先日、日本型ローグライクの大定番『不思議のダンジョン 風来のシレン』が発売され、話題になりましたが……ほぼ同じ日、別のローグライクゲームも、裏でひっそり(?)公開されていました。
 ブレイブフロンティア ローグストーリー』です(以下『ブレフロローグ』)。 

 このゲームは2月末に発表され、3月中旬の発売を告知していました。
 一方、スマホ版風来のシレン』は3月2日までの公開を目指していましたが、調整が間に合わず延期に。
 その結果、同型のゲームがほぼ同日に発売される、見事な衝突事故が起こってしまいました。
 知名度に劣る『ブレフロローグ』にとっては悲劇……。

 ただ、『シレン』はローグライクの定番とはいえ、かなり玄人向けの作品。
 オリジナルの頃からあきらめた人も少なくなかった、高難度のゲームです。

 一方、ブレフロローグ』は初心者向けの作品。
 『シレン』や『トルネコの大冒険』ほどシビアではなく、コアゲーマーでなくても遊べる難易度となっています。

 また、最初からスマホゲームとして作られていることもあって、スマホ版の『シレン』よりインターフェイスや操作感に優れます。
 ボリュームは劣りますが、後半のダンジョンにはしっかりした歯応えがあり、幅広い人が楽しめる調整です。

 価格は480円。買い切りゲームなので広告やスタミナ、ガチャはありません。
 課金用のキャラクターがひとり500円で4人販売されていますが、ゲームの進行でも使用できるキャラは増えていき、最終的には無課金でも4人のキャラを使えます。
 キャラに固有の追加能力を与える課金も240円で売られていますが、劇的に強くなるわけではありません。
 つまり、課金は必須ではありません。

 なお、今作はソーシャルゲーム『ブレイブフロンティア』のスピンオフ作品であり、『ブレフロ』に登場するキャラのサブストーリーが物語のベースになっています。
 開発は高評価のスマホ用ローグライク『魔女の迷宮』を作った「オレンジキューブ」で、その内容を踏襲した作品です。

 ローグライクゲーム…… というか、日本型ローグライク不思議のダンジョン』系のゲームです。
 プレイするたびに地形が変わるダンジョンに、毎回レベル1からスタートするキャラで挑みます。
 ターン制で、自分が動かなければ相手も動かないため、ピンチの時はよく考えながら行動することが大切。
 ダンジョン内にはたくさんのアイテムが落ちており、それを駆使して戦っていきます。

 本家『不思議のダンジョン』で可能な行動は、一通り行えます。
 足元のアイテムの使用、連続足踏みによる回復、通常移動と高速移動の切り替えなど、基本システムはほぼそのまま。

 ただし、『シレン』以降の『不思議のダンジョン』とは以下の点で異なります。

 ・「壷」がない。よって合成もない。
 ・ダンジョン内のお店がない。よって泥棒もない。
 ・未鑑定のアイテムは使った瞬間に識別される。よってアイテム名の入力はない。
 ・敵のレベルアップはない。
 ・アイテムを盗んだ敵の位置はミニマップに表示される。
 ・やられても装備中の武器と盾は持ち帰れる。
 ・ダンジョンの中間地点にチェックポイントがあり、そこからスタート可能。

 トルネコシレンのコアプレイヤーだと「なにもねーじゃん!」、「ヌルゲーかよ!」と言いたくなるでしょう。
 でも、だからこそ、これからローグライクを始める人でも大丈夫。
 前述したように今作や『魔女の迷宮』はローグライク初心者向けに作られていて、熟練者をメインターゲットとはしていません。
 説明も丁寧で、他のローグライクに挑むための練習としても最適です。

 とはいえ、今作には今作なりの難しさもあります。
 まず、壷がないためアイテムの所持枠が厳しい。
 持てるアイテムの数は『シレン』と同じ20個ですが、入れ物が存在しないため20個きっかりしか持てない。
 よってアイテムの取捨選択が、入れ物のあるゲームより重要になります。

 そして、各ダンジョンのラストにボスが待ち受けており、これが手強い。
 初代『シレン』の本編のボスはステータスは高いですが、特殊な攻撃を持たず、状態異常への耐性もないため、「鈍足の杖」が一本あれば勝てたりしますが、このゲームのボスはそこまでラクじゃない。

 遠距離攻撃や範囲攻撃、吹っ飛ばし攻撃などの多彩な特技を持ち、時間が経つとザコも補充されます。
 ボス部屋にはアイテムが落ちていますが、拾い集める余裕がないことが多く、入れ物がないこともボス用のアイテムの保持を難しくしています。
 『シレン』より簡単といっても、テキトーにやってクリアできるような代物ではありません。

メニュー画面と、モンスターハウスならぬ「エネミーハウス」。モンスターハウスに相当するものは今作にもあります。
町のようなものはなく、ダンジョンとメニュー画面のみのシンプルな構成。
ダンジョン内のショップがないため、お金はメニューにある「道具屋」でしか使いません。
倉庫には最初から100個のアイテムを入れられます。「遠征」は一定時間後にアイテムを得られるもの。

ストーリーシーンとボス戦。主人公のゼルナイトはルパン三世的な立ち位置。
右の画像はゴブリンのボス。ハンマーで吹っ飛ばし攻撃を行ってきますが、それよりアイテムを盗むゴブリンを呼び出すのが厄介。
序盤のボスなのでそこまで強くはありませんが、後半のボスは侮れません。

