3月15日(金)深夜放送のドラマ24『フルーツ宅配便』テレビ東京)。第10話の監督は、1〜3話の監督を務めた白石和彌。

咲田(濱田岳)の中学校の同級生・小田ちん(前野朋哉)に、同じく同級生のえみ(仲里依紗)がデリバリーヘルスで働いていることがバレてしまう。

5話からずっと連絡が取れないえみ
咲田「えみ、うちの店に来ない? いまの店、酷いとこなんでしょう。そんなとこ辞めて、うちの店で働かない?」

最終章に入った第10話のラスト。咲田のこの台詞を支えるために、これまでの1〜9話があった。

えみは、いま別のデリヘル店で働いている。「フルーツ宅配便」のオーナー・ミスジ(松尾スズキ)によると、えみの働く店は、女をカタにはめてボロボロになるまで働かせ、使えなくなったら捨てる悪徳店だ。えみがそこで働いていることを知った第5話では、咲田はえみにこう言った。

咲田「この業界に染まっちゃダメだよ。きっと金銭感覚とかもおかしくなっちゃうかもしれないし、普通の恋愛だってできなくなっちゃうかもしれない。いまなら戻れるよ、ね? えみ」

風俗を辞めるようにアドバイスした咲田に、えみは「咲田くん、私、もう戻れないんだよ」と返事をした。えみは、家庭環境の影響で風俗で働くしかない人生を送っていた。この会話を最後に、5話以降ずっとえみからの連絡は絶たれている。

中島歩が演じる素朴で熱い男・井上
咲田とえみの固まってしまった関係を動かすかのように、他の登場人物の存在が波となって押し寄せてきた10話。咲田たちの同級生で医師の井上(中島歩)が登場した。

咲田、小田ちん、井上は、合コン相手の女の子たちによる職業差別を目の当たりにして、すっかり弱っていた。女の子たちは、井上が外科医と聞いてはしゃぎ、発展途上国での激務薄給という状況を知ってあからさまにがっかりする。咲田が「人材派遣の会社で働いている」と濁して言うと、今度は目の色を変えてそちらに食いつく。

帰り道、こんな飲み会に誘ってごめんと謝る小田ちんに、いいよと言い「ただー……、もうちょっと3人で飲みたいな」と続ける井上。もう一軒行こうぜ! と先陣を切るでなく、照れたような甘えたような口ぶり。その言い方ひとつで、初登場にも関わらず咲田と小田ちんの中に「仲の良かった同級生」として馴染んでしまう。

グァバ(松岡依都美)は、昼はデリヘル嬢、夜はスナックのママとして働きながら、シングルマザーとして娘を育てている。「もうちょっと3人で」と言う井上と小田ちんを、咲田はグァバのスナックに連れて行った。

グァバ「こういう人が世の中救ってくれてるから、あたしみたいなろくでなしがお酒飲めるのね! あっはっはー」

井上の職業を聞いて、酒を飲みながらグァバは笑う。井上は咲田に「自分だけが『人のために』なんて思ってるだけで、実際誰も救えてないし」「そんな簡単に人は救えないよ」とこぼす。

咲田は1話からずっと、誰かを救おうとして失敗し続けてきた。1話に登場したゆず(内山理名)の借金をかわいそうに思い金を貸そうとしたことに始まり、咲田が善意と思い込みでやってきた人助けは、ほとんど失敗、空回りに終わった。

グァバは、セクハラ客から鮮やかに従業員の女の子を守り、昼も夜も働いてこどもを育て上げている。その姿を見た咲田、井上、小田ちんは感銘を受ける。

井上「ママさんみたいなひとが、本当に立派な人なんだと思います。俺もがんばんなきゃって思いました」

酒に酔ったこともあいまってか、目の周りを赤くして涙を溜める井上。彼の普段の姿がわからなくても、これだけで心の熱い男だということが伝わる。2014年のドラマ『すべてがFになる』(フジテレビ系)の出演時は「狂った演技がすごい」と話題になった俳優・中島歩だが、こんな素朴で心の熱い青年の役もマッチしている。

