ミニバンと本格SUVのクロスオーバーという独自のキャラクターが支持され根強い人気を保つデリカD:5が12年ぶりに大幅改良を敢行。今回のビッグマイナーチェンジでその魅力はどう変化したのか!? REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune) PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio

h2他に類を見ない個性で売れ続けるデリカD:5

 三菱デリカD:5(以下、D:5)の今回のマイナーチェンジは、この型式としては最大規模のものになるだろう。そして、それは2007年1月の発売から実に12年ぶり……という、なかなか稀有なタイミングで実施されたことになる。

 D:5の骨格設計は「GSプラットフォーム(あるいはC/Dプラットフォーム)」と呼ばれるもので、同系統の骨格を持つ三菱車には、ほかに先代&現行アウトランダー、現行RVR、ランサーエボリューションX(ランエボ)、ギャランフォルティスがあるが、D:5のデビューは先代アウトランダーに次ぐ2番目だった。

 アウトランダーは12年に現行型へとフルモデルチェンジを受けている。現行RVRの国内発売は10年だ。D:5より後にデビューしたランエボは生産終了しており、ギャランフォルティス日本国内の販売を終えて、現在はランサー名義で豪州やアジアの一部市場で販売されるのみとなってしまっている。つまり、D:5は同じ血統を持つ三菱車でも最古参の一台であり、時系列だけなら、とっくにフルモデルチェンジするか、販売・生産戦略の大幅変更があっても不思議ではない頃合いではある。

 しかし、実際のD:5がこうして基本設計を維持したまま、国内専用車という販売戦略も大きく変わらず(D:5はデビュー当初でも右ハンドル市場に少量輸出されるだけだった)に、こうしてライフを延長することとなった最大の理由は、D:5がいまだに国内市場だけで年間1万台以上……と根強く売れているからだ。一説にはフルモデルチェンジに向けた企画も胎動していたようだが、そうこうしているうちに、三菱本体がルノー日産とアライアンスを締結。三菱全体の商品戦略がプラットフォーム戦略を含めて根本的に見直されることになり、D:5にはもう少し頑張る必要が出たということだろう。

 それにしても、10年選手になってもこれだけ根強い人気を保っているのは、やはり「本格ミニバンと本格SUVのクロスオーバー」というD:5の成り立ちそのものが唯一無二で、ライバル不在だからというほかなく、このページのような企画で一緒に連れ出すライバルについては、当然ながら迷わざるを得ない。

 現在のD:5商品企画を率いる大谷洋二チーフプロダクトスペシャリストは「クルマそのものとして競合する相手は存在しません」としつつ、「車形からすればD:5はワンボックスミニバンで、ヴォクシー/ノア、セレナステップワゴンなどと比較されることが実質的には最も多いでしょうか」と続けた。といっても、これら国産ミニバン3台を連れ出すだけでは、D:5らしさを探ることにはならない。というわけで、今回は「ミニバン」や「3列シート」、そして「SUV」といったポイントに加えて「ディーゼル」や「Cセグメントサイズ」といったD:5にまつわるいくつかのキーワードヒントに、ご覧の3台を連れ出すことにした。

h2走りと内装の質感を向上し最新CセグSUV市場に参戦

 新しいD:5を走らせると、ご想像のとおり、静粛性のアップが何より顕著である。これまでのD:5のディーゼルは良くも悪くも、古典的かつ盛大な音振が特徴で「ドシンッ」と始動して「ガラガラ」とアイドリングしていた。これと比較すると、ボディに徹底的な遮音・吸音対策が施されたD:5のディーゼルノイズは従来より遠くなったのは確かである。「3列シート」、「SUV」、「ディーゼル」、「Cセグメントサイズ」といったキーワードから選んだランドローバーディスカバリースポーツ(以下、ディスコスポーツ)は7人乗りである。ディスコスポーツが搭載するディーゼルエンジン「インジニウム」はガソリンと共通設計のアルミブロックを採用する最新設計思想を売りにする。そんな最新ディーゼルはさすがにエンジン本体からして三菱より静かで滑らかな印象で、さらにはD:5よりわずかに重いディスコスポーツのボディを、それ以上にパワフルに速く走らせる。

 従来よりギヤが2速増えた新しいD:5では100㎞/hの回転数が従来より約200rpm低い1600rpm弱となるが、9速ATのディスコスポーツは同じ速度を1300rpmで走らせる。エンジン音は彼方でかすかに聞こえるだけだし、またその音質も一瞬ガソリンと区別がつかないほどきめ細かい。

 D:5と比較すると、まるで無音かと思えるほど……というのはさすがに大袈裟だが、いずれにしても、D:5は現代のディーゼルとして古典的な味わいが健在である。アイドルストップ機能が追加されたので停車中は掛け値なしに無音となるが、エンジンが回り出すと、一気に賑やかになる。ただ、絶対的な音量や振動が従来より明らかに減少したこともあり、以前のように悪い意味での古臭さは感じさせなくなった。もっとも、そんなパワートレーンの好印象には新しいアイシン製8速ATの効果も大きい。新しい8速ATは細かいギヤ刻みでエンジン回転数を下げるだけでなく、アイシンらしい精密電子機器のような精緻で素早い変速がすこぶる滑らかで心地良い。

