ビジネス、今日のひとネタ

2019年3月初め、山梨県甲府市の高校生、赤池肇さんが、裁判所で名前変更の許可が下りたとネット上で報告しました。改名前の名前は「王子様(おうじさま)」でした。

多くの方がご存じのように、常識からは外れているとされる珍しい名前や、漢字の本来の読み方では読めない名前などを「キラキラネーム」と呼びます。赤池さんの話は、「キラキラネーム」の改名成功例だとして、メディアなどで話題になりました。

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子どもに「悪魔」と名づけ!?

1993年には、実子に「悪魔」と命名しようとした親からの出生届を地元自治体が不受理とした、「悪魔ちゃん命名騒動」が起こりました。当時は衝撃的なニュースとして大きく報道されたのですが、40代以上の読者の中には、この騒動を思い出して「あれからもう四半世紀以上も経つのか……」と思った方も多いかもしれません。

当時はもちろん「キラキラネーム」という言葉はありませんでしたが、この事件がのちに「個性的な名前」の流行の遠因となったという見方さえあります。また、「キラキラネーム」という言葉自体、2012年の新語・流行語大賞にノミネートするなど、子どもの名づけに関することは、常に世の中の関心が高いテーマでもあります。

また、キラキラネームへのある意味でのアンチテーゼとして、昭和・高度成長期の日本でよく見られた「〇男」や「△子」のような少し古風な名前を「シワシワネーム」と呼ぶそうで、これもひそかに流行の兆しを見せているようです(そのネーミング自体はどうかと思いますが)。

ほかにはどんな名前が?

今回、話題となった高校生のもともとの名前は、「王子様」でした。ほかにはどのようなキラキラネームの方がいるのでしょうか。

たとえば、いくつかの「赤ちゃん名付け支援サイト」やそうしたサイト内のランキングには、次のような名前が並んでいます(ユーザーが任意で、赤ちゃんに付けた名前を登録したり、姓名判断で入力した名前をもとにランキング化したりしていることが多いため、実際にはいない名前もあるかもしれません)。

月陽
黄熊


澄海
今鹿
萌夢

混沌
宝冠
​在波

それぞれ、どんな読み方をするか、わかりましたか?

知らないと読めない……?

正解はこちらです。

月陽(るる)
黄熊(ぷう)

光(ちゃくら)
澄海(すかい)
今鹿(なうしか)
萌夢(もあ)

混沌(かおす)
宝冠(てぃあら)
在波(あるふぁ)

確かに、どうしてこのような読みになるのだろうという名前も並んでいますね。「海」という漢字を使っているのに、どうして読みは「すかい」なのかといった素朴な疑問も湧きます。

また、ネット上では、「芸能人の子どもってキラキラネームが多いよね」という意見も見受けられます。「個性が命」の世界ですので、子どもの名づけでもそういう面はあるのかもしれませんが、そもそも一般の人よりも「子どもの名前」が報道される機会が多いこと(仮にそうした名前をつける確率は一般人と同じでも、「子どもの名前が報道されること」自体が芸能人のほうが圧倒的に多いので、「芸能人の子どもに特に多い」ように思ってしまうこと)も、理由としてはあるでしょう。

ネットがざわついた、ある事件の容疑者名

最近では、違う角度でもキラキラネームが話題になりました。2019年1月、ネット上の匿名掲示板に、爆発物などを使って広島西警察署を襲撃すると書き込んだ容疑で、広島県警は広島市西区に住む無職の女を逮捕しました。逮捕されたのは中田未祐容疑者(57歳)。名前の漢字などにことさら変わった点はありませんが、事件を報じる地元テレビニュースの字幕では、「未祐」に「えめらるだす」とふりがなが振られていたのです。

このニュースには、「57歳でキラキラネーム!?」「どう読んだらそうなるんだ……?」とネット界隈は騒然。名前からは、漫画家の松本零士さんの作品に出てくる「クイーン・エメラルダス」を想起する人が多かったのですが、容疑者の生まれ年は、作品の発表より前です。そのため、「日系人で、もともとエメラルダスという外国名と日本の漢字名の2つを持っていたのでは?」「もとは別の読み方の名前だったのを、漢字は変えずに読み方だけ変えたんじゃないか?」など、さまざまな推測が飛び交いました。

後者の推理には、日本の戸籍制度も関係しています。というのも、戸籍に登録される情報は名前の漢字(ひらがな・カタカナも可)だけで、読み方については、住所地の役所に申請すれば、比較的かんたんに訂正・変更できる場合が多いからです。法律上では、たとえば「一郎」と書いて「マイケル」と読もうと「ウラジーミル」と読もうと構わないのです(ただし、訂正が受理されるかどうかは自治体によって判断が異なる場合があります)。

増えている理由

話を戻しましょう。キラキラネームは今なぜ増加しているのでしょうか?

