昨季後半戦に大失速して優勝を逃したなか、平均年齢は昨季最終節から約4歳若返り

「26.45歳」と「30.82歳」。

 ともにサンフレッチェ広島スターティングメンバー平均年齢だが、前者が今季J1リーグ第3節セレッソ大阪戦のものであり、後者は昨季最終節の北海道コンサドーレ札幌戦のもの。この数字だけを見ても、今季の城福浩監督が表現している思惑が透けて見えるはずだ。

 もちろん、26.45歳というスタメンの若さは、Jリーグで突出しているわけでもない。第3節だけで考えてみても、最も若いのは札幌の24.36歳。続いて清水エスパルスの25.64歳で、大分トリニータは26.18歳。広島は湘南ベルマーレと並んでリーグ第4位の数字である。ただ、26歳台というのは、他の多くのJ1チームの平均値であることも指摘しておきたい。

 いずれにしても、2012年から続いた黄金期に一つの区切りがついたことは間違いない。初優勝を主力として経験した選手はスタメンから消え、サブも含めてもMF清水航平ただ1人。MF川辺駿やMF野津田岳人はジュビロ磐田ベガルタ仙台では主力だったが、広島での実績はまだまだ。開幕から3試合連続でゴールマウスを守っているGK大迫敬介は19歳だ。さらに交代で入った選手のうち、DF荒木隼人はルーキーでMF森島司は東京五輪世代。年間予算中位以下のチームが4年で3度の優勝を果たした奇跡の時期は過ぎ、広島は新たなフェーズに入った。その必要性を痛感させたのが、昨年の歴史的な大失速だったと言える。

 昨年、快進撃を続けながら後半に失速したのは、シンプルな戦術が警戒された時、相手が講じた対策を上回るだけの新しいオプションを呈示できなかったことが大きい。結果を残した戦術を途中で変更することは難しいが、そのなかで新しいパワーを注入する人材の台頭があれば結果は違っていたかもしれないのだ。

「フェアな競争」の中で東京五輪世代が多数ベンチ入りするなど世代交代が進む

 磐田も鹿島アントラーズも、かつてはヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)も、栄華を誇ったチームはやがて、その栄華が華やかであるが故に、厳しさと向き合わねばならなくなる。黄金時代を彩った選手たちも、やがては新旧交代の荒波の中に巻き込まれるからだ。

 まして広島は人材供給クラブであり、人材の長期的な確保は財政面からも難しい。実際、FW佐藤寿人(現・ジェフユナイテッド千葉)に次ぐストライカーとして期待をかけたFW浅野拓磨(現ハノーファー)は、エースの座に王手をかけた状態で欧州に旅立った。2015年のチーム得点王・ドウグラスも中東に行き、現在は清水でプレー。翌年、リーグ得手王となったピーター・ウタカ(現ヴァンフォーレ甲府)も翌年には移籍し、水戸から獲得した塩谷司(現アル・アイン)も日本代表にまで育て上げた結果、中東への移籍となった。

 もちろん、欧州との交流が当たり前となった今、若い人材の流動性が避けられないのは鹿島のような「20冠」のチームですら同様であり、広島だけの問題ではない。しかし、黄金期を築いたが故に人材が高年齢化したまま固定し、若い世代の台頭を許容できなかったという問題を抱えた。それが「平均年齢30歳」という現実につながっていたのだ。

 城福監督は今季、一度も「世代交代」という言葉は使っていない。ただ、彼の言う「フェアな競争」のなかで選択した人材が、フレッシュであることは言うまでもない。もちろん、プレシーズンで明白な結果を出したMF柴﨑晃誠やFWドウグラス・ヴィエイラら30代の人材も重用はしているが、決して悪いとは言えないDF和田拓也やDF水本裕貴をベンチに下げ、GK林卓人の負傷中に抜擢したのは、実績のあるGK中林洋次ではなく大迫だった。途中出場のカードもルーキーのMF東俊希やMF松本大弥、荒木隼人や森島司といった10代から20代前半の選手たち。ちなみに第3節、東京五輪世代が18人中4人もベンチ入りを果たしているのは広島だけだ。

