直5エンジンを縦置き、しかもフロントミッドに搭載したFF車。世界的に見ても例がないそんなパッケージングのクルマ、よくもまぁ市販化したな…と思うけど、30年前のホンダには、それをやってのけてしまうだけの”勢い”があったように思う。さらに、単一車種に留まることなく、アコードインスパイアインスパイア&ビガー、セイバーアスコット&ラファーガと、なんと6車種8モデルで展開していたのがイカレてる。そんな直5縦置きフロントミッドシップなFF車と、そこに見事ハマってしまたオーナーたちを紹介する。 TEXT&PHOTO◉廣嶋健太郎

h2不振の販売台数を伸ばすためマイチェン時に投入。タイプR風味でまとめられたスポーティグレード。

 1993年10月、2代目アスコットの兄弟モデルとして登場したラファーガ。プリモ店扱いのアスコットは、”ラグジュアリー・エレガンス”、ベルノ店扱いのラファーガは”ダンディ・エレガンス”がテーマとして掲げられてたけど、正直その違いはイマイチわかりにくい。

 そんなラファーガのグレードは下から2.0E/T/Xで、いずれもG20A型2ℓ直5SOHC(160ps/19.0kgm)を搭載。さらに、その2.5ℓ版、G25A型(180ps/23.0kgm)を載せる2.5Sが最上級グレードに据えられた。ミッションは2ℓが5速MTと4速ATのみの設定とされた。

 のち95年6月にマイナーチェンジ。2ℓモデルのグレード名が2.0EX/TX/SXに変更、同時にCSが追加された。CSとは『クルージングスポーツ』の略で、ようするにスポーティグレード。そもそも直5エンジン+縦置きミッドシップ+FFってだけですでに変態集が漂うけど、スポーツ色を前面に押し出したCSはその感が一層強い。

 エンジンは、スペックを含めて他の2ℓモデルと同じG20Aを搭載。ECUが専用品というウワサだけど、真偽のほどは定かではない。また。4速ATは他の2ℓモデルに対して3〜4度のレシオをローギヤード化。加速重視のセッティングとしてるのが、また変態だ。

 足回りはちょっと変わってて、フロントダンパーとリヤスプリングが専用品。つまり、フロントスプリングとリヤダンパーは他モデルと同じってこと。これに強化フロントスタビや鍛造リヤロワアームを組み合わせる。ステアリングギヤボックスもクイックレシオの専用品で、アスコットにもCSがラインアップされてたことを付け加えておく。

 実車を見て、まず「ホイールベース長ぇな」と思った。その数値2770mm。しかも、エンジン縦置きのFF車らしく、真横から見るとフロントフェンダーアーチ後端からフロントドア前端までの間延び感がハンパない。

 外装では、リップボイラー一体型フロントバンパーやフロントグリル、リヤスポイラー、11本スポークタイプのアルミホイールなどがCS専用品。さらに、フロントリップボイラーやグリルの縁、リヤアンダースポイラーなどがボディ同色とされるから、見た目の印象は他のモデルと大きく異なる。

 内装は、本革巻きステアリングのホーンパッドにホンダ赤バッジが!

 これこそCSがタイプR的なモデルと言われる動かぬ証だ。が、正真正銘のタイプRと決定的に違うのは、フロントグリル&トランクリッドのバッジが黒のままってこと。惜しくもタイプRにはなれなかったCSの悲哀が、そこににじみ出てるではないか。

 一方で、タイプRはNSXにもインテグラにもシビックにもあったけど、CSはラファーガ(とアスコット)にしか存在しない。ゆえに、格としては”CS>タイプR”と考えるのが、変態グルマ好きならではの逆転の発想だ。

 ラファーガCSの室内長は1895mm。同じ時代、同クラスのT190コロナやP11プリメーラに比べると40〜60mmほど短い。そこにエンジン縦置きFFのデメリットが出てるわけで、前後に窮屈な分、上方向に余裕を求めようとホンダは考えた。全高(室内高)を稼いで乗員を起こし気味に座らせるアップライトポジションだ。気持ち背筋を伸ばした姿勢で走り出す。

 エンジン回転の上昇はスムーズながらも粒の粗さを感じさせ、ちょっと曇ったサウンドを放ちながら吹け上がるG20A。「なんだコレ??」と思いつつ、4発とも6発とも違うフィーリングに思わずハァハァする。3000rpmまではセンの細さを感じるけど、それ以上は回すほどにパワーが追従し、6500rpmオ—バーまでシャープに吹ける。さすがホンダと言うべきか。なかなかスポーティな味付けの4バルブSOHC、4速ATとの相性も悪くない。