 今回試乗した「HSE」グレードこそ700万円台という高価格のディスコスポーツも、最も安価な「ピュア」であれば、D:5と比較できなくもない400万円台に収まる。そんなディスコスポーツだが、ディーゼルの静粛性だけでなく、クルマ全体にみなぎる剛性感、そして内外装の質感でも、アタマひとつ抜けているのはさすがである。

 従来型ではすべて硬い樹脂部品で覆われていたD:5のインテリアも、新型ではガラリとイメチェンするとともに質感も明確に上げた。メインダッシュボードをはじめ、ドアトリムの上半身やセンターコンソールの縁などの手足が当たりがちな部分は、新たに柔らかく手の込んだステッチ入りのソフトレザーパッドがあしらわれて、D:5のインテリアは素材づかいの面でも高級化が著しいCセグメント最新水準に追いついた。実際、D:5の前席からの眺めや触感は、ディスコスポーツにはわずかに及ばないものの、国産の最新「CセグメントSUV」であるスバルフォレスターにほぼ匹敵して、同じ「ミニバン」として連れ出したホンダステップワゴンスパーダ(以下、ステップワゴン)よりは確実に優るものとなった。

h2設計年次の古さを感じさせないリラックスできる居住空間

 今回のディスコスポーツを筆頭に同じ三菱のアウトランダー、そして日産エクストレイルなど、3列シートを用意するSUVは少なくない……というか、多人数乗り乗用車は、国際的にもはやSUVが主流である。

 このディスコスポーツでも、2列目のスライド機構を融通すれば大柄な成人男性が3列すべてで膝を揃えられるパッケージングには感心する。とはいえ、3列目のヒール段差は非常に小さく、いわゆる「体育座り」を強いられて長距離は遠慮したくなるのも厳然たる事実。この点は他社SUVも大差なく、さらに大柄なマツダCX-8でも3列目乗員には何かしらのガマンが必要なのは否定できない。それと比較すれば、D:5とステップワゴンの最後列は「大人のための快適居住空間」と呼ぶにさしつかえない。改めて日本のFFワンボックスミニバンの空間効率の高さを思い知らされるところである。

 ただ、同じワンボックスミニバンとしてみるとD:5とステップワゴンの設計年次には8年以上の差があり、シート収納法や空間効率で言えば、やはり新しいだけのアドバンテージがステップワゴンにはある。ボディ全長はわずかに短く、最低地上高差を差し引くとボディ全高は両車ほぼ同じだが、レッグルームやヘッドルームの絶対的な余裕はステップワゴンに軍配が上がるのだ。

 D:5のシートは表皮は刷新されたが骨格は3列とも従来からのキャリーオーバーで、シート設計自体は新しくない。サードシート収納法は左右跳ね上げ式だが、その出し入れの操作力、及び収納時のかさばり具合も特筆すべき点は特になく、D:5のサードシートは良くも悪くもオーソドックスである。

 しかし、実際のサードシートの居心地もすべてがステップワゴンの勝ちかというと、そう言いきれないのが面白い。D:5のそれはシート設計こそ新しくないもののクッションは十二分に分厚い。背の高い男性ではわずかに太ももが浮く着座姿勢ながらも、リラックスして座れるのはうれしい。また、左右方向の余裕だけは明らかにデリカに軍配が上がる。いかに8年の設計年次差があれど、5ナンバー枠を守りながらすべてギリギリに設計されているステップワゴンに対して、最初から伸び伸びとパッケージされたD:5に分があるのは明らかだ。

h2本格SUVに引けをとらない悪路性能に磨きが掛かる

 今回連れ出したディスコスポーツとフォレスターは、最低地上高、各部の走破性アングル、サスストローク、4WDシステム……といった悪路性能の指針となるすべての性能で、最新の同クラスSUVでもトップクラスと評価されている。しかし、D:5は完全なミニバンパッケージながらも、これら悪路性能の指針で2台に大きく引けを取らない。

 今回の取材では残念ながらオフロードを走ることはできなかったが、新しいD:5は刷新されたフロントセクションの剛性アップに合わせて、フロントのバネレートを高めて、さらにリヤショックアブソーバーを大径化して内部バルブを高応答性のものに改良するなどの変更が施されている。ただ、これらのシャシーチューンはあくまで「悪路性能や操縦安定性は従来レベルをキープする」という開発目標のもとでボディ剛性バランスの変化に対する補正が主眼だそうで、意図的に舗装路での性能アップに特化させるなどの宗旨替え、コンセプトの変更はしていない。

 それでも、開発現場は「せっかくやるなら……」とリヤの追従性などを明らかにレベルアップさせたそうで「極限の走破性よりも、林道やダートなどのそうした未舗装路での接地感や安定性も増しています」と開発担当氏は語る。その効能はオンロードでの乗り味にも現れており、舗装路での高速巡航における安心感も明確に向上している。さらに、フロントの接地感やリニアリティも新型の方が好印象で、従来のバネ下が暴れるようなクセも払拭された。

