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アーティストが持っている楽器の中で、特にお気に入りの逸品を紹介してもらうこの企画。第2回はトクマルシューゴが大量に所有する楽器の中から“今日の気分”で3つの楽器を紹介してくれた。その楽しみ方や魅力を聞く。

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1つは選べなかった

「好きな楽器を教えてください」っていう取材はよく受けるんですけど、いつも決められなくて。決められないからこそ、いっぱい楽器を集めるのが趣味になってしまいました。なので、そのときどきによって好きな楽器が変わっていくんです。今回も「1つ選んでください」と言われたんですが、3つ持ってきちゃいました。「今日の気分はこれ」という感じです。

もともとやっていたのはピアノで、そのうちギターが大好きになってギターばっかり弾いてたんですけど、自分で録音することになったらギターだけだとあんまり面白くなくて、ちょっとほかの楽器も欲しいなと思ったんです。まずベースを買って、ピアノも入れてみて、ドラムの代わりになるものは何かないかなと思ってスティックを買ってきて、叩けるものを叩いていました。身近にあるものを叩きつつ、「あれも欲しいな、これも欲しいな」と買ってたらだんだん増えちゃった、という。

でも、今回は“楽器”という依頼だったので、とりあえず楽器を持ってきました。ノコギリとミニ琴とオルゴールです。

“勘”で弾くノコギリ

この中では、楽器としては一番メジャーノコギリから紹介します。キセルの(辻村)友晴くんも使ってますよね。僕が最初に買ったノコギリは、日曜大工とかでも使える本物のノコギリです。本当に切れるノコギリなんで、刃に触ると痛いです(笑)。いわゆるミュージカルソウ(音楽用のノコギリ)というものが売られていることを知らなくて、ノコギリと弓があれば弾けると思っていたんです。

「(刃の部分を曲げて)S字にすれば音が出る」と聞いていたので、まずはそうやって弾いてみました。親指で刃を押し、膝で取手を抱えて、だいたい刃の真ん中くらいを弾くと音が出ます。膝を貧乏揺すりさせるとビブラートがかかる(笑)。音程は、絶対音感がある人以外は正確にはわからないです。“勘楽器”と呼ばれるものですね。勘で弾く楽器。ノコギリにもいろんなタイプがあります。海外にはもっと大きいものもあるし、音楽用のノコギリだともうちょっと音がふくよかで伸びがいい。音程もわりと高いところも低いところも出ます。

ノコギリってテルミンにも似た、サイン波っぽい音が出るんです。人の声のような音も出るし、すごく好きですね。テルミンはけっこう値段も高いし演奏するのもちょっと難しいけど、ノコギリは手軽に手に入るし、ちょっと練習すれば弾けるようになります。この中で一番小さいのは100円均一ショップで売ってます(笑)。十分楽しめるのでオススメですよ。なんなら弓もいらないです。叩くものがあれば音は出ますから。ノコギリしゃもじでもいけると思います。

ただノコギリ演奏者の方が苦労されるのは、やっぱり飛行機移動だと思うんですよね。楽器だけど刃物なので(笑)。楽器だと言い張ってもあんまりわかってもらえなくて、苦労していると思います。僕は飛行機に持って行ったことはないですけど、今日持ってきたやつには、刃渡り15cmのやつもありますからね。普通に道を歩いてても、警官に怒られるレベルですよね(笑)。

見た目が大好きなミニ琴

続いてはミニ琴。見た目が大好きなんです。本物の琴ってものすごく大きいし、高いんですけど、このサイズのはリサイクルショップだと数千円で買えると思います。この琴は、本物の琴を買いたいんだけど買えない人が家で練習するために作られたもので、何十年か昔にかなりヒットしたはず。琴と似たような原理だし、ボディも木で作られていて、畳もちゃんと付いているのが最高ですね。

音も確かに琴っぽい(笑)。すごくかわいいし、弾いて楽しめます。ギターが弾ける人なら、簡単に弾けると思います。チューニングも弦高を調整して自分が弾きたいと思う曲に合わせて設定すれば簡単。弦が外れやすいとか、弦が切れたらスペアがない、という不便な面もあるんですけど、また見付けたら買おうかなと思ってます。皆さんも見付けたら買ってみてください。

ずっと1人で遊べるオルゴール

3番目に紹介するこのオルゴールは、さらにテクニックがいらなくなります。これは一応全部分解できるタイプで、ピアノでいうハンマー部分と、鉄琴部分と、回転するオルゴール部分に分かれます。オルゴール部分の豆みたいな突起でハンマーを動かして鉄琴を叩く仕組みで、皆さんが知っているちっちゃいオルゴールの原型に近い感じ。突起を着け外しできるので、それでメロディを自作できるようになってるんです。何回でもメロディ作りをやり直せるし、好きな位置に適当に刺していけば誰でも作曲できるんですよ。こういうことを家で1人で延々とやってるわけです(笑)。こういうのが本当に楽しいですね。

このオルゴールで作ったメロディって、たぶん4小節くらいのループにしかならない。鉄琴部分にも半音階がなくて、出せる音はドレミファソラシドレミまで。だけど、その制約の中でどれくらい遊べるかなということを考えて、遊びながら作曲していく感じですね。

オルゴールは好きでいっぱい持ってるんですけど、これは僕が持ってる中では一番サイズ的には大きい。ほかにも円盤型だったり、紙に穴をあけて音を出すタイプだったり、いろいろなのがあるんですけど、このオルゴールが一番曲を作りやすいかな。形もかわいいし、オブジェとしてもいいと思います。

かわいくて音が出れば楽器として“アリ”

目の前で音が出ていることが僕は好きで、それだけでいいんですよ。実際に演奏として使うことが難しい“ダメな楽器”でも、目の前で音が出る瞬間に立ち会えることがすごく幸せなんで、それだけで僕は満足なんです。

基本的に、3つとも珍しい楽器だけど弾くのに技巧が必要じゃないところがいいなと思ってるんです。誰にでも簡単に演奏できる楽器をいかにうまく使って録音していくか、みたいなことを僕はテーマにしているので。とにかく見た目がかわいくて音が出れば、僕はすべて“アリ”です。

最近はわりとインターネットで手に入るものが多いので、だいたい調べ尽くした感もあるんですけど、そんな中でも興味があるのは、観光地とかで民芸品として売られてる自作楽器というか、おもちゃの草笛みたいなやつ。その土地の何かを使って作った笛とか。そういうのを最近は民芸品屋で買い漁ってますね(笑)。特殊な音がするものがわりと多いし、微妙にうまくできてないものも味がある。ネットでも手に入らないものが多いし。

音を鳴らすのがすごく難しい笛もあって、岡山で買ったんですけど、ガラスケースの中に大切そうに入ってたんですね。それが、100回に1回くらいしか鳴らない笛で(笑)。どうやって吹いたら鳴るのか店員さんにもわからない。僕もとりあえず吹けたんですけど、1回音が鳴るだけですごくうれしかった(笑)。それはすごく気に入ってますね。

トクマルシューゴ

ギターと玩具を主軸に無数の楽器を演奏するアーティスト。楽曲のすべての作詞、作曲、アレンジから、演奏、レコーディングミックスまでを1人で手がける。映画、舞台、CMへの音楽提供も多数行っており、現在はNHK Eテレにて放送中の「ミミクリーズ」の音楽制作を担当している。

取材・文 / 松永良平 編集 / 中村佳子(音楽ナタリー編集部) 撮影 / 阪本勇

トクマルシューゴ