2019年3月9日から、東京・よみうり大手町ホールにて『ソーホー・シンダーズ』が上演されている(同月21日まで。その後、各地を巡演)。本作はジョージスタイルズとアンソニー・ドリュー(ミュージカルメリー・ポピンズ』の追加音楽など手掛けたコンビ)が生み出したミュージカルロンドンのソーホーを舞台にした現代版“ボーイズ”シンデレラ。政治、性的スキャンダルなどの問題を織り交ぜながらも、「真実の愛」を爽やかに描いていく。本作で主人公ロビー(林翔太/ジャニーズJr.)の恋人・ロンドン市長選立候補者のジェイムズプリンス役を演じるのは松岡充。稽古真っ最中の松岡と演出を務める元吉庸泰に本作の見どころを聞いた。


――この『ソーホー・シンダーズ』という作品をやりませんか?と持ちこまれた時、何を考えましたか?

元吉 シンプルな話だけにいろいろやりようがあるとは思いました。が、もう一つ、シンプルゆえにやっぱり違うリージョン……人種や階級、生き方の人たちの問題が出ているので、単純にハッピーミュージカルにしてしまうのも何か違う気がして。例えすごくショーアップしたとしても観る人の心に何も残らないんじゃないかっていう難しさを最初考えましたね。

――いろいろな海外作品の日本版を作る演出家の皆さんがおっしゃるんですが、日本人には分からない事が多々あり、そこをいかに日本人向けにカスタマイズするか、が翻訳劇の肝だと。本作に関してこの点はいかがですか?

元吉 これは典型的に曲が先行しているミュージカルだと思うんです。台本があってそこに曲を載せたのではなく、音楽の流れが最初に全部あってそこにストーリーを乗せているので、結果的に書かれてないことが非常に多いんですよ。例えばあるシーンで、急に「気持ちが変わった」という一言だけで、その理由が全く書かれていないところがあるんですが、観る側としては「え、それってどうなの?」と思ってしまいます。ただ母国で上演されたものを観ると、あまりそういうところは気にしないでやっていて(笑)日本人は物語を凄く大切にする人種。そういうところに違和感を持つと思うので、僕らがきちんと話を理解して準備をしないと、と思っています。

――松岡さんはこの役を受ける時に感じた事は? 作品の感想と共に聴かせてください。

松岡 初めは下訳を読ませて頂いたんですが、「ただ欲望を叶えた二人の話?」と思ったんですね。キャッチコピーとして、<男性版シンデレラストーリー>とありますが、いわゆるシンデレラストーリーって、元々光る物を持っていたが実現できる環境になくて苦労に苦労を重ねてようやく幸せになりました!だと思うんですが、そんな風に思えなくて。「え? たなぼた? たなぼたでシンデレラストーリーだぜ! イエーイ!」という話に一瞬見えたんです(笑)。このまんま演るんだったら、ロビーとジェイムズはズルくね? ロビーの親友ヴェルクロやフィアンセのマリリンがかわいそうじゃん!って思えて。

そして、この作品にはイギリスという国の階級社会も反映されつつ、日本でも最近ニュースで見るようになったLGBTというテーマも加わっていて。表現活動をしていく身としてLGBT問題を避けるってことは、デコレーションケーキの上のクリームだけをさらうようなもの。そのケーキにはどんな土台があり、味が付いていて出来上がっているかを感じていないとアーティストとしては空っぽになってしまうのではと思って、僕なりにLGBTに関して調べて勉強してみました。とはいえ自分が向き合うのはかなり重い問題ですが。今、僕は台本から、「ジェイムズプリンスとは何者か」を考え、読み解こうとしています。元吉さんがおっしゃったような「書かれてない事」を積み上げている日々です。

――ちゃんと掘り下げて作らないと上辺で終わってしまいかねない作品だと。

松岡 そうですね。例えば、男二人のカップルがいちゃいちゃしているよりは、男性と女性がいちゃいちゃしている方が受け入れやすいと思うんです。ですが、年齢、性別、国籍、階級すべてを乗り越えて人を愛する事はとても尊く純粋な事であり、相手を思う事で自分も幸せになれる、それがどれだけ素晴らしい事なのか、というテーマがある作品なんです。この事を現実のものとして舞台上で扱うなら本気で考えて違和感がないようにしなければならないと思うんです。

――そうなると台本に情報がなさすぎる状態での役作りは本当に難しいんでしょうね。

元吉 そう、正解がないんです。言い方を変えると正解が無限にありすぎる。

松岡 この問題は人によってと捉え方、正解だと思うこと違うからね。

元吉 未だに日本でもどうしていく事が正解なのか、答えが出ていませんからね。また、この作品を上演する場合、海外なら人種のバランスを取らないとならないでしょうが、日本でやる場合「ブラインド・キャスティング」(白人以外の人種が白人役をやるなど、本来の設定以外の人種が演じること)になるので、そこに新たな面白さが出せるはずなんです。

