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超小型人工衛星による地球観測インフラで産業が変わる

 アクセルスペースは、超小型の商用人工衛星を開発している宇宙ベンチャーだ。特定事業者向けの専用人工衛星ビジネスに加えて、新たにAxelGlobeプロジェクトの展開を進めている。専用人工衛星ビジネスは、2008年の創立以来、ウェザーニューズ東京大学JAXAなどへ計4機の専用人工衛星を提供してきた。

 一方で、2015年スタートしたAxelGlobeプロジェクトは、数十機の超小型人工衛星を打ち上げて、世界中を毎日観測できる新しいプラットフォームの構築を目指すものだ。2018年12月27日にその一号機打ち上げに成功。現在は初期運用中で、2019年春頃からのサービスインを目指している。さらに2020年は追加で2機を打ち上げ、その後も2022年の完成を目標に機数を増やしていく計画だ。

 「地球観測衛星はたくさんあるが、高頻度に世界中を見られるものはまだ普及していない。これまでの衛星画像は、安全保障や軍事分野での利用に偏っていた。人工衛星コストが下がり、撮影頻度が上がれば、世の中で起きていることが時系列的に捉えられるようになる。民間での利用が進めば、ビッグデータのひとつとして、いろいろな産業で新しいビジネスが生まれるきっかけになるのでは」と中村氏は期待する。

 従来の衛星画像は、解像度や枚数で料金が決まっていたが、小型衛星を使って高頻度に撮影するようになれば、ビジネスモデルは変わってくる。衛星画像の提供1つでも、買い切り型ではないサブスクリプションでの提供も考えられる。あるいは、画像の解析から得られる何らかのデータを販売することになるかもしれない。すると、どのような解析をするかによって、課金の体系もまた変わってくる。

 世界中を毎日撮影すると、当然データ量は膨大になる。10年前に同じことをやろうとしてもデータを保存するストレージをオンプレミスで用意することは現実的ではなかったが、今ならクラウドがある。さらに、数年後にはGB単価のストレージ単価は今よりもずっと下がっていると予測される。価値ある情報の抽出に関しても、ディープラーニングなどのAI技術の発達により、解析自動化も現実的になりつつある。

 「あらゆる産業で起こっている技術革新、ビジネス革新と同様、テクノロジーの進化によって新しいビジネス形態を考えられるようになってきたのは大きな変化。宇宙も例外ではない。低コスト開発が可能な超小型衛星や最新のIT・AI技術の積極的な導入によって、リーズナブルなサービスとして提供できるようにしたい」と中村氏は語る。

ブラックボックス戦略から、IPASで新たな知財戦略の策定へ

 AxelGlobeプロジェクトによって新たな衛星活用の可能性が生まれたことで、知財への意識も変わってきた。

 「人工衛星はコモディティではないので、以前はブラックボックス戦略のほうが合っていた。しかし、AxelGlobeプロジェクトの開始によって、いろいろな人が直接触れるサービスになったことで、権利を押さえる必要が出てきました」(中村氏)

 たとえば画像や情報を一般のユーザーに提供する場合、UIなどの仕組みが必要となる。さらに衛星画像から駐車場に駐車している車の台数を抽出するサービスを提供するとしたら、解析のアルゴリズム、機械学習の学習モデルなどの権利も守る必要があるかもしれない。知財について社内で検討を始めた頃、特許庁の知財アクセラレーションプログラムIPAS)の募集があり、第1期に採択された。

 「宇宙ビジネスはまったく新しい分野。IPASのメンタリングでは十分に面談時間をとってもらい、まずは我々の事業を理解してもらうところから、お互いにクリアになるまでディスカッションを重ねました。何に新規性があり、権利として押さえる価値があるのかは、開発している側にとっては必ずしも明らかではありません。それらを知財の専門家の目を通して、的確なアドバイスがもらえたのはありがたかったです」

 アクセルスペースのメンターを担当した弁護士・弁理士の内田 誠氏(iCraft法律事務所)は、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(経済産業省)などの策定にも関わっている専門家だ。最新のAI/機械学習に明るく、これからの新しいサービスを想定した事業戦略についてもアドバイスが得られたそうだ。

 「アドバイスを受けて、複数の特許を出願しました。また、知財だけでなく、さまざまな面でサポートをいただきました。例えば、従来使用していた衛星画像の使用許諾契約は、今の時代にそぐわない部分があるとの指摘を受け、最新のIT産業の知見をうまく取り込んだものに改訂しています」

量産体制へ向けて、ハード技術の知財戦略も検討

 AxelGlobe実現と並行して、今後は人工衛星の量産も視野に入れている同社。今までは完全に内製だったため、ハードなどの技術についてはブラックボックスで済んでいたが、パートナー企業に量産を委託する場合、新たな権利保護も考えなくてはいけない。

 「量産といっても我々が一度につくるのは数十個。専用のラインを常に動かすほどの数ではないので、必要なときだけラインを組み立てて、終わったらばらし、違う衛星の製造ができるような、フレキシブルな“セミ量産”の体制がつくれないか、パートナーと相談している段階です」(中村氏)

 当面は国内のパートナーに委託する予定。理由は、宇宙関連技術にはそもそも輸出規制があることと、セミ量産の手法が確立するまでは、パートナーと密にコミュニケーションをとる必要があるためだ。量産体制を確立させたのち、将来的に海外でライセンス生産する可能性についても検討しており、そうなればまた新たな特許戦略が必要となってくる。

 また別の視点では、将来的に衛星画像の撮影頻度が増えてくれば、個人情報保護の問題も発生するかもしれない。展開によっては、知財以外の専門家へ相談していく必要もでてくるだろう。

 「現時点では特許を押さえるべき部分は限られていますが、IPASに参加して専門家の方とディスカッションしたのはいい経験になりました。次に新しい課題が出てきても、誰に、どのように相談すればいいのか、といった勘どころが蓄積できました」

 第1期のIPASは、2019年3月14日のデモデイでひと区切りとなるが、今後も同じ専門家と相談しながら進めていきたい、と中村氏。

 「投資家から見て、知財の取得は、すごくポジティブに受け取られます。これまでは、ブラックボックス戦略を理解してもらっていましたが、AxelGlobeでは通用しなくなってくる。いいタイミングで投資家の方に説明できる知財戦略が立てられました。また、海外には同業他社もいるなかで、足元をすくわれることがないよう、守るべき権利は、しっかりと押さえていきたいです」

 コストの高い海外出願に関しては、東京都の助成制度を利用しているとのこと。外国特許出願の費用は、こうした補助金や助成金制度をうまく活用するといいだろう。

 次年度のIPASは、2019年4月~5月頃の公募を予定。知財戦略を何から始めればいいのかわからない、というスタートアップは、ぜひ活用してはいかがだろうか。

地球観測インフラ展開で変化したアクセルスペースの知財意識