東京エリアをぐるりと回るJR武蔵野線。旅客列車は府中本町駅から出発しますが、正式な起点はJR東海道本線と接続する鶴見駅です。鶴見~府中本町間は貨物列車用で、通称「武蔵野南線」。旅客化の構想もありました。

リニア工事の貨物列車も走行

東京エリアの郊外をぐるりと回るJR武蔵野線JR南武線と接続している東京西部の府中本町駅東京都府中市)を起点に、埼玉南部の南浦和駅さいたま市)や千葉北西部の新松戸駅千葉県松戸市)などを経由して千葉西部の西船橋駅(同・船橋市)に至る、全長71.8kmの路線です。

しかし、武蔵野線の起点は正式には府中本町駅ではなく、同駅から南東へ28.8km進んだところにある神奈川東部の鶴見駅横浜市鶴見区)で、JR東海道本線(京浜東北線)に接続しています。路線の長さも正式には鶴見~西船橋間の100.6kmです。

ですが、駅や列車内などに掲出されている路線図を見ても、鶴見~府中本町間を結ぶJR線は描かれていません。これは鶴見~府中本町間が貨物線で、貨物列車しか運転されていないため。ただし臨時の旅客列車や団体向けの旅客列車は時々運行されており、記者(草町義和:鉄道ライター)も2019年3月21日(木・祝)、団体列車で利用しました。

府中本町駅を13時40分ごろに通過した団体列車は、しばらく南武線の線路に並行して走行。多摩川を渡った先で南武線の線路が左カーブして離れていくと、貨物線を進む団体列車はすぐにトンネルへ入りました。その後も京王相模原線との交差地点などを除き、ほとんどトンネルを走行。車窓は真っ暗な状態が続きます。

府中本町駅を通過してから10分ほど経過したころ、窓の外が明るくなりました。進行方向の左側には、コンテナが多数置かれた梶ヶ谷貨物ターミナル駅川崎市宮前区)が見えます。この駅の下では、リニア中央新幹線の地下トンネルが建設中で、背の高いクレーンが林立。ちなみに、この工事で発生した土砂は、梶ヶ谷貨物ターミナル駅から貨物列車で運び出されています。

旅客化構想は地下鉄の整備に代わったが…

団体列車は再びトンネルの暗闇へ。5分ほどで外に出ると、タンク車や電気機関車ディーゼル機関車が多数停車しているJR貨物の車両基地(新鶴見機関区)に入りました。この先は横須賀線の線路に並行して走り、東海道本線の線路をまたいで鶴見駅へ。府中本町駅から約25分の道のりでした。

武蔵野線は、おもに東京を通過する貨物列車が走る路線として計画されました。府中本町~西船橋間は旅客列車も走っていますが、1976(昭和51)年に開業した鶴見~府中本町間は南武線が並行するように走っていることもあり、貨物列車の専用区間に。府中本町~西船橋間とは区別して「武蔵野南線」と呼ばれることもあります。

武蔵野線が開業する前は、東京を通過する貨物列車も東京の都心部に敷かれた貨物線を走っていました。武蔵野線の開業により、これらの貨物列車の多くは郊外の武蔵野線を走るように。東京都心の貨物線を走る貨物列車が減り、その代わりに旅客列車を増やせるようになりました。1985(昭和60)年に池袋~大宮間で運転を開始した埼京線も、山手線に併設されている貨物線を使って1986(昭和61)年から新宿駅への乗り入れを開始。これにより山手線の混雑が緩和されたのです。湘南新宿ラインも、同じ「山手貨物線」を使っています。

なお、武蔵野南線でも旅客列車を頻繁に走らせる構想がありました。1985(昭和60)年に運輸大臣の諮問機関がまとめた基本計画では、武蔵野南線を活用した旅客線を府中本町~川崎間に整備するほか、小田急線の新百合ケ丘駅(川崎市麻生区)から武蔵野南線に合流する連絡線も盛り込まれました。

ただ、長いトンネル内で貨物列車を営業運転しながら工事を行うのが難しいこともあり、1990年代には川崎市地下鉄を建設する方針に転換し、武蔵野南線の本格的な旅客化構想は消滅しました。ちなみに、この市営地下鉄構想も採算性に問題があるとして、いまは中止されています。

【地図】どこを通る? 武蔵野南線のルート

武蔵野南線の梶ヶ谷貨物ターミナル駅付近では、リニア中央新幹線の工事が進む(2019年3月21日、草町義和撮影)。