ペロトヴィッチ監督時代の方向性を感じさせる城福監督のチャレンジ

 若い世代だけを起用するだけが、今季の広島の特徴ではない。戦術も大きく方向転換を行っている。フォーメーションを3-4-2-1に変え、ボールを握ることをコンセプトに掲げた。もちろん「ボールを握る」と宣言してすぐにポゼッション率が60%までいけるほど、簡単ではない。第1節の対清水戦では相手を上回ったが、磐田、C大阪戦とボールは握られた。だがそれでも、攻撃に特徴のある松本泰志と川辺駿がインテンシティーの高い守備にチャレンジし、野津田岳人が走って走って攻守のスイッチを入れる。美しいコンビネーションと言うにはまだまだだが、その一歩手前までは行けるようになってきた。

 城福監督就任まではなかなかできなかった「ボールを奪われた瞬間にプレスをかけてボールを奪い返す」というアグレッシブな形は定着し、C大阪戦ではその形から相手のミスを誘ってゴールも取った。決してチャンス量産という試合はなく、攻撃はまたまだ発展途上だ。しかしそれでも、3試合で勝ち点5を積み重ねた。AFCチャンピオンズリーグAFC)の広州恒大戦は敗れてしまったが、ボール支配率は60%近くまで記録し、シュート総数・枠内シュート・パス総数・パス成功率でも、チャンスの数でも上回った。広州恒大は広島のパス回しによって動かされ、疲弊し、足をつる選手が続出していたのである。

 C大阪戦ではボールをインタセプトした後のプレー選択が上手くいかず、相手に取り返されるシーンも増えた。ビルドアップが安定せず、試合の後半はボールを捨てるプレーも目につき、川辺は「チームとしての課題」と指摘する。

 城福監督も「攻撃でのスピードアップのタイミングが少し早過ぎた。もう少し、相手のアタッキングサードのところまで、つないでボールを運べたと思います。守りに関してはよくやってくれたけれど、相手陣内で時間を費やすことに関しては、次の課題」と言及した。結果を出しながらの改革は、非常に難しい。しかし、選手にも監督にも、それをやりきろうという覚悟が見える。それがC大阪戦での「割り切った」勝利につながった。

 城福監督がやろうとしていることは、広島にとっては2006年6月にミハイロ・ペトロヴィッチの監督就任時にやったことと、質はやや違うとはいえ、同じ改革なのである。当時、ペトロヴィッチ監督はベテラン選手をレギュラーから外し、MF青山敏弘やMF柏木陽介(現・浦和レッズ)を抜擢。翌年にはDF槙野智章(浦和)を起用して選手たちの若返りを進め、極端なまでのポゼッション志向にサッカーそのものを変革した。城福監督も足元の技術に優れた才能を抜擢し、年齢や経験に左右されない選手起用を徹底する。「その結果として若手が多く試合に出ている」(城福監督)こともまたペトロヴィッチ監督の方向性と似ている。

一度は伝統のポゼッションサッカーが瓦解したなか、再び「ボールを握る」ことに着手

 ただ、同一監督の下で、「(結果としての)世代交代」と「戦術変更」という二つの大改革に着手されるのは前代未聞。少なくとも、広島の歴史においては前例がない。「ポゼッションサッカーは広島の伝統」という見方もあるが、2017年にその方向性は一度、瓦解した。そこからもう一度、「ボールを握る」ことに着手する。巨大なチャレンジであると言っていい。

 そのチャレンジが成功するかどうか、それはまだ分からない。青山敏弘の復帰の目処が立たたず、MF稲垣祥やGK林卓人もようやくチームトレーニングに参加した段階で「(復帰は)慎重に考えたい」と指揮官が言うレベルだ。

 野津田岳人やMF吉野恭平、川辺駿や松本泰志、大迫敬介らU-24組がチームの屋台骨を支え、そこに東俊希や松本大弥、荒木隼人、森島司といった若者たちがチャンスを伺うなかで勝ち点も積み上げ、ACLも戦い、戦術の練度も上げていく必要はある。簡単なことではない。ペトロヴィッチ監督も2年かかった事業である。

 しかし、この改革をやり続けていけば、広島に明るい光が射し込んでくる。今はまだその夜明け前。暗闇の中にほんの少し、朝日が差してきた状況なのだ。(中野和也 / Kazuya Nakano)

サンフレッチェ広島が挑む大改革とは?【写真:Getty Images】