東大生クイズ王として名を馳せ、数々のクイズ番組に出演、YouTubeチャンネル『QuizKnock』でも大活躍の伊沢拓司さん。
その伊沢拓司さんが書いた『勉強大全 ひとりひとりにフィットする1からの勉強法』がスゴイと聞いて読んでみた

本を開くと、いきなり伊沢拓司グラビア写真
空を見上げたり、机にうっぷして寝てたり、ニッコリ笑顔で立っていたりの伊沢拓司くんの写真が続く。
「わーー、しまった。俺はアウト・オブ・ターゲットかも」とビビる。
まじめに「勉強本」だと思って読みはじめたけど、もしかして伊沢拓司ファンブックなのではないか、と。

でも、安心。
本文がはじめるとそんなことはない。
それどころか、語りかけてくるタイプの文体で、テレビで観る伊沢拓司さんの声が聞こえてきそうなトーン。
最初の写真も、ファンサービスだけではなくて、本人の声が聞こえるイメージを生み出して、読みやすくするための工夫なのだろう。

クイズ王で暗記が得意だからできるわけで、暗記が得意じゃない自分には関係ない本じゃないか」という不安も、最初に語られる伊沢さんの受験前のダメっこぶりで払拭される。
暗記が得意なのでクイズをしているわけじゃなくて、クイズが好きだから暗記をがんばるようになったという説明にも納得。

365ページの『勉強大全』
本文がはじまると徹底して「勉強の原理」を段階をふんで解説していく。
ここまで徹底している本は、他にはないだろう。

「私は“cool head and warm heart”冷静な頭と温かい心を持った経済学生を、一人でも多く育てたい」
という経済学者アルフレッド・マーシャルの言葉が、第4章で引用されるんだけど、まさに『勉強大全』が「冷静な頭と温かい心」で書かれた本だったのだ。

伊沢さんは、「まえがき」でこう言う。
勉強本の多くは、“「ノートはこうまとめるのがGood!」「英語の暗記はひたすら唱えなさい!」というような、「手段」の紹介がメインになっているように思います。それはそれで素晴らしい。”
だけど、『勉強大全』は「手段」の紹介をメインにしない。
「手段」は、置かれた状況や学力によってマッチしたりしなかったりするから。
万人に当てはまる理想の勉強法は存在しないのだ。
だから、『勉強大全』では、「勉強の原理」を詳細する、と。

第1章で、「そもそも、大学とは何だ?」「なぜ受験勉強をするのか?」。
正直、「これをやればあっという間に成績があがる」「この方法で万全」といった派手さはない。
そういった派手な勉強テクニックをあれこれ試してみるまえに築き上げるべき土台をがっつり説明する。
“まずみんなに共通の「原理」があり、それらを守った上で個別の方法論がある”と主張し、たとえば“「本番の点数の最大化」という根本的な「原理」を踏み外さなければ、「方法」はあなたが自由に選べばいいのです”と強調される。
「一日の勉強時間はどれぐらいがいいのか」「音楽を聞きながら勉強してもいいのか」「いろんな勉強法があってどれをやればいいのか」といった受験期にありがちな不安と疑問は、原理さえ習得してしまえば、自分で解決できるのだ。
本書の美点はここだ。
勉強テクニックを羅列している本では、しょせんフィットするかしないかという問題になってしまう。
しかもフィットするかどうかが、なかなか分からない。
それでは、受験勉強をするための根本的な見通しは立てられない。
『勉強大全』はその見通しを立てる方法を伝授してくれる。
原理を習得すれば、数多ある勉強テクニックのうちどれが自分にフィットするかが分かりやすくなる。

第3章は「受験生活」の作り方。
受験生活は、普段の生活とは別物だと断言し、その困難な受験生活をする習慣作りが解説される。
ここでも、何時間勉強しなさい、こういう生活をしなさいという押し付けはない。
だらだらと逃避した生活をしないための「自分を縛るルール作り」のコツの解説、「性格よりも環境を変えよ」「1日1点主義」といった指標が示される。

第4章は「成績の読み方」。
第5章は「暗記の使い方から、復習の仕方」。
第6章は「思考がメインとなっている問題への対処方法」。
そして最後の第7章だけが、それぞれの教科ごとの勉強テクニックだ。

ああ、自分が受験する前にこの本を読んでいたらなーと思う。
だが、本書の美点その2は、「ここに書かれている原理は、受験だけじゃなくて様々なことに使える」ということだ。
仕事で何かをまかされたとき。何かプロジェクトをはじめようとしたとき。生活を改善したいとき。
目標に向かって、どう努力すればいいのか。
どういった原理にもとづいて努力すれば、無駄がはぶかれ、とんでもない方向に転ばずにすむか。

目標をめざすとき、がむしゃらにやったり、根性論に傾きすぎたり、情熱だけにたよったりしがちだ。
だが、それでは足りない。
「温かい心」だけじゃなく「冷静な頭」も必要だ。
第4章で、伊沢さんはこう語る。
“だから、がむしゃらにやれば受かる、という幻想は捨ててください。
がむしゃらという言葉の中には、怠惰が隠れています。思考の省略です。「努力すれば報われるでしょ」「死ぬ気でやればできるでしょ」。できるかもしれませんが、できないかもしれません。そもそも、「死ぬ気」ってなんでしょう。具体的に、どのような作業を積み重ねることが「死ぬ気」に当たるのでしょうか。そこが明らかにならないのであれば、できるかどうかはわかりません」”


「思考の省略」をせずに、一歩一歩ていねいに、あらゆるケースに対応できる「目標に向かって進むための原理」が『勉強大全』に詰まっている。(テキスト:米光一成