筆者は「ビジネスやプライベートで相手を巻き込む」スキル演習を実施していますが、プログラムの中には、親子で一緒に取り組んでもらうものもあります。参加者からの相談で多いのが「親子のコミュニケーションが取りづらくなった」「子どもが言うことを聞かなくなった」「親子断絶の兆しがある」という類いのものですが、これらの質問は例年、3月になると一気に増えます。そうした「親子のコミュニケーションギャップ」を解消するスキルについて、ご紹介します。

気楽に構える子どもと、心配する親

 親子での参加者に聞いてみると、次のような事情があることが分かってきました。

・子どもが春休みに入ってのんびりしている一方、親は年度末で何かと忙しく、子どもに厳しくあたってしまう。
・学年の区切りで子どもは解放感に満ちているが、親は新年度のことが気になり、話がかみ合わない。
・春休みは宿題が少なく、子どもは伸び伸びしているが、それが親の懸念を高め、いつも以上に強い口調で「勉強しなさい」と言ってしまう。
・親が子どもに厳しく言えば言うほど、子どもは意欲を低下させて、逆効果になってしまう。

 どうやら、子どもの置かれた状況と親の気持ちのギャップが広がり、「気楽に構えている子どもと心配している親」との間でコミュニケーションがかみ合っていないという構造が見えてきました。こうした状況が慢性化していくと、親は「子どもは反抗期だからしょうがない」、子どもは「親には何を言ってもしょうがないので聞き流そう」という諦めの境地に至ってしまいます。

 しかし、諦める必要はありません。私は20年来、演習を実施する中で、たった一つのスキルさえ身に付ければ、親子のコミュニケーションを格段に改善できる方法を見つけました。たいていの場合、2時間あれば身に付けることができ、すぐに繰り出し、実践できるようになります。その方法とは「モチベーションファクター」を見極めるスキルです。

「モチベーションファクター」に合ったフレーズがカギ

「モチベーションファクター」とは、個人の意欲を高める要素のことをいいます。十人十色というように人それぞれ異なりますが、私は「モチベーションファクター」を2分類の志向=「牽引(けんいん)志向」「調和志向」と、6分類の要素に分けています(※表参照)。

 6分類の要素のうち、「目標達成」「自律裁量」「地位権限」で意欲が高まりやすい人は「牽引志向」が強く、「他者協調」「安定保障」「公私調和」で意欲が高まりやすい人は「調和志向」が強いという関連性があります。演習参加者は、それぞれの志向や要素にだいたい均等に分かれ、2分類の志向の内訳は「牽引志向」51.4%、「調和志向」48.6%とほぼ半々です。

 例えば、独自の考えや方法、タイミングで取り組むことで意欲が高まる子どもは「自律裁量型」、心配事を解消することで意欲が高まる子どもは「安定保障型」といえます。子どもの「モチベーションファクター」を見極め、それに合ったフレーズで指示・命令を繰り出せば、子どもの意欲は高まり、巻き込みやすいのです。それに合ったフレーズを繰り出すときのキーワードも表にまとめました。

 少し詳しく説明しますと、「自律裁量型」の子どもに「あれをやったか、これをやったか」と親切心から細かな確認をしてしまうと、モチベーションが低下してしまいます。「工夫してやってみたか」と聞けばよいのです。一方、「安定保障型」の子どもに「工夫してやってみたか」と同じフレーズを繰り出しても、心配事は解消されず、意欲は高まりません。

 親が「牽引志向」だからといって、子どもも同じとは限りません。自分の「モチベーションファクター」に基づくのではなく、相手の「モチベーションファクター」によってフレーズを言い換える、たったそれだけのことで、コミュニケーションギャップを一気に解消することができます。なお、この手法は親子間だけでなく、夫婦間や友達同士、上司と部下の関係でも役に立ちます。

モチベーションファクター代表取締役 山口博

「子どもが言うことを聞かなくなった」などの相談が増える3月