはいつも笑わせられていた。特にスパイダースーツを着ているときの演技は…本当におかしかったな(笑)」。

マイルスの母親を演じたローレン・レナ・ベレズは、映画を観た感想を「あらゆる想像を超えていたわ!」と驚きとともに表現する。「この映画ほどインクルージョン(包摂性)を表した映画もないと思う。特に、マイルスのキャラクターは、これからの世界を大きく変えるはずだわ。私はプエルトリコ系で、プエルトリココミュニティ事業をいろいろやっているからというわけではないけど、この映画を観た子どもたちのことを想像してみてちょうだい。マイルスのようなスーパーヒーロの出現は、マイノリティの子どもたちに大きな勇気を与えると思う。『誰でも、僕でもヒーローになれるんだ」って」と興奮冷めやらぬ様子で語った。

マイルスやピーターの他にも、スパイダー・グウェンとなるグウェン・ステイシー(ヘイリー・スタイフェルド)、30年代モノクロ映画の世界からやって来たスパイダーマンノワール(ニコラス・ケイジ)、機械を操る日系人の少女ペニー・パーカーボールのように跳ね回るスパイダーハムなど、『スパイダーバース』にはあらゆるスパイダーマンが登場する。

昨今の映画界でキーワードとなって久しい“インクルージョン”は、アニメーションの世界にも広がっている。「ピーターはスパイダーマンだったころのパワーをまだ持っているけれど、歳をとって身体も衰え、愛するMJには去られ人生の辛い時期を味わっている。スーパーヒーローなのに人間くさい、そんな彼を愛さずにはいられなかったよ。ピーターはマイルスやグウェンら仲間たちと共に闘うことによって、自分がどれだけ“スパイダーマン”を愛していたのかを再認識する。僕が最も惹かれたのはその部分だった。“誰もがマスクを被ることができる”というのは単なるキャッチコピーじゃなくて、この映画の動脈のようなものなんだ」とジェイクがいうように、製作陣とキャストが「君はひとりじゃない。誰でもヒーローになれるんだ」という思いを共有していたからこそ、この映画は多くの観客の心に響いたのだろう。(Movie Walker・取材・文/平井伊都子)

別次元のスパイダーマンが師匠と弟子に!?