(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

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 3月中旬、韓国の文在寅大統領を支える与党の代表が、米国通信社に所属する韓国人記者の個人名を挙げて「売国者」呼ばわりをした。同記者が自ら執筆した記事の中で、文大統領を「北朝鮮金正恩労働党委員長のトップスポークスマン(首席報道官)」と評したことへの攻撃だった。

 この攻撃に対して、ソウルの外国人特派員の会や米国のアジア系記者の会までが「危険な報道弾圧」として一斉に抗議した。文政権の意外な独裁体質が国際的な反発を招いたといえる。

韓国で火がついた韓国人記者への個人攻撃

 文大統領の支援母体である韓国与党「共に民主党」のイ・ヘシク報道官は3月13日、特定の記者を糾弾する以下のような声明を発表した。

「米国のブルームバーグ通信社のイ・ユギョン(Youkyung Lee)記者は2018年9月、『文在寅大統領が国連で金正恩のトップスポークスマンとなる』という記事を書いた。この記者は韓国メディアを経てブルームバーグ通信に採用され、まだそれほど時間が経っていない時に問題の記事を執筆した。同記事は、米国籍の通信社の皮を被って国家元首を侮辱した売国に近い内容であると、少なくない論議を呼び起こした」

(参考)「South Korea's Moon Becomes Kim Jong Un's Top Spokesman at UN

 昨年9月の報道がいまになって提起された理由は、韓国の国会でこの3月、最大野党「自由韓国党」のナ・ギョンウォン議員がこの記事の「文大統領は北のスポークスマン」という部分を引用して文政権を批判したからである。与党の「共に民主党」側はその批判に対する反撃として、記事の執筆者本人への攻撃を打ち上げたのだった。

 イ・ヘシク報道官はその記者の名前をあえて明かして、同記者が韓国籍韓国人であることも記して「売国」と断じた。これを契機として韓国内で同記者への個人攻撃が始まった。

 メディアの報道によると、この韓国人女性記者に対して「平和が恐ろしい邪悪な女」「国益を邪魔する売国記者」「腐った記事を書くエセ記者」などという誹謗中傷の匿名メールが殺到したという。

記事を発信したブルームバーグには抗議せず

 3月16日、韓国に駐在記者をおく世界各国のメディア100社近くが加盟する「ソウル外信記者会」は、この展開に対して「報道の自由への不当な弾圧である」とする抗議声明を発表した。

 同声明は、文政権を支える与党を次のように批判していた。

「文大統領の与党がブルームバーグ通信記者を攻撃する声明を発表して、同記者個人の安全に大きい威嚇が加えられたことに、憂慮を表明する。同記者を『国家元首を侮辱した売国奴』と追い込むのは誠に遺憾だ。それは言論統制であり、言論の自由に冷水を浴びせることである」

 米国に本部をおくアジア系米人ジャーナリストの組織「アジア米国ジャーナリスト協会」(AAJA)も、サンフランシスコの本部とソウルの支部の両方で「共に民主党」への抗議を表明した。

「韓国の文政権支持政党が、正当な報道活動をしている韓国人記者に個人レベルの非難を浴びせて威嚇を加えることは、重大な言論の弾圧だ。報道の自由への侵害でもあり断固抗議する」

 文大統領金正恩氏の「スポークスマン」になぞらえる記事を発信したのは、米国報道機関のブルームバーグ通信社である。だが与党「共に民主党」の報道官は、その記事を書いた記者だけに攻撃目標を絞っていた。米国の大手メディアへの抗議は避けて、韓国籍の1人の記者だけを叩くというきわめて狡猾な対応だといえるだろう。

「共に民主党」は外国人記者たちに謝罪

 こうした国際的な抗議に対して「共に民主党」のイ・ヘシク報道官は3月19日、「我々の発言が誤解を招いたのであれば、韓国内の外国人記者に対して謝罪したい」という声明を出した。だが抗議する側は、この対応ではまだ不十分だとして「共に民主党」およびその背後にいる文在寅政権を非難する姿勢を崩していない。

 今回の事態は文政権の独裁や専横の体質を象徴する出来事として、米国でもかなり広範に報道された。日本においても文在寅大統領の本当の顔を物語る事例として記憶に留めておくべき事件であろう。

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