ここ数年、公共の場所での暴力事件や傷害事件が多く報じられるようになりました。あおり運転でキレる若者、電車が止まって駅員に文句を言うサラリーマン、カッとなってパートナーを殺してしまう夫婦など、一瞬で「キレる」人が増えている実感を持つ人も少なくないでしょう。

 ニュースで見聞きするだけでも「キレる高齢者」が増えているように感じます。タバコポイ捨てしたのをとがめられた男が小学生の首を絞めたり、見知らぬ人を刺すなど、高齢者による事件が発生しています。

 では、ここで質問です。「キレる」要因は老化や病気でしょうか。はたまた生まれ持った性格でしょうか。

 実は、この3つは全て高齢者がキレる原因となります。

 人間の前頭葉は怒りの感情をコントロールします。しかし、老化により機能が低下することがあり、怒りを我慢できなくなるケースがあります。加えて、耳が遠くなっていると相手の話が聞こえず、さらにイラだち、感情が爆発してしまうケースもあります。つまりは「キレる」感情は老化と大きく関係するのです。年を取ると、しだいにまだ感情をコントロールできない子供のように戻っていってしまうわけです。

 老化より怖いのが、病気によって自分をコントロールできなくなる症状です。

 昨年11月、横浜の商店街で女性会社員が高齢者に刃物で何度も刺される事件が起きました。コンビニを出た女性を背後から刺した容疑者は、ふだんはおとなしいのに酒を飲むと豹変すると報道されましたが、この時も酒を飲んでおり、「酒を買う金を取る目的だった」と供述していました。

 この容疑者は、脳梗塞により脳神経細胞が死んでしまい、感情や衝動が抑えられなくなった可能性があります。もしかすると、脳血管が詰まる脳血管性認知症を患っていたかもしれません。この症状は感情の起伏が激しくなり、ちょっとしたきっかけで泣いたり、興奮したりしますが、このとおり、キレる原因の一つでもあります。

 生まれ持った性格もキレる要因の一つです。三つ子の魂百までと言われるとおり、子供はすぐに泣いたり怒ったりしますが、大人になるに従って感情を抑えることを学習し、感情を抑圧することで社会生活を送っていきます。怒りの感情が湧いても、手を出すと損をすることを学びますが、中にはこの学習がうまくいかない人がおり、他人に危害を加えてしまうのです。

 暴力事件や殺人事件を起こす人は、生まれ持った攻撃性や衝動性を抑えられないことが多いとも言われます。カッとなったが最後、相手が謝ろうが血を流そうが、周りが見えないほどの興奮状態に陥り、気がつけば相手を傷つけてしまっています。

 以上のような症状が重かったり、また性格的な面も重なることで、「キレる」お年寄りが増えているのです。

 短気は損気です。相手に罵倒されて頭にきた時、5秒ほど我慢して深呼吸をすること、一呼吸置くことで「損」は回避できます。

「キレやすい高齢者」に困っているその家族は、まずは専門医で脳の診療を受けてください。介護に行き詰まった時、無理をするとストレスがたまり、自分や家族の健康が保てなくなります。最悪の結果になる前に、今後をどうするか、地域包括支援センターや認知症カフェ(有志団体によるケアシステム)などに相談するのも一つの手段です。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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