社会学や日本語の専門家などによると、

・「他人と違う名前をつける」「オリジナリティを出す」ことで個性を表現したいという考えが時代とともに強くなってきたこと
・以前よりも外国人の名前を見聞きする機会が増え、かつては日本人にあまりなかった名前や音にも違和感がなくなったこと
・むしろ外国人のような名前をつけたくなる人も増えたこと

などがあり、現在のような広がりを見せてきたという見方が主流です。

まわりや本人はどう思っているのか?

こうしたキラキラネームに対して、世間ではどのような声が上がっているのでしょうか? まずキラキラネームとは無縁の世代の大人からは、

「つける側は良くても子どもがかわいそう」
「物心ついたとき本人がどう思うかとか、まったく考えてないよね」
「子どもはペットじゃない」

といった否定的な意見が圧倒的に多いようです。

また、キラキラネームをつけられた本人たちは、

「初対面の人にも一発で覚えてもらえる」
「親からもらった大切な個性だと思ってる」
「10何年呼ばれてるし愛着わいてきた」

といった前向きな声もある一方、

「自己紹介で笑われる」
「名前聞かれて答えた後に微妙な空気が流れるんでつらい」
「覚えてはもらえるけど、たいてい悪い印象で覚えられるのが嫌」

など、さまざまな場面での苦労や苦悩を訴える人もいます。

名づけた親の声

一方で、キラキラネームをつけた親からは、

「批判する人は何様なんだ」
「子どもの幸せを願って付けてる親の気持ちがわからないの?」
「他人からとやかく言われる筋合いはない」
「みんながそんな名前になれば良い。そういう時代が来る」

といった声も上がっています。

ただ、14世紀前半ごろに吉田兼好がまとめたといわれる『徒然草』には、次のような記述があります。

「人の名も、目慣れぬ文字を付かんとする、益なき事なり。何事も、珍しき事を求め、異説を好むは、浅才の人の必ずある事なりとぞ」
(人の名前も、見たことのないような漢字を使ってつけようとするのは、何の得にもならないことだ。何事も、珍しさを追求し、変わった見方をよいものだとするのは、教養の浅い人間が必ずやるようなことである。『徒然草』第116段)

こうした問題は、はるか昔からあるということがわかりますね。

ロシアやドイツでは名づけに制限が

たとえば、前出の「悪魔」ちゃんほどではないにしても、客観的に見て多くの人が問題を感じるような名前については、名づけの時点で止めることはできないのでしょうか? 海外では、こうしたことに法律や制度の上で規制をかけていることもあります。

ロシアは2017年に、子どもに数字や記号、汚い言葉、役職名などの言葉が入った名前をつけることを禁止する法律を施行しました。変わった名前をつけることで、いじめの原因になったりするのを防ぐためだそうです。

またドイツでは、イエスを裏切った弟子のユダ(Judas)、アダムとイブの子どもで人類で初めて殺人を犯したカイン(Kain)、前出の日本の例と同じく悪魔(Satan)など「悪」を連想する名前、肩書や地位名、よく知られている地名やブランド名などは、原則として名前につけられないといいます。

日本では手続きが大変

今回、改名を報告した高校生は、日本テレビ『ZIP!』の取材に対して、キラキラネームをつけられた人は「辛い思いをすることがあると思う。そういう人たちが改名できることを伝えたかった」と語りました。日本では、改名する際の手続き制度は整っています。しかし、実際のところ、手続き自体の大変さなどから普及していないのが現実です。

日本では、上述のロシアやドイツのような規制の話は耳にしませんが、そもそも名づけが適切かどうかは、主観に関わる部分も多く、思想・信条の自由や表現の自由なども絡んでくる難しい問題でもあります。名づけの段階での規制は、こうしたセンシティブな問題を含みますし、法律をつくること自体も正しいのかどうかはわかりません。

ただ、少なくとも、今回の赤池さんのような「名前の悩みを抱える若者」を支える制度については、よりわかりやすく整えていってほしいところですね。