古巣C大阪戦、興梠から譲り受けたPKを冷静に沈めて決勝点をマーク

 浦和レッズのFW杉本健勇は、17日のリーグ第4節セレッソ大阪戦(2-1)で浦和加入後の初ゴールをマークした。古巣相手に決勝PKを挙げた舞台裏には、副主将のFW興梠慎三による、移籍直後のFWが抱える思いを知り尽くした気遣いがあった。

 杉本は今季、C大阪から浦和に完全移籍。FWファブリシオやFW武藤雄樹が負傷で出遅れていることもあり、沖縄県でのトレーニングキャンプから興梠との先発2トップを見据えたトレーニングが積まれていた。その通りに公式戦では3試合連続でスタメン出場したが、杉本のみならずチームも3試合連続で無得点。4試合目になったAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のブリーラム・ユナイテッド戦から、杉本の名前がスタメンから消えた。

 その後、チームは3試合で2勝1分の好成績をマーク。それでもオズワルド・オリヴェイラ監督は、5連戦の最終戦であり、アウェー3連戦の締めくくりにもなるこの古巣対決のスタメンに杉本を送り込んだ。

 浦和は決して攻撃が機能したわけではなく、さらに後半19分には先制も許した。しかし興梠のゴールで追いつくと、残り10分を切ったところでPKの大チャンスが回ってきた。基本的に浦和のPKキッカーは興梠が務めるが、すでに試合前の時点で興梠は杉本に「PKになったら、蹴りなよ」と声を掛かけていたという。興梠は、その思いをこう明かす。

「一番は古巣だということ。やっぱりFWは点を獲ると伸びてくるので、早めに1点獲らせてあげたかった。それがPKでも気持ちが楽になるので。まあ、今回に関しては健勇に蹴らせた方がいいなと個人的にも思ったので」

 興梠自身も、2013年に鹿島アントラーズから浦和に移籍した当初、なかなかゴールが生まれずに苦しんだ。プレー内容そのものは、周囲の選手も首脳陣もサポーターも高く評価していたが、やはり結果が出ないのは苦しい。浦和での初ゴールは4月に入ってからであり、その前にはPKを失敗したこともあった。そうした経験があったからこそ、PKを杉本に譲る“リスク”も頭にあったのだという。

「これほどプレッシャーがかかった、緊張したPKは初めてだった」

「もちろんPKを蹴るのは、決まればラッキーですけども、外した時の精神的なダメージも強い。そういうことを考えると、健勇に蹴らせて外れた時にどんどんマイナスな方向に行くのではとも思ったんですけども、でも、絶対に決めてくれるだろうという思いで見ていました」

 杉本自身もまた、選手紹介の時からブーイングを受け、さらには試合が始まればボールタッチの際も同じだった。何よりも、PKを蹴るタイミングではスタジアムは一層大きなブーイングに包まれ、さらには「ずっと一緒に練習していた」というGKキム・ジンヒョンが相手という厳しい場面だった。それでも、ゴール左に冷静に蹴り込み、これには安堵の表情だった。

「これほどプレッシャーがかかった、緊張したPKは初めてでした。いろいろなことが頭をよぎりましたけど、決められて良かった。ブーイングは試合中もありましたし、予想はしていました。うん、それは仕方ないです」

 このゴールがあり、試合後には浦和のサポーターから“杉本コール”も起こった。それに対して「たぶん名前を呼ばれたのは初めてだったので、すごく嬉しかったです。もっとサポーターの方々にしっかり認めてもらって、そのような結果を残せるようにしたい」と、喜びの声が溢れた。

 この後、リーグ戦は代表活動による中断期間に入る。その直前のタイミングで訪れた古巣対決でゴールが生まれたことで、より浦和の一員として肩の荷が下りた本来のプレーを期待しても良いはずだ。(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)

FW杉本健勇が移籍後初ゴールをマークした【写真:Getty Images】