厳しい情報統制が敷かれている北朝鮮においても、ハノイでの米朝首脳会談が「惨めな失敗に終わった」との情報は、すでにかなりの範囲で国民に共有されている。北朝鮮当局としては、それを放置しておくわけにはいかない。

同国においては、最高指導者の名誉や権威をき損する行為は重罪とされているからだ。

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北朝鮮当局は今回、国民の「毒舌」をけん制して金正恩委員長の権威を守るために、「生活総和」を武器にしているようだ。

生活総和とは、全国の学校、職場、軍隊などすべての単位において、少なくとも週1回集まって、自分の生活・思想上の間違った点を自己批判した上で反省するというものだ。さらに、隣人や同僚との相互批判も行われる。

ソ連の独裁者スターリンが、1925年の著書「レーニン主義の基礎」で提議した自己批判だが、キリスト教の懺悔から由来したと言われ、反対派の吊し上げに使われるなど、共産主義抑圧体制を底辺から支えるものとして機能してきた。

北朝鮮では、1962年3月から始まった。各職場や人民班(町内会)で10人から15人が一組となり、朝鮮労働党の党細胞書記や初級党書記が主幹して行われる。毎週土曜日の週生活総和、毎月最終土曜日の月生活総和、四半期と年末に行われる生活総和などがあるが、近年は形骸化が指摘されてきた。

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ところが、「最近になって、生活総和の雰囲気が以前とは比べものにならないほど緊張感のあるものとなり、大きな声で咳すらできないほど雰囲気が殺伐としている」と、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋が伝えている。

中国で取材に応じた平壌在住のRFAの情報筋によると、社会の雰囲気がよかったころは、自己批判や相互批判が形ばかりのものとなり、1時間ほどでそそくさと済ませていた。

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ところが、つい最近になって状況が一変した。

自己批判を適当に済ませようとしたり、形ばかりの相互批判をしたりすれば、批判台に立たされ、総和参加者から集中的に批判を浴びせかけられる。同僚や隣人を厳しく批判しなければならない人たちも、批判を受ける人たち同様に気の毒だ」(情報筋)

相互批判は事前に口裏合わせをしておき、適当なレベルでとどまるようにするのが慣行だったが、それも通じなくなった。厳しい批判を行ったせいで、仲良しだった人同士が生活総和の後に仲違いし、犬猿の仲になってしまうケースもある。

平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋は、「米朝首脳会談が失敗に終わった」とのうわさが急激に広まったことを受け、「当局が緊張感を煽るためにわざと生活総和を厳しくしている」との見方を示した。張成沢氏の処刑など大きな事件があるたびに、生活総和で締め上げて口を閉じさせるのが常套手段になっているようだ。

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金正恩(キム・ジョンウン)氏