YGエンタテインメント(以下、YG)の対応は早かった。

「本人(BIGBANGメンバー、スンリ/V.I)に確認した結果、該当記事はねつ造されたメッセージで構成されていて、事実ではないことを明らかにします。さらに、YGは守ってきた原則どおり、フェイクニュースをはじめとする噂の拡大および再生産など一切の行為については法的に強硬な対応をすることをあらためて申し上げます」(報道資料より)

 2月26日、このコメントの2時間ほど前。SBS傘下のエンタテインメント専門のケーブルテレビ会社である「SBS funE」のカン・ギョンユン記者がBIGBANGメンバー、スンリ(V.I、29歳)を巡る「性接待疑惑」について報じていた。


実業家としてクラブなどを経営

 報道は、スンリの携帯でのメッセージのやりとりを再現したもので、2015年12月17日の深夜に訪韓した投資家の接待について交わされたもの。スンリは、従業員へ、「オンナは? (セックスに)軽い子を」と書き込み、スンリが立ち上げた会社の共同代表を務める人物は、「オンナが2人来たらホテルの部屋までちゃんと行けるように処理しろ」と指示するなど性接待を示唆するような内容が書かれていた。

 BIGBANG言わずと知れたK-POP界のスーパースターグループだ。5人の男性メンバーからなり2006年デビューアジアなどの海外でも人気を誇り、日本では第2次韓流ブームを牽引するなど人気は絶大だった。最近はメンバーが義務兵役により入隊するなどしてグループでの活動は休止していて、スンリはソロでの活動や、2016年に知人とともに立ち上げた会社の運営に注力していた。クラブラーメン店の経営などに乗り出していて最近では実業家としても知られ、韓国のテレビでは「偉大なるギャツビー」をもじって、「スッツビー」などともて囃されていた。

 冒頭のYGのコメントへのカン記者の対応もすばやかった。

「報道されたメッセージをねつ造、編集する理由がない。深刻に低質な一部表現を整えた以外、ねつ造、編集は絶対にない。すべて事実」とすぐに反駁。「今後、捜査機関から要請されれば積極的に協力する」と取材への自信ものぞかせた。

勘ぐりたくなるほどの早い反応

 そうして明けた翌2月27日、スンリはYGを通して、「1日も早く捜査機関へ自ら出頭して、麻薬の精密検査および関連のすべての疑惑について積極的に協力したい」というコメントを出すと、自ら警察に出頭した。

「スンリもYGもまだ火消しできると思っていたのでしょう」と韓国のスポーツ記者は苦笑する。実は、昨年11月末にスンリが経営するクラブで起きていた暴行事件をきっかけにスンリには麻薬使用・流通、性接待、警察との癒着などのさまざまな疑惑が浮上していた。

「ただ、当初、YGがカン記者の報道にすぐに反応したのは意外でした。YGはこのたぐいの疑惑が持ち上がるとこれまではもう少し静観していたと思うのですが、何をそんなに慌てているのか、他に何かあるのかと勘ぐりたくなるほどの早い反応に正直、驚いてはいたんです」

 続く3月4日

 カン記者は、性接待疑惑のメッセージなどすべてが含まれた証拠を、ある人物が国民権益委員会に提出し、これが公式に認められて分析中だと報じた。同機関は、腐敗予防を目的とし、腐敗行為を規制する国務総理直属の国家行政機関。カン記者は、メッセージを提出した人物から「警察との癒着が疑われる内容もあったので、警察ではなく同機関に提出した」という証言も引き出している。第一弾の報道から少し間が空いたため、その間、カン記者の報道の信憑性についても揶揄するような向きも見られたが、カン記者は、「米朝首脳会談(2月27、28日)後に報道する」と話していた。

 そして、3月8日

 スンリは突然、軍入隊を発表する。しかし、「捜査を回避する気か」とネットには罵言が飛びかい、騒ぎはさらにヒートアップ。韓国では義務兵役による軍入隊問題はとても敏感な問題で、この時、スンリの疑惑にまったく関心がなかったという人までも「捜査の手を逃れるために入隊なんて冗談じゃない。粛々と入隊させている身にもなってほしい」(入隊している息子を持つ50代の主婦)と話していた。結局、スンリは軍入隊の延期を申請し、3カ月の延期が認められた。

