戦車の砲弾は基本的に銃弾などと同じ構造で、通常の砲弾の場合、射撃後には薬莢が残ります。演習などでは連続して射撃する姿も見られますが、狭い砲塔内で空薬莢はどう処理しているのでしょうか。

撃てば溜まる、それが「薬莢」

「戦車」とひと口にいっても、厳密には、機関砲を搭載している車両はたとえ装軌式(いわゆるキャタピラー)であっても、戦車とは呼ばれません。「戦車」とは装軌式で、分厚い装甲を持ち、なおかつ敵戦車や敵兵が立てこもる塹壕や陣地を撃破するための大口径砲を搭載していることが必須です。

「戦車砲」といっても、何ら特別なものではなく、弾(砲弾)が発射され、目標に向かって飛翔する仕組みは、拳銃やライフル(小銃)と基本的には変わりません。

砲弾そのものの構造としても銃弾と同じで、弾の後ろに装薬を詰めた薬莢(やっきょう)があり、この装薬が燃えることで弾が放たれます。そして薬室(砲身の、砲弾を装填する部分)に残った薬莢は排出され、次の弾が装填されます。ちなみに、この際に排出された空の薬莢は「撃ち殻薬莢(うちがらやっきょう)」と呼ばれます。

この「薬莢」ですが、弾のサイズが小さい銃弾であれば、数十発撃ったとしても、大して気になるものではないでしょう。では、大口径戦車砲の薬莢の場合はどうでしょうか。

戦車砲は装甲化された砲塔に据え付けられており、薬莢を排出する砲尾部は「戦闘室」と呼ばれる砲塔内部にあります。現代の戦車は、第2次世界大戦時の戦車に比べ車体も砲塔も大きいため、内部も空間的に余裕があると思いきや、実はそれにともなって装甲も分厚くなっているほか、搭載砲が大型化したことによって砲尾部も巨大化し、搭載弾薬も当然、大きくなり、さらに無線機や電子装置なども多数搭載し、非常に窮屈です。

そうしたなか、戦車砲を射撃するたびに次々と排出される大きな撃ち殻薬莢は、当然、砲塔内部に溜まります。排出された直後の薬莢はとてつもなく熱いため、もともと砲弾をストックしていたラックに戻すことも、すぐにはできません。第2次世界大戦中の逸話などでは、砲塔内部に薬莢がゴロゴロ転がっているなか、敵戦車に射撃し続けた、などという話もあるほどです。

薬莢を投棄するさまざまな方法

戦闘に邪魔な撃ち殻薬莢は車外へ投棄するだけなのですが、たとえば陸上自衛隊が装備する74式戦車の、砲塔上の装填手ハッチ(砲塔上部左側のハッチ)には、真ん中に小さいハッチが備えられています。これは「薬莢投棄窓」と呼ばれ、戦闘中に装填手ハッチを閉じた状態でも、この投薬窓から薬莢を投棄することができます。また、たとえばスウェーデン軍が装備していたStrv.103戦車(通称「Sタンク」)は射撃後、薬莢を車体後部から車外へ自動排出する仕組みを有していました。

しかし、ある新技術の登場で、それまでの撃ち殻薬莢の処置方法は劇的に改善されました。その新技術とは「焼尽薬莢(しょうじんやっきょう)」です。これは文字通り、砲弾の発射時に薬莢そのものが装薬とともに薬室内で燃え尽きるもので、弾底部だけが排出されます(そのため厳密には「半焼尽式」)。排出された弾底部は砲尾部の下に設けられた専用の容器などに落下し、ある程度、溜まったらまとめて投棄します。

そのなかでも特異な例として、ロシアT-72戦車とその派生型は、砲塔後部上面に小型ハッチがあり、砲の射撃後、自動でそのハッチから弾底部を投棄する仕組みになっています。砲塔が小さく、戦闘室が非常に狭いロシア製戦車ならではの機構といえるでしょう。

現在、世界各国の軍隊が装備する主要な戦車は、おおむね第3世代(レオパルト2チャレンジャー2T-90など)から第3.5世代(レオパルト2A6、ルクレールM1A2SEPなど)と呼ばれていますが、そのほとんどが焼尽薬莢の砲弾を使用しています。

陸上自衛隊では、74式戦車の後継で第3世代にあたる90式戦車の120mm砲、および、10式戦車の120mm砲がこのタイプの砲弾を使用しています。そのため、90式戦車10式戦車のハッチには、74式戦車に備えられていた投棄窓のようなものはありません。

演習や訓練ではポイポイ投棄するの?

自衛隊の射撃訓練における、銃砲弾の管理の厳しさはよく知られています。射撃前にまず弾数を確認して受領し、撃ち終わった後には返納する薬莢の数をまた確認し、両方の数が完全に一致しなければなりません。1発でも足りないとなれば、発見されるまで捜索になります。

そのため実際のところ、陸上自衛隊の戦車部隊が、訓練する際に薬莢を投棄することはありません。射撃訓練では、その訓練内容に必要なだけの砲弾を搭載し、乗員交替や訓練の区切りのさいに薬莢を戦車から下ろし、弾薬を扱う係の隊員に一旦返納します。

また、実戦を模した大規模演習などでは「バトラー」と呼ばれる模擬交戦装置、もしくは空包を使用します。空包は真ちゅう製の筒の中に火薬を充填したもので、発砲(といっても弾は飛び出しません)後は砲弾の薬莢と同様、撃ち殻が残りますが、これは訓練終了まで砲弾ラックに収めておきます。弾の出ない空包とはいえ、弾薬と同様に扱われ、これもきちんと返納しなければなりません。

自衛隊がタイムスリップする映画のように、演習だからといって必ず実弾を持っているとは限らないのです。

ちなみに、これまで薬莢が溜まらないよう工夫されている実情を述べてきましたが、例外もあります。74式戦車の射撃訓練では、1回の射撃機会中(射撃レーンに進入中)に数回の射撃を行うことがあります。この間に薬莢を回収し、砲弾ラックに格納することはできません。

理由はふたつあります。まず、上述したように薬室から排出された薬莢は、素手で触れると火傷をするほど非常に熱くなっているからです。装填手は手袋を着用していますが、それでも熱を感じます。そのため訓練中ということもあり、あえて転がしておき、熱が冷めてから回収するためにそのまま放置するのです。

もうひとつは、薬莢の落下位置によっては装填手が砲尾部の後方に入る可能性があるためです。砲弾を発射すると、砲尾は瞬間的に後方に下がり、また元に戻るといった動きをします。これを「後座」もしくは「復座」と呼びますが、後座の瞬間に砲尾部後方に装填手が手足や身体を入れた場合、後方に下がった砲尾と砲塔内側に挟まれて重大な事故となるため、射撃訓練のあいだは安全管理上、いかなる理由であれ、砲尾部後方に装填手が入ることは厳禁とされています。

このように、訓練の内容によっては薬莢を戦闘室底面に転がしたまま続行する場合もあるのです。

74式戦車に砲弾を積み込むところ。飛んでいくのは濃緑色の弾頭部のみ(月刊PANZER編集部撮影)。