Credit: NASA Goddard Space Flight Center/University of Arizona
Point
NASAの宇宙探査機オサイリス・レックスは小惑星ベンヌに到達してから、3ヶ月の間に30周近く周辺軌道を周っている
■オサイリス・レックスの航行装置のデータから、小惑星ベンヌの持つ不思議な重力特性が明らかになる
小惑星で物質への引力に影響する「ロッシュ・ローブ」確認されたのは今回が初めて

小惑星の重力特性にもいろいろあるようです。

コロラド大学ボルダー校による研究によって小惑星ベンヌ表面近くの重力が、ふしぎの国のアリス的な物理特性をもっていることが明らかになりました。

Credit:NASA’s Goddard Space Flight Center/University of Arizona

自転と遠心力との繊細なバランス

ベンヌの高さはエンパイアステートビルほどあり、探査機は1.6kmほど離れた軌道を到着以降、30周近く周っています。この初期調査によってベンヌについていくつかの新たな発見がもたらされました。「Nature Astronomy」に発表された論文によると、ベンヌの質量は730億kgです。

研究者は小惑星の引力のマップを作るための研究も行っています。その研究から、ベンヌには、4時間に1回転する自転のせいで2つの力の間に繊細なバランスがあることがわかりました。

これらの力は、小惑星の長年に渡る進化などに重要な働きをしています。

小惑星の自転を速めたとすると、表面につなぎとめている重力と外へと放り出そうとする遠心力の間に競り合いが起きます」とコロラド大学ボルダー校のダニエル・シェウーリズは言います。

これらの力について研究するために、オサイリス・レックスの航行装置を使って小惑星が探査機に及ぼしている微小な引力を調べました。

小惑星ではじめてロッシュ・ローブが観察される

その結果、思っても見なかった結果を引き当てます。研究グループの計算によると、ベンヌの赤道領域は回転するロッシュ・ローブと呼ばれる重力特性内部にとらわれています。ロッシュローブの内側では重力は物質をとどめておくことができます。ロッシュ・ローブが小惑星で明確に観察されたのは初めてです。

連星系のロッシュ・ポテンシャルの三次元表現/Credit:Marc van der Sluys

この特性により、奇妙なことが起きます。例えば、ベンヌのロッシュ・ローブ境界内部に立ってバナナの皮で滑ったとしても何も起きません。ローブにとらわれることで、表面へと引き戻されるからです。しかし、ロッシュ・ローブの外側においてバナナの皮で滑ったとすると、赤道方向へと転がり落ちることになります。すると転がるうちに赤道から飛び出せるだけのエネルギーを得ることになり、外軌道経由で宇宙へと放り出されます。

ロッシュ・ローブはベンヌの特性を知る手がかり

ロッシュ・ローブはこの小惑星の将来にも影響を及ぼします。太陽からの放射でベンヌの自転速度はどんどん上がっていきます。すると、小惑星の形を留めているロッシュ・ローブも縮むことになります。すると、赤道上の物質は舞い上がりやすくなり、質量はどんどん失われます。すると重力も小さくなるためこのプロセスが進むと、ベンヌは散り散りになってしまうでしょう。

この重力特性は、オサイリス・レックスの次のミッションである伸縮アームでの小惑星表面からのサンプル回収にも影響してきます。そのために、研究者達はベンヌの物理特性をなんとしても知りたいのです。

OSIRIS-REx Grabs a Sample/ Credit:NASA

小惑星表面の重力は、地球表面とは異なる性質をもっているようです。赤道では地面から浮き上がって戻ってこれなくなるのです。ミッションの成否もかかったこの研究。小惑星の外見だけではわからない不思議を垣間見せてくれました。

逆行して周回する謎の小惑星、実は太陽系外から来ていた

reference: Science Daily / written by SENPAI
小惑星ベンヌさんの奇妙な重力が明らかに。ふしぎの国のアリスかな?