東京メトロの売店で働く契約社員らが、正社員と同じように働いているのに待遇格差があるのは不当だと訴えた裁判。東京高裁は、退職金などで「不合理な格差」があることを認め、会社に支払いを命じる判決を2月20日に出しました。

この裁判では、労働契約法20条が禁じる不合理な格差にあたるかどうかが争われました。同様の訴訟で退職金の格差を「違法」とする判決が出たのは、初めてだといいます。

NHKによると、判決で東京高裁の川神裕裁判長は「契約社員らが定年まで10年前後の長期間にわたって勤務していたことから、長年勤務したことをねぎらう性格のある退職金を一切支給しないのは不合理だ」と指摘。

契約社員だった2人に、正社員と同じ基準で算定した額の4分の1にあたる約95万円を退職金として支払うよう命じました。また、住宅手当や時間外手当などにも不合理な格差があると認定し、手当に相当する額を支払うよう命じました。

今回の裁判は、正社員との不合理な格差の是正をめざす契約社員らにとって、重要な意義があると話題になりました。どういうことか、労働問題に詳しい河村健夫弁護士に聞きました。

●個々のケースで判断は割れる部分も

ーー今回の判決の意義を教えてください

「今回の判決は、労働契約法20条を根拠に『非正規雇用にも退職金を支給せよ』と判断して注目されました。ただ、東京高裁の判決が、特に目新しい判断方法を採用したわけではありません。

基本的に、労契法20条に関する最高裁判決(平成30年6月1日)の判断方法に従い、正規雇用と非正規(有期雇用)との間の労働条件の違いについて、その労働条件が設けられた趣旨を具体的に検討して違法かどうかを判断しています」

ーーどういうことでしょうか

「今回の判決は『非正規雇用者にも退職金を一部支払え』と言いましたし、直前に出た大阪医科大学についての大阪高裁判決は『アルバイト職員にもボーナスを払え』と言いました。

しかし、それはあくまで東京メトロなり大阪医大の退職金制度や賞与の制度趣旨を具体的に検討した結果であって、どの会社においても『アルバイトにもボーナスを払わないと違法』『非正規にも退職金を支給しないと違法』と判断したわけではありません」

ーー個々のケースによって判断は割れる部分があるのですね

はい。たとえば、東京メトロ控訴審判決(今回の東京高裁判決)では、非正規で雇用された人への賞与不支給を適法と判断しました。これは大阪高裁と逆の判断ですが、その理由は、大阪医大と東京メトロにおける賞与の位置づけが異なるからという他ありません。

大阪高裁判決は、大阪医大の賞与について『従業員の年齢や成績に連動しない就労自体に対する対価』であると判断して、アルバイトへの不支給を違法としました。

一方、東京高裁判決は、東京メトロの賞与について『労務の対価の後払いと従業員の意欲向上のため』と判断して、時給制の非正規雇用者への不支給を適法としているのです」

●「非正規」を理由にした待遇格差は違法

ーーそうすると裁判官がどう感じるかも大事な要素ですね

はい。この判断方法は、問題となる制度ごとに具体的に検討して柔軟な結論を出せるというメリットはありますが、担当裁判官の『感性』に結論が左右されてしまう危険も内包します。

現状では『統一的な判断基準』が存在しないため、判決が多数出てこないと裁判所の『感性』がどのあたりかも不明です。しばらくは、労働者側も使用者側も労契法20条をめぐる判決に一喜一憂することになるでしょう」

ーーとはいえ、共通して言えることはありませんか

「そうですね。ひとつ言えるのは、『非正規(有期雇用)だから』との理由だけで待遇に格差をつけるのは違法だということです。

東京メトロ控訴審判決でも、こうした理由で住宅手当の不支給を違法と判断しました。労契法20条違反で訴えれば勝てる制度のままの会社は、まだまだ多いのではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験17年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所

「非正規にも退職金を払え」判決が話題 正社員との「格差」に警鐘