 『トルネコ』や『シレン』よりシンプルですが、このゲーム特有の要素もいくつかあります。
 まず、キャラクターの変更と必殺技

 敵を攻撃しているとクリスタルを吸収することがあり、ブレイブゲージ必殺技ゲージ)が上昇。
 最大になってから攻撃ボタンを上にフリックすると、キャラ固有の技を繰り出せます。
 例えば、最初のキャラ「怪盗ゼルナイト」は敵を強打しつつアイテムを盗む技を、ふたり目のキャラ「女戦士フィズ」は3マスを貫通する攻撃を持ちます。

 キャラクターはゲーム開始時に変更可能で、初期ステータスに若干の違いがあり、前述したようにゲームの進行により増えていきます。

 そして重要なのが「英石」
 これはモンスターが落とす使い捨てアイテムで、そのモンスターにちなんだ技が発動します。
 たとえば、弓を使うモンスターの英石なら三方向に貫通する矢が発射され、混乱を使うモンスターなら部屋のすべてのモンスターが混乱、盗みを行うモンスターなら敵からアイテムを盗むと同時にワープします。

 英石は通常のアイテムより効果や持続時間に劣りますが、通常アイテムとは別枠で所持することができ、持てるアイテムが少ない点を幾分か補っています。

 そして今作の最大の長所は、冒頭で述べたようにインターフェイスとレスポンスの良さですね。
 基本のインターフェイススマホ版シレン』と同じく、画面下部に方向ボタンがあるスマホ用ローグライクの一般的なスタイルですが、反応が良くてサクサク動けます。
 アイテムリストの文字も大きくて選択しやすく、使用ボタンは別ウィンドウで表示され、押しやすい配置になっています。

 また、識別を(識別の巻物があれば)ボタンひとつで行え、敵が近くにいれば(攻撃を受けたりしなくても)自動で振り向いてくれるなど、細かい配慮もあります。
 インターフェイスの良さで賞賛された『魔女の迷宮』を受け継いでおり、大きなアドバンテージといえるでしょう。

必殺技の使用時にはカットインが出現。ゼルナイトの「ぶんどる」的な技は、攻撃力も通常より高いです。
「英石」は割と出るし持ち帰れないので、どんどん使っていきましょう。
『魔女の迷宮』にあった隠し要素「そのフロアで倒した7匹目の敵は必ず英石をドロップする」は今作でも健在です。

ダンジョンリストとモンスター図鑑。
クリアでひとつ目、アイテムを持ち込まずにクリアでふたつ目、アイテムを持ち込まずに中間地点から開始してのクリアでみっつ目の星を得られます。
アイテムを集められるフロアが減るので、中間地点からのスタートの方が難易度は上がります。
本編は5章までですが、やはり本番はそのあとの上級ダンジョン「EX」でしょう。
全50階、10フロアごとにボスが出るため、ローグライクマニアでも簡単にはクリアできない難易度です。
パズルダンジョンはシレンでいうところの「フェイの問題」で、色々なテクニックを学べます。
モンスター図鑑には英石の効果も書かれているので、攻略の参考にしましょう。ただし、未入手の英石は記載されていません。
なお、図鑑のモンスターはタップでバシバシ殴れ、ほっとくと寝ます。

 ボリュームやゲームの奥深さでは、さすがに『風来のシレン』とは比べられません。
 ただ、『シレン』には初代『トルネコの大冒険』があって、それを踏まえてユーザーが挑戦できたから、あの難易度でもウケた、というのもあったと思います。
 今作はその初代『トルネコ』のような、ローグライクの入口になる作品のひとつです。
 壷とダンジョンのお店がないため、内容的にも『シレン』より初代『トルネコ』に近いですね。

 シレン』とリリース日がかぶりましたが、むしろ初心者用・上級者用の区分けになってて良いかも?
 巷には「本体無料の『魔女の迷宮』でいいんじゃない?」という意見もありますが、『魔女の迷宮』は無料な分、広告が付いていて、それを削除する課金を考慮すると値段は変わりません。

 これからローグライクをやりたい方や、ローグライクのファンで「『シレン』は余裕だ」というレベルの方以外には、オススメの作品です。

ブレイブフロンティア ローグストーリー

スマホに適した操作性を持つ初心者でも遊べるローグライク

(画像はブレイブフロンティア ローグストーリー – AppStoreより)

ローグライクゲーム
・開発:オレンジキューブ(日本)
・販売:エイリム(日本)
・480円

iOS版ダウンロードはこちらAndroid版ダウンロードはこちら

文/カムライターオ

【あわせて読みたい】

 

「不思議のダンジョン」の絶妙なゲームバランスは、たった一枚のエクセルから生み出されている!? スパイク・チュンソフト中村光一氏と長畑成一郎氏が語るゲームの「編集」

 長畑氏はチュンソフトに経営企画の人材として入社しながら、『不思議のダンジョン』シリーズの企画を発案し、その後も長年にわたってこのシリーズを手がけているという人物である。しかし、中村氏が長畑氏の同席を依頼してきたのは、それだけが理由ではないようだ。というのも、この『不思議のダンジョン』というシリーズの、あの私たちが飽きもせず繰り返し遊んできた絶妙のゲーム設計は、長畑氏という一人の人物の職人的なある種の技能によって生み出されているらしいのである。

著者
Ultima Online』や『信長の野望 Online』、『シムシティ4』など、数々のゲームのファンサイトを作成してきた。
iPhoneアプリのレビューサイト「iPhone AC」を経て電ファミニコゲーマーのお世話に。 
シューティングとシミュレーションが特に好き。
Twitter:@Kamurai_Tao