新年度を前に、認可保育所の選考を巡ってSNS上に「18希望出して全部落ちた」「2次も落ちた」「保育園に入れなかったのは誰が悪い?」などの声が寄せられています。国や自治体も対策を続けているものの、待機児童解消には程遠いのが現状です。待機児童が減らない要因について、自治体の担当者に聞きました。

2018年4月時点で、待機児童は全国1万9895人

 厚生労働省の発表によると、2018年4月1日時点の全国の待機児童数は前年比6186人減の1万9895人。待機児童数が最も多い自治体は、兵庫県明石市で571人、前年比で待機児童の増加数が最も多い自治体は、さいたま市315人増でした(前年は0人)。

 明石市福祉局待機児童緊急対策室の担当者に聞きました。

Q.なぜ、明石市で待機児童が増加したのですか。

担当者「市内の出生数増に加え、他の自治体から転入者が増加していること、また、保護者の間で就労意欲が高まり、保育所の利用を希望する人が増えたことなどが要因です。なお、市内の就学前児童は1年で約400人増えました。

当市では以前から、中学3年までの医療費無料化、2人目以降の子どもの保育料無料化など、子育て支援に力を入れてきました。多くの人が当市の子育て支援策に期待し、保育を申し込んでいただいたことで、需要が供給を大きく上回る結果となり、待機児童が増えたと考えています」

Q.待機児童解消に向けた対策は。

担当者「2018年1月から順次、市立幼稚園での預かり保育に対応しています。2019年4月には、新たに6つの保育所を開設します。うち3施設は定員が200人規模です。2019年度の新規受け入れ枠は、市立幼稚園分も含め2000人(2018年度は952人)に増やしました。

保育士の確保にも力を入れています。18年10月から、明石市内の私立認可保育施設(保育所、認定こども園、小規模保育事業所)で保育士として採用された人を対象に、継続勤務7年で最大150万円を支給する取り組みを開始しました」

Q.2019年度向けの保育園の選考状況は。

担当者「現在集計中のため、詳細は4月以降になるまで分かりません」

Q.2019年度以降の対策は。

担当者「引き続き保育所の受け入れ枠を増やしていきたいと考えています。2019年度は新たに1200人の枠の拡充を目指します」

 増加数がワースト1位だった、さいたま市子ども未来局幼児未来部のびのび安心子育て課の担当者にも聞きました。

Q.待機児童が大幅に増加した要因は。

担当者「6歳未満のお子さんの数はここ数年、おおむね横ばいですが、共働き世帯の割合が増えて、保育ニーズが高まり、認可保育所などの新規利用申込者が増加したことが要因だと考えています。新規利用申込者は過去最多の8497人(前年度比507人増)でした」

Q.待機児童を減らすための取り組みは。

担当者「認可保育所や認定こども園、小規模保育事業など認可保育施設の整備・拡充を積極的に進めて定員を増やしています。全ての区役所に『保育コンシェルジュ』を配置し、保護者の希望や状況などを確認しながら、ニーズに合った保育施設や保育サービスの情報提供、相談支援を行い、ハード・ソフトの両輪から対応していきます」

Q.2019年度向けの選考状況は。

担当者「現時点で正確な待機児童数を出すことはできませんが、待機児童を大きく減らすことは厳しい状況です」

Q.2019年度以降の対策は。

担当者「2021年4月に待機児童の解消を目指しています。2019年4月の開園に向け、認可保育所16施設(定員1229人)、小規模保育事業6施設(定員100人)、合計22施設(定員1329人)の整備を進めています。

また、2018年度に、夏休みなどの長期休業期間を含め、年間を通じて長時間の預かり保育を実施する幼稚園を『子育て支援型幼稚園』として認定しました。2019年度は、市が独自に補助金を交付することで当該幼稚園の預かり保育の利用料を軽減し、『共働きでも幼稚園に通わせたい』という保護者のニーズにも応えます」

民間企業も待機児童対策

 京都府長岡京市では、認可外保育所と幼稚園を併用する家庭向けの補助制度を2017年度から実施しています。子どもは、日中は幼稚園、その他の時間帯を認可外保育園で過ごし、両施設間をバスで移動します。子ども1人当たりの補助交付額は月額2600円~3万6800円で、子どもの年齢や市民税所得割額などに応じて異なります。

 長岡京市健康福祉部子育て支援課の担当者に聞きました。

Q.なぜ、こうした補助金制度を開始したのですか。

担当者「保育の受け皿を年々拡充していますが、保育ニーズがそれを上回るペースで増加しているためです。保護者に対し、多様な選択肢を提供したいという思いがありました」

Q.これまでの利用実績は。

担当者「2017年度は前期7人、後期6人でした。2018年度は前期6人、後期6人(見込み)です」

 待機児童対策を、民間企業もサポートしています。富士通東京都港区)は2018年11月、ソフトウエア「MICJET MISALIO 保育所AI入所選考」の提供を開始しました。多様な申込者データや各自治体の基準をもとに、AI技術で適切な保育所に割り当てる仕組みです。選考にかかる労力を大幅に軽減できるのが特徴です。

 同社広報IR室の担当者に聞きました。

Q.ソフトを開発した理由は。

担当者「きょうだいが別々の保育園に入園するケースなど、待機児童に関する問題が話題となっています。入所者全員の希望が可能な限りかなう選考の実現に貢献したいと考えました。開発期間は約1年です」

Q.メリットは。

担当者「従来、数百~数千時間かかっていた選考が数秒で完了するため、選考結果をすぐ保護者に通知することができます。自治体職員の働き方改革にもつながります」

Q.導入自治体は。

担当者「2018年度までに契約いただいた団体は、滋賀県草津市、東京都港区広島県尾道市高松市です。19年度以降は、50以上の自治体がシステムの本格的な導入を検討しています」

 今年10月からは、3~5歳の原則全世帯、0~2歳の住民税非課税世帯を対象に、幼稚園・保育所の利用料が無償化される見込みです。待機児童の解消は、より困難になるかもしれません。

オトナンサー編集部

待機児童が多い10自治体(2018年4月1日時点、厚生労働省の資料より作成)