今冬放送の連ドラで最大の話題作となったのは、「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)で間違いないでしょう。

 同作は放送前こそ「教師が生徒を人質に取る」という過激な設定がフィーチャーされていましたが、中盤以降は「SNSでの誹謗(ひぼう)中傷を問う」「書き込む前に相手の顔や周囲への影響を考えてみよう」という本当のテーマが明らかになりました。その時代性をとらえたテーマが、「ずっと思っていたことをよくぞ言ってくれた」「大切なことに気付かせてくれた」という称賛の声につながったのでしょう。

 その他の作品でも、「スキャンダル専門弁護士 QUEEN」(フジテレビ系)は、弁護士がネットを活用しながら情報操作して依頼者を救うという物語でしたし、「ゾンビが来たから人生考え直した件」(NHK)は、ユーチューバー・尾崎乏しいの目線や行動を取り入れていましたし、「JOKER×FACE」(フジテレビ系)は、動画配信サイトへの投稿で悪人を裁くというコンセプトの作品でした。

 また、春ドラマに目を移しても、SNSで「バズった」ことに翻弄(ほんろう)される家族を描いた「向かいのバズる家族」(読売テレビ日本テレビ系4月4日午後11時59分スタート)、ネット上の悪意に苦しむ人々を救うサスペンス「デジタル・タトゥー」(NHK、5月18日午後9時スタート)の放送が予定されています。

 いずれも、ネットを軸に据えた作品であり、各局が意図的に制作している様子を感じるのではないでしょうか。

ネット上の問題が中高年層にも浸透

 近年、ドラマ業界は、「視聴率を獲得するために、中高年層をメインターゲットにした事件解決ドラマが過半数を超えている」という状態が続いていました。それだけに、「若年層をターゲットにしたネットを軸に据える」という作品は、これまでとは真逆の戦略。なぜ、このような変化が生まれているのでしょうか。

 最大の理由は、「ネットに関わるトラブルが、情報番組やワイドショーで連日のように報じられる」など、社会問題として認識されるようになったから。若年層だけでなく、中高年層もネット上のトラブルに触れるなど、視聴ターゲットが広がっているのです。

 実際、「3年A組」の放送中、バイトテロなどの不適切動画投稿が相次ぎ、朝から夜までさまざまな番組で報じられました。ドラマの内容と見事なまでにシンクロしたことで、「(主人公の教師)柊一颯の言っていた通りじゃないか」などの声が飛び交い、それまで若年層が中心だった同作の視聴者層は、徐々に広がっていったのです。

 もともと、テレビドラマには、「社会を映す鏡」のような役割があり、それを自負しているスタッフほど、「これだけ問題になっている以上、ネットを軸に据えたドラマをもっと作るべき」という姿勢を見せているのではないでしょうか。昨年、NHKが「フェイクニュース」「炎上弁護人」という2つのドラマを放送したことからも、そんな姿勢を感じます。

リアルでも、リアルでなくてもたたかれる

 ただ、ネット上のことに限らず、現実に起きている社会問題をドラマの軸に据えることは、放送するテレビ局にとってリスキー。他の作品以上に丁寧な取材が求められるとともに、「『リアルすぎる』または『リアリティーがない』とたたかれやすい」「まだ、傷が癒えていない被害者が多く、さらに傷つけてしまう」などの危険性があるものです。

 もちろん、リスクばかりではなく、「3年A組」のように「タイムリーなテーマの分、当たればデカイ」のも事実。それでも、刑事や弁護士が主人公の無難な事件解決ドラマに走るスタッフが多い中、リスク覚悟でネットを軸に据えた作品に挑んでいるだけでも、称賛に値するのではないでしょうか。

「3年A組」のヒットを受けて、今年の下半期以降、ネットを軸に据えたドラマがますます増えていくでしょう。

コラムニスト、テレビ解説者 木村隆志

菅田将暉さん(Getty Images)