(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 韓国の文在寅ムン・ジェイン)政権が、米国政府と国連の両方から非難された。いずれも北朝鮮に対する融和的な言動が北朝鮮の非核化を阻害し、世界に良からぬ結果を招いているとする非難である。国際社会の常識から見ても文在寅大統領の思考や政策が尋常ではないという現実の反映だとも言えよう。

北朝鮮への批判を抑えるよう圧力

 北朝鮮の完全非核化を推進する米国トランプ政権にとって、文在寅大統領の言動はますます障害とみなされるようになってきた。非核化よりも北朝鮮との融和や交流を優先させる傾向が顕著だからだ。

 ベトナムハノイでの第2回米朝首脳会談はもの別れに終わった。その直後に、トランプ大統領は文大統領に電話をして、仲介者としてもっと積極的な役割を果たしてほしいと訴えた。文政権への不満がそれだけつもり重なっていたということだろう。

 トランプ政権の文大統領に対する不信は、3月14日に公表された国務省の「世界各国の人権報告書」でも明確に表明された。

 同報告書は韓国の人権問題として以下の諸点を挙げていた。

・文政権は北朝鮮からの脱走者たちの組織に対して、北朝鮮への批判を抑制させる圧力をかけるようになった。

・その圧力の実例としては、過去20年も続けられてきた脱北者の組織への公的資金援助を打ち切ったこと、風船などを使った北朝鮮への政治文書散布を中止させるようになったこと、警察当局が脱北者団体を頻繁に訪ねて財政状況などを調査するようになったこと、などが挙げられる。

・文政権は、脱北者たちとその団体に対して、文政権の北朝鮮への融和・関与政策を公開の場で批判しないよう厳しく要求するようになった。

 以上のように国務省報告書は、文政権の脱北者に対する要求や圧力を「言論や表現の自由という基本的な人権の抑圧」であると断じていた。

 また、米国メディアの3月17日の報道によると、国連の北朝鮮に対する制裁措置を監視する調査委員会が3月中旬、韓国政府の“不正”を報告した。韓国政府が2018年中に北朝鮮に提供した合計300トンの石油関連製品の移転を、同委員会に届け出なかったというのである。

 この石油関連製品は朝鮮半島の南北合同の経済プロジェクト用で、北朝鮮への経済制裁の違反とはならないが、その提供の届け出は国連の規定で義務づけられていた。韓国政府はこの規定に違反したというわけだ。

 文在寅大統領はこのように同盟相手の米国だけでなく、国連からも違反行為を指摘され、内外で批判を浴びるようになった。

支持率が異例の低水準に

 文大統領は、「北の非核化」を揺るぎない目標にすることを大前提に、北朝鮮と米国との仲介役として両国首脳会談の実現に貢献してきたとされ、国際的な評価を受けてきた。だが、その評価がここにきて一気に下落してきた。北朝鮮が文大統領の思い描くようには動かないという現実のせいだと言えよう。

 ワシントン・ポストの3月17日の報道によると、文在寅大統領の韓国内での支持率は45パーセントと同国大統領としては異例の低水準にまで下降した。

 また同報道は、朝鮮半島情勢の米国人専門家、クリストファー・グリーン氏の言葉として「妥協しようとしない北朝鮮の言動パターンは、文在寅大統領の融和的な手法による仲介役の限界を示してしまった。2018年から文大統領の『外交技量』が受けてきた国際的評価は誤っていたと言える」という手厳しいコメントを紹介していた。

 確かに現状では、文大統領は米国からも国連からも非難され、国際的に孤立した状態と言っても過言ではない苦境に追いこまれたようである。

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