黄色いベスト運動

16日、仏・マクロン政権の打倒を目指す黄色いベスト運動のデモが過激化。パリ・シャンゼリゼ大通りの銀行や店では、放火や破壊行動、略奪が繰り広げられた。

フランス内務省によると、パリのデモ参加者は1万人で前週土曜の3000人から増加。全国では3万2300人で、前週の2万8600人を上回った。しかし、デモは4ヶ月目に突入したが、参加者は減少傾向。参加者が石を投げつける一方で警察は催涙ガスや放水で対応した。

なぜマクロン政権を揺るがした黄色いベスト運動は、減少の一途をたどっているのだろうか。

 

■マクロン大統領が市民と対話

マクロン大統領は、黄色いベスト運動を沈静化させるたに、1月から「国民大討論」と題した対話を行い、各地で行われた討論会にこの2ヶ月半で10回出席して市民と直接意見を交わしてきた。

大統領は討論に4〜5時間も応じること多く、時にはそれを上回ることも。そして、18日に行われた討論会は8時間を超し、最長記録となった。

テーマも外交から介護、医療、教育と、投げかけられた質問に、臨機応変に応じてきた。昨年12月に記録した史上最低の支持率だった23%から支持率は31%に上昇している。

 

■マクロンへの怒りから政治的野心に変化

さらに、黄色いベスト運動はもともと、誰かが呼びかけて始まった運動ではなく、全国で自発的に起きた運動だった。それに対して、マクロン野党が、左派から右派まで支持を表明した。

ところが、昨年末から今年五月に行われる欧州議会議員選挙に、「黄色いベスト運動」という新党を創って臨もうという活動家たちが声をあげ始めた。当初は仮に新党ができたときの支持率は10%半ばだったが、最新の世論調査では3%程度となっている。

■極左政党党首も懸念

ナタリー・アルトー

筆者は、運動が始まって3ヶ月の頃、支持を表明していた極左政党の一つ『労働者の闘争』のナタリー・アルトー党首にインタビューした。アルトー党首は、運動の意義と懸念を次のように表明していた。

「ここ3ヶ月フランスの社会的風土は変化しています。長く続いている黄色いベスト運動は、集団行動によって団結する人民を組織し、貧困層や普通の市民が自分たちの利益と要求を表明する上で大きな励みになったと思います。

 

そのデモに多くの人が今後も参加することを期待しています。そして政府は、増幅しつつある怒りに今まさに直面しているのだということ、反労働者的で反社会的な政策をとっているということ、恐れている反応を自ら作り出しているということを理解すべきです。

 

私たちが参加することによって、できるだけ大規模なデモにしたい。問題の本質はマクロン大統領とその経済政策にあります。

 

昨年9月15日にマクロン大統領は『履歴書を何通も送っているが、まったく職に結びつかない』と窮状を訴える失業者に向かって『ホテルやカフェ、レストラン、建設業で働きたい意欲さえあれば、働き口はいくらでも見つかる』『私なら、あの通りを渡れば、きっと君にいい仕事を見つけてやれる』と言い放ちました。

 

これが失業率10%に苦しみ、若年層に至っては4人に1人しか職に就けない国のトップが言うことでしょうか。

 

一昨年10月に富裕税の廃止を『21世紀の資本』著者のトマ・ピケティ教授に『歴史的な誤り』と酷評されたとき、マクロンは逆上して、『金持ちへの嫉妬で国を麻痺させてはいけない』『私は若者が立身出世できる国にしたい』と反論しました。

 

富裕層に対する税を撤廃し、法人税率を下げる一方で、緊縮と大衆課税によって『財政再建』は推し進める。考えられる限り、最低最悪の政策パッケージです。『黄色いベスト運動』によって、マクロン倒閣を求めていきたい。

 

ただ、懸念もあります。黄色いベスト運動の中でいま、新党をつくって、欧州議会議員選挙に出ることを目指し、立候補を表明している人たちもいます。この運動は、一般市民が自発的に始まった運動で、そこに極左から極右までの政党が連帯しました。

 

しかし、その運動が党となってしまっては、党益が優先してしまい、市民のための蜂起という側面が薄れてしまいます。私はそのような昨今の動きをたいへんに危惧しています」

 

アルトー党首の懸念したとおり、運動が選挙母体となると表明してからは、参加者が劇的に減っていき、運動の支持率が低下していった。

 

■ナチスすらためらったパリ破壊

運動参加者が減ると同時に起きたのが、極右過激派・極左過激派、単なる暴力主義者が運動になだれ込み、街を破壊していく光景だ。

シェンゼリーゼ通りでは、由緒あるカフェやブランド店、銀行などが破壊され、略奪されている。そこには、「大衆課税に反対する」という運動の原点は見られない。

ナチスドイツが占領していたパリが連合国に陥落するとき、ヒトラーは部下たちに向かって、「今、パリは燃えているのか」と叫んだ。パリ中に仕掛けられた爆弾で、ヒトラーはパリを全壊させるつもりだった。

しかし、パリのドイツ司令官があまりにも美しいこの街を破壊してしまうことに良心の呵責を感じ、ヒトラーからの爆破指令を無視し、連合国に降伏した。

ナチス司令官ですら、破壊できなかったパリを、今、かつては喝采を浴びた『黄色いベスト運動』が破壊している。

 

■損失は2億ユーロ

ルメール経済・財務相は「黄色いベスト運動」で破壊された店舗などの被害総額が約2億ユーロ(約252円)に達すると19日、上院で答弁した。損害を受けた店舗の営業停止などで一時的に7万3000人が失業したとも応えた。

大衆課税に反対する運動が単なる破壊活動に転じてしまったた以上、国民からの支持を失い、運動は壊滅するだろう。

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(取材・文/しらべぇ編集部・及川健二

仏「黄色いベスト運動」が壊滅寸前の理由 暴徒化・略奪で2億ユーロの損失も