 ハンドリングは基本的に安定志向で、ステアリング中立付近の反応は割とダルい。けど、さらに切り込むとステアリング舵角45度くらいからグイグイとノーズをインに向けていく。これまた「なんじゃコリャ?」だ。ホンダはエンジン&ミッションの重心を前軸後方に配し、前後重量配分60:40のFFミッドシップをうたってたけど、前輪が受け持つ800kg弱の静的荷重は決して軽くなく、それが落ち着いたハンドリングに直結してるんでないかと。

 パッケージングはもちろん、タイプRにはなれなかった微妙な立ち位置もそう。一代限りで消えたラファーガ、とりわけCSは強烈な個性を放ち、ホンダFF車の系譜において燦然と輝く変態グルマだ。だったら国産直5縦置きFFの祖、アコードインスパイアとビガーにも同じことが言えるのか(笑)。

SIDE VIEW:キャビンに対してフロントタイヤがかなり前進しているように思える真横からの眺め。直5エンジンを縦置きし、さらにフロントミッドシップとした結果、特異なサイドビューが生まれた。本来はエンジンよ後期でスペース効率に優れるのがFF最大のメリットだけど、それを捨ててまでホンダの開発陣はFFでの走りにこだわっていたのだ。

SPECIFICATIONS
車両型式:CE4
全長×全幅×全高:4555×1695×1425mm
ホイールベース:2770mm
トレッド(F/R):1465/1465mm
車両重量:1320kg
エンジン型式:G20A
エンジン形式:直4SOHC
ボア×ストローク:φ82.0×75.6mm
排気量:1996cc
圧縮比:9.3:1
最高出力:160ps/6700rpm
最大トルク:19.0kgm/4000rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式:FRダブルウィッシュボーン
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(F/R):205/55R15

h2ENGINE
低重心化のため、運転席側に35度傾けて搭載されるG20A。呼気系にはエンジン回転数に応じてポート断面積を変化させ、全域でのトルク特性を改善する2ステージインマニが、排気系には効率を考えた5-3-1EXマニが採用される。見慣れない5本のインマニやプラグコートに違和感を覚えなくもない。また、2.0CSと2.5Sはフロントラットタワーバーが標準装備される。
h2INTERIOR
ホーンパッドにホンダの赤バッジが入った本革巻き4本スポークステアリングはCS専用品。手前に傾斜したダッシュボードはこの時代のホンダ車ならではで、前席に開放感をもたらしてくれる。視認性とともにスポーティ感も高めるため指針と文字色を赤色としたメーターは、スピード&タコメーターを中心として右側に燃料計、左側に水温計が配される。
センターコンソールは上からエアコン吹き出し口、ハザード&リヤフォッガースイッチ&デジタル時計、オートエアコン操作パネル、純正AM/FM電子チューナー+カセットデッキ、小物入れ、シガーライター&灰皿。ダイヤルとプッシュボタンを組み合わせたエアコン操作パネルは使い勝手がいい。
他の2ℓモデルに対して、3速0.976→1.051、4速0.653→0.723と、それぞれギヤレシオを低めた4速ATを搭載。状況に応じて最適なシフトチェンジを行なうプロスマテック、それもファジー制御を採り入れたType-Ⅱが採用される。
h2SEAT
シート形状は他モデルと同じで生地が専用。前席には電動パワーシートがメーカーオプション設定されてたことから、CSの性格が見えてくる。ラファーガの後釜のトルネオってことも含め、CSはタイプR的というよりユーロR的と考えるのが妥当だ。後席は大人2人が乗るにも十分なスペース。センターアームレスト部にはトランススルー機構が与えられる。
h2LUGGAGE ROOM
資料によるとトランク容量は420ℓ…と言われてもいまひとつイメージしにくいけど、フルサイズのゴルフバッグを4つ積めるというから実用的なのは間違いない。トランクパネルがバンパー上端から開き、開口部も大きいため、荷物の積み降ろしもしやすそう。
h2EXHAUST MUFFLER
デュアルだしマフラーはCS専用に違いない」と思ってカタログを見たら、実は全グレードにまで手を入れているにも関わらず、マフラーテールエンドが標準モデルと変わらないというあたりがCSらしかったりする。
h2TIRE&WHEEL
11本スポークの専用15インチアルミホイール。リム幅は6JJで、標準装着タイヤと同じ205/55R15サイズのミシュランパイロットプレセダが組み合わされる。
h2EXTERIOR
CSであることを主張する外装パーツはあちこちに見受けられるけど、もっとも象徴的なのが専用大型リヤスポイラー。純正オプション品以上、インテR純正品未満…という絶妙なサイズ設定だ。装着によりトランクパネルが重くなって開閉に支障が出るため、実はトランクオープナースプリングも専用強化品に交換されている。