「税金」「公平な競争」「個人情報」で
GAFAを規制しようとしている欧州

昨年暮れから始まった世界各国による中国ファーウェイの排除問題が続いていると思ったら、今度はにわかにGAFA規制がクローズアップされてきた。GAFAとは、Google、Amazon、Facebook、Appleの米国IT企業のビッグ4のこと。

ことの起こりは昨年5月に発効した欧州一般データ規則(GDPR)だ。これは欧州圏の市民の個人情報を保護する目的のもの。合法的に収集した個人情報であっても、それを欧州圏の外に持ち出すことを禁止している。違反をすると、世界売上高の4%もしくは2000万ユーロ(約26億円)の制裁金が課せられる。もちろん、インターネットを通じて、欧州圏以外に送信しても違反となる。

欧州のGAFA規制は、以前から進んでいた。ただし、こちらは個人情報保護ではなく、EU競争法に関するものだった。2015年に、グーグルはEU委員会から警告を受け、2017年には24億ユーロ(約3020億円)、2018年には43.4億ユーロ(約5500億円)の制裁金を課せられている。グーグルで商品の価格を検索すると、自社のグーグルショッピングの商品が優先的に表示されるのは公平な競争とは言えないというものだった。

また、税金面でも批判が起きている。GAFAは、欧州でも巨額の売上を上げているのに、施設を設置せず、税金の支払いを逃れているとして、イギリス政府は売上の2%を徴収する「デジタル税」を2020年にも導入する方針を打ち出した。

つまり、「税金」「公平な競争」「個人情報」の3方面で、欧州はGAFAを規制しようとしている。

米国では、
GAFAを分割させようという案も

GAFA規制が進んでいるのは欧州だけではない。2020年の大統領選に出馬するのではないかと噂されているエリザベス・ウォーレン議員は、「ビッグテックを分割する方法」と題した意見をネットで公表した。その中身は、プラットフォームを提供する企業は、プレイヤーとして参加させない。すでにそのような状況になっているGAFAを分割させようというものだ。グーグルショッピングの例のように、プラットフォーマーは、自社のプレイヤーを有利にさせることが可能で、他社と比べた場合、公平な競争を阻害しているという理由だ。

(エリザベス・ウォーレン上院議員が公開したGAFA規制に対する意見。「アマゾングーグルフェイスブックを分割する時がやってきた」と過激な意見が、国内からも出てきている)

米国ではこのようなプラットフォームとプレイヤーを分割させるという考え方が伝統として存在している。1996年マイクロソフトは、司法省から独禁法違反で訴訟を起こされている(2001年に和解)。マイクロソフト社は、独占的な地位を乱用して、ブラウザInternet Explorerアイコンデスクトップに置き、他社のソフトウェアを使う機会を奪っているというものだった。それ以前にも、マイクロソフトはWindowsというOSとWord、Excelなどのビジネスソフトウェアを開発し、Windowsの詳細な情報を知ることができない他社のワープロソフトや表計算ソフトよりも不当に有利なビジネスをしていると指摘され、OS開発とソフトウェア開発の2社に分割すべきだと批判されたことがある。

米国はそれ以前にも、古くはAT&Tの分割、IBMの分割が問題になったことがあり、「大きいから分割させよう」ではなく、「プラットフォーマーとプレイヤーの両方を1社が行うことで、他プレイヤーの機会を奪っている」ことを問題にしている。

消費者保護よりも
先に業者保護に動いた日本

日本でもGAFA規制の議論は始まっている。経済産業省総務省、公正取引員会は、昨年11月「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」の中間論点整理を公開している。論点整理のための中間報告なのでいたしかないが、内容は欧州でのGAFA規制を踏まえた総花的なものになっている。

(「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」の論点整理。論点整理なので、内容が総花的なものになっているのは仕方ない部分があるが、公平な競争と消費者保護が焦点になっている)

ところが今年になって、公正取引員会は、GAFAの実態調査を、まずはアマゾンから始めた。この目的は、欧州とも米国ともやや違っている。

アマゾンでは、5月以降、全商品に1%以上のアマゾンポイントを消費者に還元することをアナウンスしている。しかし、このポイント分の原資を出品業社に負担させるようなのだ。出品業社からは、実質的な値下げ強要に等しいという声が上がっている。理屈は、じゃあアマゾンから撤退して、他のECサイトに出品すればいいとなるが、現実にはそうはいかない。アマゾンから撤退したら、経営が成り立たなく出品業社も多い。

アマゾンとしてはビジネス上の施策のひとつなのだろうが、出品業社から見れば「下請けいじめ」にも見える。公正取引委員会は、このポイント施策の決定プロセスで、違法性がなかったかどうかを調査するようだ。

消費者保護よりも業者保護に先に動くあたりが、いかにも日本的だ。

日本版GDPRは、日本がぎりぎりの
ところで踏みとどまる徳俵の役目

もちろん日本でも個人情報を保護する日本版GDPRの議論は進んでいる。日本人はプライバシーに対する意識が高いので、露骨に個人情報を収集しようとするサービスは避ける傾向がある。しかし、GAFAのサービスは、利便性が高いので日本人もよく利用する。ここで問題になっている個人情報とは、戸籍情報や病歴などの高プライバシー情報だけでなく、消費行動の履歴情報などだ。GAFAのサービスを使うたびに、何を買ったか、何を好むかという「個人情報」を消費者自身が生み出している。すでにアマゾンは、その人が何を買うか予測する技術開発も行なっており、このような消費行動データを握られると、店長の勘と経験だけで勝負するような小売店はまったく太刀打ちができなくなる。

GAFA個人情報を握られてしまうということは、GAFAの傘下に入らなければビジネスが成り立たなくなり、すべての利益はますますGAFAに流れ込み、日本企業は消えていくことになる。

GDPRは、一見、消費者保護に見えて、実は産業保護でもある。あらゆる方面で衰退が始まっていると言われることの多い日本の産業にとって、日本版GDPRは、日本がぎりぎりのところで踏みとどまる徳俵の役目を果たしてくれる。

ただし、イノベーションを阻害をするとして、反対する声もある。デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会の議事録のまとめは、公正取引委員会の公式サイトに随時掲載される。かなり突っ込んだ具体的な議論がされているので、デジタル関係のビジネスに関わる人は、ぜひ一度目を通しておきたい。

(「デジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会」の議事録のまとめは、随時、公正取引委員会のサイトで公開されていく。かなり、生々しく具体的な議論もされているので、目を通していただくと、この問題がより理解しやすくなる)

日本でGAFA規制はできるのか? 日本版GDPRは、日本の産業がぎりぎりのところで踏みとどまる鍵に