■コスタリカに生息するトカゲの一種「ウォーターアノール」 は、長時間潜水しながら呼吸する特性を持つ
■肺の空気を鼻から出して、頭部付近に「空気の泡」を作り、それをまた吸い込んで空気を再利用している
■頭の先端は、大きな空気の泡がくっつきやすい形状になっており、これは形態的適応の一例
まるでスキューバダイビングです。
中米コスタリカに生息するトカゲの一種「ウォーターアノール」 (学名:Anolis aquaticus)が、水中に16分間も潜りながら呼吸する特性を進化させてきた可能性が浮上し、世間をざわつかせています。
爬虫類のトカゲは肺呼吸を行うため、本来は水中で生きることができません。超人…いや「超トカゲ」です。
「空気の泡」をプクプク再利用
研究を行ったのは、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校の生物学者リンジー・スウィアーク氏ら。ウォーターアノールが、長時間水中に潜り、呼吸する様子を捉えた動画を撮影しました。
ウォーターアノールは、肺の空気を鼻から出して、頭部付近に「空気の泡(エアポケット)」を作り、それをまた吸い込んでいるそうです。膨らませた鼻ちょうちんの中の空気を再び吸って、空気を再利用するような感じでしょうか…。
撮影のきっかけは、スウィアーク氏が数年前にコスタリカの渓流に沿って歩いていた時に、トカゲが川に飛び込み、長時間潜水する様子を目撃したことでした。
はじめは単なる偶然だと考えた同氏でしたが、それにしては潜水時間があまりにも長すぎます。そこで、水中カメラを設置して詳しく調べることにしました。
その結果、ウォーターアノールが水中で、頭部付近に空気の泡をプクプクと膨らませたりしぼませたりしながら呼吸する様子の撮影に成功。どこかユーモラスである一方、表面張力が限界を越えて泡が弾けない程度の絶妙な力加減に驚きますね〜。
泡がくっつきやすい頭部の形状
スウィアーク氏によると、頭の先端は、大きな空気の泡がくっつきやすい形状になっているのだとか。ウォーターアノールが水中での呼吸に適応したのは、安全な水中に身を隠せる時間を伸ばすためだったのでしょう。形態的適応の一例です。
確かに、特に足が速いわけではないウォーターアノールにとって、水中に潜ることは、天敵から身を隠す効果的な方法の1つ。数分間水面下で身を潜めていれば、うまく天敵の視界から逃れることができるからです。実際、ウォーターアノールの捕獲には、スウィアーク氏も手を焼きました。
さらにスウィアーク氏は、ウォーターアノールが頭部や喉の周辺に複数のエアポケットを作り、それらの間で新鮮な空気の取引が行われている可能性も指摘。つまり、1つのエアポケットから、新鮮な空気から成る別のエアポケットに切り替えるという「離れ業」を行っているのではないかというのです。
また、ウォーターアノールの胃の中を調べたところ、主に水中で見つかる昆虫の一部を食べることも判明。ウォーターアノールが潜水するのは、天敵からの防衛だけが目的ではない可能性があります。
今後、スウィアーク氏らの研究チームは、潜水による防衛機能の仕組み、頭部の形状が泡の形成に与える影響、この形態的適応の背景にある生理学についての謎を解明するため、調査を続ける予定です。
住処とする水辺での生き残りを掛けて、ウォーターアノールが永々と進化させてきたであろうこの秘技。小さなダイバーたちは、水面下で「必殺!泡呼吸!」などと唱えつつ、敵が過ぎ去るのを待っているのかも…。
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