テーマは非常にシンプル。あとはそこにくっついてくる様々な事をどう表現し、お客様に受け取っていただきたい形にするか。センシティブに作っていく必要がありますね。作品に登場するロビーとヴェルクロは被差別地域の住民。その設定がまず分からないとロビーの心情が理解できないところがあると思うんです。でもそこがクリアできれば物語をもっとすんなり楽しんでいけると思います。いかに精密に作り込むか、芝居、美術、衣裳、セット、そしてジェイムズとのふれあいもしっかり考えて作り込んでいこうと毎回稽古の度に考えています。

――その稽古場の様子はいかがですか(※この取材をしたのは、公演前の稽古期間中でした)。

元吉 僕は充さんと相談を繰り返しながら進めているんですが……本当に楽しいんですよ! こっちが見せ方についてリクエストするとすぐ充さんから「こういうのはどう? こうすると面白いよね」って言ってくれるんですが、その内容がまさに「それ! それです!」なんです(笑)。やっぱり「見せる」ことは超一流だなあと。歌についてもまさにジェイムズになって歌ってくれるんです。まだ稽古は途中ですが、歌ったり演じたりしているとジェイムズのなかでくすぶっているものが何かを伝えてくれるから、じゃあ周りの演出はこうしようかと、まだ足りてないものに気づかされるんです。

松岡 僕は演出家のスタイルにまずは合わせたいと思ってます。演出家とは、その現場では神の位置にいなければならない人だと僕は思っているので、僕ら出演者の目、客席の目、原作者の目などいろいろな目線で考えていかないとならない立場。僕らがぽんぽんとフラッシュアイディアを投げても「そのアイディアはいいかもしれないけど、それを取り入れると全部に影響するから」という事も分かっているので、自分の意見を言うかどうかはケースバイケースです(笑)。元吉さんは言いやすい関係を作ってくれる人。僕ら演者が言った話の中に何かの「かけら」があるかもって考えてくれる人なので、それならば僕らももっともっと、と一生懸命考えようとするんです。

――この作品のもう一つの魅力は、素晴らしい音楽だと思います。音楽については今の時点でどう攻略しようと思っていますか?

松岡 本当に素晴らしい楽曲が揃っていると思います。美しいメロディー日本語を無理なく乗せていくところが鍵だと思うんですが、こと訳詞に関しては大信頼を置いている高橋亜子さんにやっていただいていますので、全く問題ないと思います。そして、音楽監督の大嶋吾郎さんに、僕もいろいろ意見を言わせていただきながら、時計の部品を少しずつ少しずつ詰めていくように音楽の面でも繊細な作り方をしています。そう簡単にはいかないと思いますし、男女、男男、女女など様々なハーモニーを作っていくのでそこをどう詰めていくかがこのカンパニーテーマの一つでもあると思いますね。

元吉 この作品って本当はアンサンブルがあと10人くらい必要なんですが、メインキャストの10人だけで歌い繋いでいく挑戦的な試みをしています。本来の人数が持つエネルギーを10人でどれだけ出せるかがこれからの課題ですね。

――基本的な事に触れたいんですが、何故ジェイムズはロビーを愛するようになったんでしょう。書かれていない部分を埋めている松岡さんとしてはどう思いますか?

松岡 ジェイムズが学生時代に情熱を注いでいた事を辞めた後、心にぽっかり穴が開き、それでも周りの人に支えられ、市長選というやりがいを見つけていく。幸せなはずなのにどうしてもその心の穴が塞がらない。そこへ生まれた階級も育ちもまるで違うロビーが現れ、彼と一緒にいる時だけは心の穴が塞がっているんでしょうね。自分より辛い思いをしながら生きてきたはずのロビーによってジェイムズは救われてるんじゃないかな。彼を愛する事で自分も心の自由を手に入れられるんじゃないか、って。まだまだ稽古序盤なので、その捉え方も変わっていくかもしれませんが。

――そのロビー役を務める林さんはどんな存在ですか?

松岡 素晴らしいキャスティングだと思います。翔太は、本当に珍しいキャラクター……ダウニーみたいな優しさが漂ってます(笑)

元吉 ああ、いい匂いがしますねえ。柔らかくて……。

松岡 洗い立てのお日様の香り! そんな人がこの世にいるんだという事をこの稽古中に知る事ができました(笑)。29歳でこれだけ純粋な人はなかなかいないと思います。

――そこにいてくれるだけで癒されそうですね! では最後に本作の見どころや魅力を教えてください。

元吉 つい先日、稽古休みの日にふと思ったんですが、『ソーホー・シンダース』って「人間関係ガイドブック」なのかなって。ジェイムズとロビー、ジェイムズとマリリンの関係を見ているうちに「あ! そうだよね!」と腑に落ちる事が多いんです。そんな事を考えていると稽古が楽しいんです。

松岡 作品としては、これまでに見た事も聴いた事もないような突飛な空想の世界の話ではなくのですが、「そういう人、いたな」「私もそうだった」「あの人もあんな風に悩んでいたなあ」って身近な現実にリンクしていくシーンが多いと思います。だからこの舞台を観終わった後には相当な確率で登場人物の「誰か」にハマると思いますよ!

取材・文・撮影=こむらさき

松岡充、元吉庸泰