通勤時の満員電車やバスの中で、男性が好みの女性に狙いを定め、髪や肌、香水の匂いをかいだり、首筋に息を吹きかけたりする、いわゆる「触らない痴漢」が増えているそうです。女性にとっては、気持ち悪さと同時に恐怖を感じることであり、実際に体に触れる痴漢と同様と思われます。

 一方、ネット上では、「体に触っていないから痴漢ではないのでは?」という意見も見られますが、実際のところはどうなのでしょうか。「触らない痴漢」の典型的な5つのケースについて、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

息を吹きかければ暴行罪の可能性

Q.女性の髪や肌、香水の匂いを至近距離でかぐ行為は、痴漢行為として処罰できますか。

牧野さん「まず前提となるのが、犯罪と刑罰はあらかじめ法律で定めていなければ処罰できないということです。これを『罪刑法定主義』といいます。その上で『女性の髪や肌、香水の匂いを至近距離でかぐ行為』については、道徳的には不適切ですが、犯罪として法律に定められておらず、現在の法律では処罰することは難しいでしょう」

Q.女性の首筋に男性が息や鼻息を吹きかける行為については、どうでしょうか。

牧野さん「男性が意図的に女性の首筋に息や鼻息を吹きかければ、暴行罪(刑法208条。2年以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金、または科料、もしくは拘留)が成立する可能性があります。判例では『お清めと称して食塩を振りかける行為』が暴行とされたケースがあります。

ただし、女性の首筋に男性が息や鼻息を吹きかけることで、女性の身体を傷つけることはありません。そのため、傷害の危険が全くない行為までを暴行として捉えてよいのか、意見が分かれる可能性があります」

Q.傘やかばんを電車・バスの揺れに合わせて女性の下半身に押し付ける行為は、痴漢行為として処罰できますか。

牧野さん「意図的であれば、有形力の行使として暴行罪が成立する可能性がありますが、『傘やかばんの押し付け』は特に犯罪として定められていないため、現行法では犯罪の成立は難しいでしょう」

Q.衣服で隠されていない体の部分(手や腕、足など)をじっと凝視する行為や、スカートや衣服の内部ではなく、女性の外観や胸など特定の体の箇所をスマホで無断で撮影する行為については、どうでしょうか。

牧野さん「こうした行為も道徳的には不適切ですが、現行法では、犯罪の成立は難しいです」

Q.現行法では、犯罪として成立させることが難しいケースが多いのですね。ほとんどの「触らない痴漢」に法的問題はないということでしょうか。

牧野さん「そんなことはありません。いずれの行為も、女性の側が不快に感じれば、民事上の不法行為(民法709条※)となり、損害賠償責任が発生する可能性があります。スマホで無断撮影する行為については、個人(被害者)が特定できれば、肖像権の侵害により不法行為に基づく損害賠償責任が発生する可能性もあります」

Q.至近距離で息や鼻息がかかることは、特に満員電車の車内では起こりがちです。意図していないにもかかわらず、男性がこのような行動で女性から「痴漢」と言われたらどのように対応すればよいですか。

牧野さん「故意がなくても、結果を予見できたのに回避しようとしなければ過失が認められて、不法行為に基づく損害賠償責任が発生する可能性があります。そのため、現在のところ取れる対策は、満員の車内ではあまり女性に近づきすぎないことしかないでしょう」

※民法709条【不法行為による損害賠償】故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

オトナンサー編集部

「触らない痴漢」に法的問題は?