飲酒運転もみ消し……警察との癒着疑惑も

 さらに3月11日

 カン記者はスンリが盗撮された(性関係の)動画を友人らと共有していたと報道。これは、彼と親しい歌手兼タレントが複数の女性と性関係を持った動画を女性の同意なく盗撮し、その動画をスンリを含めた8人のメンバー間で流布していたというもの。盗撮した動画を共有していたのは、韓国のメッセンジャー「カカオトーク」(日本で主に使われているLINEと同じようなサービス)のグループチャットで、このグループチャットメンバーには別のアイドルグループメンバークラブの従業員、人気ガールグループの実兄らが含まれていた。

 この報道後、スンリは自身のインスタグラムで芸能界からの引退を表明したが、その数時間後の夜にはカン記者の取材に基づいて地上波SBSの8時のニュースは8人のメンバーのひとりを実名報道した。

 盗撮動画を共有していたアイドルメンバーメッセージからは懇意にしている警察官に飲酒運転をもみ消してもらおうとした疑惑も発覚。さらには、癒着していたとされる警察官とスンリ、共同代表者らはゴルフや食事を重ねていたことも明るみに出ている。

スンリの痕跡が跡形もなく消された

 メッセージの中で、「警察総長」と呼ばれ、現在取り調べを受けているこの警察官は、スンリが経営していたクラブがある江南警察署でクラブなどを取り締まる生活安全課に所属し、その後は青瓦台(大統領府)の民情首席室に勤務した後、現在は警察庁で総警(日本の警視と警視正の間ににあたる)の階級で要職に就いていたといわれる。ちなみに、韓国の警察のトップ警察庁長官で、警察総長という肩書きはない。

 強行に法的に対処するとしていたYGは3月13日、スンリからの契約解消の申し出を受け入れる形で、「(スンリとの)専属契約を終了することにした」とし、同社のホームページからはスンリの痕跡が跡形もなくすべて消されている。

取り調べが続く中、スンリが週刊誌インタビューで語ったこと

 取り調べが続く19日、スンリは韓国の週刊誌『時事ジャーナル』(3月19日)とのインタビュー記事で心情をこう吐露した。

「警察総長と書くくらいわたしたちは何も知らなくて、アホどうし、友だちどうし、ホラ吹いて虚勢を張っていたんです。これが脱税、警察との癒着という世論になってしまった。実際、今は真実を話しても誰も信じない状況です。捜査機関すらカカオトークの内容がすべて事実であり証拠だと考えています。

 ああ、わたしが有名で芸能人という理由だけで本当に冷静に『やったことが合っているのか合っていないのか』判断されてしまわないか怖いです。正直、国民に申し訳ないと思いながらも悔しさを訴えたり、反論できないところにいるじゃないですか。最後にひと言だけ言うなら、海外遠征賭博や性接待斡旋はなかったです」

 この日、スンリの会社の共同代表を務める人物も謝罪文を公表し、スンリ同様、「ホラ吹いて虚勢を張っていた」だけだとし、性接待斡旋や警察との癒着についても否認している。

 カン記者にインタビューを申し込んだが、「後続取材のため、申し訳ありませんが受けられない」という返事が。

関与したとされる歌手が逮捕、癒着疑惑の警官は5人に

 SBSインタビューによると、カン記者がスンリの「性接待疑惑」の取材を始めたのは2015年頃からだそうで、「最近では韓流スターが大きな権力や富、人気、さらには名誉まで持ち得て、彼らが持っている名誉や人気を利用して女性を性的な道具にしたり、さまざまな社会問題を起こしている」、「私たちの社会は韓流という名前ですべてのことを許し、監視や批判を怠っていたのではないか、そう思い、そういう部分についても徹底して考えるべきだと思っています」などと語っていた。

 カン記者は過去にも日本でも知られるガールグループKARA」の元メンバー、ク・ハラの元彼の暴行事件などについてスクープがあり、「業界やネットではレジェンドとも呼ばれている」(前出スポーツ紙記者)のだそうだ。

 韓国ではスンリが経営していたクラブの名前から通称「バーニングサン疑惑」や名前から「スンリゲート」と呼ばれるこの事件。

 スンリの取り調べは22日現在続いているが、21日には、カン記者に実名で報じられたスンリの友人の歌手兼タレントが盗撮および盗撮動画の流布の容疑で逮捕され、癒着が疑われる警官は5人に膨れあがり、スンリの元所属事務所のYGには国税庁の特別調査が入る(20日)など事件はさらなる広がりを見せている。

(菅野 朋子)

2月27日、警察に出頭したBIGBANGのスンリ(V.I) ©getty