大阪ミナミの繁華街・難波や近鉄線方面への乗り入れを実現させた「阪神なんば線」の全線開業から10年。大阪の梅田と神戸を結ぶ都市間輸送に徹してきた阪神電鉄は、阪神なんば線の整備でどう変化したのでしょうか。

近鉄の特急電車が阪神の駅を出発

阪神電鉄阪神なんば線が、全線開業からまもなく10年を迎えます。これに先立つ2019年3月17日(日)、阪神線から近鉄線に直通する10周年記念貸切列車ツアーの第1弾が実施され、その出発式が阪神本線神戸三宮駅で行われました。

神戸三宮駅に入線した貸切列車は、普段の直通運転では使われていない近鉄の特急車両(22600系電車)。阪神本線阪神なんば線を走って近鉄奈良線に乗り入れ、唐招提寺(奈良市)がある近鉄橿原線の西ノ京駅まで走ります。また、4月27日5月26日にも、神戸三宮駅伊勢神宮三重県伊勢市)に近い宇治山田駅を結ぶ貸切列車が、近鉄の特急車両で運転される予定です。

阪神なんば線は、阪神本線尼崎駅からJR大阪環状線西九条駅を経て、近鉄奈良線大阪難波駅までを結んでいる鉄道路線です。1964(昭和39)年までに尼崎~西九条間が西大阪線として開業。2009(平成21)年3月20日には大阪難波駅まで延伸され、現在の線名に改められました。

これにより、阪神線の各駅から大阪ミナミの繁華街である難波に直接行けるようになり、阪神線の利用者も増えました。阪神電鉄全体の旅客輸送人員は、1991(平成3)年度の約2億4900万人をピークに減り続け、2004(平成16)年度は約1億7700万人まで落ち込みましたが、阪神なんば線の全線開業後は増加。2017年度は約2億4200万人と、ピーク時と同じレベルまで回復しました。

また、阪神なんば線の延伸にあわせ、通勤電車による近鉄奈良線との相互直通運転も開始。これにより、近鉄奈良~神戸三宮間の所要時間も短くなっています。直通運転の開始前は約1時間半かかっていましたが、直通開始後は10分ほど短縮。途中で列車を乗り換える必要もなくなりました。

今後の課題は「直通拡充」と「ホームドア」

阪神と近鉄の関係者によると、相互直通運転で神戸と奈良を行き交う訪日外国人観光客が増えたといいます。このほか、沿線住民の“距離感覚”も変えたといえるでしょう。

たとえば、武庫川女子大学(兵庫県西宮市、最寄り駅は阪神の鳴尾駅)の2010(平成22)年度の入試では、奈良県内からの受験生が前年度に比べ36%増えました(2010年3月20日付け読売新聞大阪朝刊)。阪神なんば線の全線開業を機に、所要時間が短縮された阪神線方面の大学に通おうと考えた奈良の受験生が増えたことをうかがわせます。

今後の課題としては、直通運転の拡充が挙げられます。近鉄特急の阪神線への乗り入れや、阪神線と相互直通運転を行っている山陽電鉄も含めた3社直通の構想が以前からあり、仮に3社直通が実現すれば、山陽電鉄山陽姫路駅から近鉄名古屋駅までの約280kmを、乗り換えなしに私鉄の列車だけで移動できるようになるかもしれません。

これらの構想は実現していませんが、2014(平成26)年からは、近鉄の特急車両を使った阪神線と近鉄線の直通貸切列車ツアーが行われるようになりました。阪神と近鉄の担当者によると、神戸から伊勢方面への観光ツアーや、名古屋発の甲子園観戦ツアーなど、これまでに約80回のツアーが実施され、約9500人が参加したといいます。

阪神と近鉄の車両は車体の長さやドアの位置が統一されておらず、ホームドアの設置が難しいことも、大きな課題のひとつです。近鉄は現在、下に沈む方式の新型ホームドアを研究中。この方式が実用化されれば、ホーム上にドアの収納箱や支柱を設置する必要がなく、車両のドア位置がバラバラでも対応できます。

こうした構想や新技術が「次の10年」で実現することになるのかどうか、今後の動きが注目されます。

阪神なんば線の全線開業10周年を記念した貸切列車の出発式(2019年3月17日、草町義和撮影)。