デリヘル店長と医師、どちらも馬鹿にされるときもあれば尊敬されるときもある。咲田と井上はどちらも「自分は人を救えているか」と悩んでいる。

イチゴの悩みに咲田とえみが重なる

イチゴ「私ってなんもない。あるのフェラチオと素股のテクぐらい」

イチゴ「お金稼ぐためにデリヘルとかしてさ、こんなことしてどんどん年取っちゃうのかなあとか思ったら、眠れなくなるんだよね、最近」

フルーツ宅配便のイチゴ(山下リオ)が、咲田に自分の思いを打ち明けた。

イチゴ「人生って努力でどうにかなるものなのかな」
咲田「努力でなんとかなることって、もしかしたら、それは微々たるものかもしれないけど、でも、努力でなんとかなることはあると思うよ」

イチゴの吐露に、咲田はえみと自分を重ねる。自分にできる微々たること、それはえみを辞めさせることではなく、少しでも良い環境で働かせてあげること。デリヘルで働く咲田だからこそ、その環境が用意できる。

咲田「えみ、うちの店に来ない? いまの店、酷いとこなんでしょう。そんなとこ辞めて、うちの店で働かない?」

いつも何かと助言してくれるミスジが、えみをフルーツ宅配便に呼べと言ったわけではない。むしろ手を引けと言っていた。それにも関わらず、咲田はえみをフルーツ宅配便に呼んだ。多くのデリヘル嬢に出会い、失敗と空回りを重ねた末に咲田が選んだこの答えが尊い。

9話の監督を務めた白石和彌は、麻薬取締法違反容疑で逮捕されたピエール瀧(本名・瀧正則)容疑者が出演している映画『麻雀放浪記2020』の監督でもある。上映、放送などの自粛が相次ぐ中、白石監督は映画の公開を発表する記者会見に出席していた(参考)。

また、3月におこなわれた『ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2019』のオープニングセレモニーでは、女優から暴行被害で訴えられているキム・ギドク監督映画が同イベントで上映されたことについて「どうしてそれを上映するのかは、映画祭として公式にコメントを出すべき」と提言している(参考)。

話し合いや問題に向き合うことから逃げない白石監督が、咲田が話し合うこと、向き合うことで小さな光明を見いだした10話を撮った。今話の説得力は、向き合うことにどんな困難があり何が必要かをわかっている白石監督だからこそ出せたものかもしれない。

3月22日(金)深夜に放送の第11話には、客のこどもを妊娠してしまうスモモ(阿部純子)が登場。そして、業界ではタブーの「引き抜き」をした咲田に、悪徳店の制裁はあるか。
(むらたえりか

▼配信サイト
Amazonプライムビデオ(テレビ東京オンデマンド)
ひかりTV(テレビ東京オンデマンド)

ドラマ24『フルーツ宅配便』テレビ東京
毎週金曜 深夜0時12分から放送
出演 濱田岳、仲里依紗、前野朋哉、徳永えり、山下リオ、北原里英、原扶貴子、荒川良々松尾スズキ、ほか
原作 鈴木良雄『フルーツ宅配便』(小学館・ビッグコミックス)
脚本 根本ノンジ
監督 白石和彌、沖田修一、是安祐
楽曲制作 高田漣 
主題歌 EGO-WRAPPIN’「裸足の果実」(NOFRAMES / TOY’S FACTORY)
エンディングテーマ 超特急「ソレイユ」(SDR
チーフプロデューサー 浅野太(テレビ東京
プロデューサー 濱谷晃一(テレビ東京)、木下真梨子(テレビ東京)、赤城聡(フラミンゴ)、押田興将(オフィス・シロウズ) 
制作 テレビ東京 オフィス・シロウズ
製作著作 「フルーツ宅配便」製作委員会

鈴木良雄『フルーツ宅配便』7巻(小学館・ビッグコミックス)