 そうは言っても、完全に本格SUVレベルの地上高に、本格ワンボックスミニバンのボディを組み合わせたD:5は、お世辞にも低重心とは言えず、同じ高速周回路で乗り較べれば、地に足のついた安定感ではディスコスポーツとフォレスターが先んじられているのは明らかだし、同じミニバンボディのステップワゴンより上下動が大きいのも否定できない事実ではある。

 それでも、今回の大規模マイナーチェンジで、あえて車高をローダウンしたり、あるいはロール剛性をはっきりと高めたり……といった宗旨替えをしなかった点は、開発陣の見識として全面的に賛同したいところだ。高速で必要以上に飛ばしたり、コーナーであえて意地悪にイジめるといった行為をしない限り、D:5は今回の4台の中でも最も見晴らしが良く、いかなる時も柔らかさを失わないサスペンションストローク感はなんとも気持ちいい

 整備された路面でぶっ飛ばした時のフラット感はなるほど、全高が低くフットワークも引き締まったSUVや地上高の低いスパーダに分があるのは否めない。こうした場面でのディスコスポーツの硬質感、そしてフォレスターリニアフラットな身のこなしは最新SUVとしても最上位クラスと評すべきだろう。またD:5よりナロートレッドなのに腰高感をいだかせないステップワゴンフットワークはさすがに新しい。

 その一方で、クルマ全体を大きくバウンドさせるような凹凸では、D:5はたっぷりとしたストローク感を伴いながら、大海原を行くクルーザーのようにゆったりと吸収してくれる。それにしても、こうした過酷な波状路でも、大容積ボディやフロアがミシリともいわないD:5の剛性感には素直に感心する。このあたりは今回の改良の巧妙さとともに、お世辞にも新しいとは言えないGSプラットフォームのそもそもの素性の良さがうかがえるところである。

 ミニバンとSUVの本格クロスオーバーという、いまだライバル不在のD:5は、ひとつひとつ性能をピンポイントで見ると、本格SUVディスコスポーツとフォレスター、あるいはミニバン専業のステップワゴンに譲るところがあるのは仕方ない。しかし、そのふたつを融合すると、こんなに万能で頼りがいがあり、そして独特の心地良さとマニアックな魅力が醸し出されるとは、改めてD:5の企画力と商品力の妙を感じるところである。それと同時に、今回のマイナーチェンジでも、その本来の魅力をなにひとつ薄めなかった開発陣の姿勢には、クルマオタクのひとりとして拍手を送りたい。

h2三菱デリカD:5
基本骨格は踏襲しつつも、ボディで言えば操縦安定性に重要なフロントセクションの改良と静粛性の向上。エンジンについては尿素SCRシステムを導入したクリーンディーゼル化により、商品力が高められた。

MITSUBISHI DELICA D:5 P(8人乗り)
直列4気筒DOHCディーゼルターボ/2267㏄ 最高出力:145㎰/3500rpm 最大トルク:38.7㎏m/2000rpm JC08モード燃費:13.6㎞/ℓ 車両本体価格:421万6320円

h2ホンダステップワゴン
日本の自動車市場で最も熾烈な開発競争が繰り広げられるMクラスミニバンの中で、 使い勝手やハイブリッドシステムでライバルを一歩リードする。わくわくゲートや、折り畳むと見事に姿を消す3列目シートは秀逸な機構だ。

HONDA STEP WGN SPADA HYBRID G・EX Honda SENSING
直列4気筒DOHC+モーター/1993㏄ エンジン最高出力:145㎰/6200rpm 
エンジン最大トルク:17.8㎏m/4000rpm モーター最高出力:184㎰/5000-6000rpm モーター最大トルク:32.1㎏m/0-2000rpm JC08モード燃費:25.0㎞/ℓ 車両本体価格:355万9680円

h2スバルフォレスター
ミニバン同様活況を呈するSUV市場の中でも本格的な走行性能を持つのがフォレスター。連綿と熟成される水平対向エンジンやシンメトリカルAWDの存在も、スバルオリジナリティデリカD:5同様熱烈なファンを持つ。

SUBARU FORESTER X-BREAK
水平対向4気筒DOHC/2498㏄ 最高出力:184㎰/5800rpm 
最大トルク:24.4㎏m/4400rpm JC08モード燃費:14.6㎞/ℓ 
車両本体価格:291万6000円

h2ランドローバーディスカバリー
悪路走破性の高いクロスカントリー4WD車の源流のひとつであり、そこに高級車としての要素を融合させたのがランドローバー。そのブランド内で最もカジュアルな存在が3列シートモデルも設定するディスカバリースポーツだ。

LAND ROVER DISCOVERY SPORT HSE Luxury
直列4気筒DOHCディーゼルターボ/1999㏄ 最高出力:180㎰/4000rpm 
最大トルク:43.8㎏m/1750rpm JC08モード燃費:―
車両本体価格:763万円