ダブル選挙に関して会見する大阪府松井一郎知事(左)と大阪市吉村洋文市長=8日、大阪市中央区(写真/時事通信社

◆松井府知事と吉村市長の大義なき「公務放り投げ」
 統一地方選挙スタートした。先陣を切ったのは全国11道府県の知事選で、次に6政令市の市長選が告示された。これらの首長を選ぶ選挙は統一地方選前半の4月7日に投開票される。

 知事選と市長選の中でも特に注目されているのが大阪だろう。大阪維新の会の代表で前大阪知事の松井一郎氏(55)と前大阪市長吉村洋文氏(43)に対して、自民と公明が推薦する前大阪府副知事の小西禎一氏(64)と前大阪市会議員の柳本顕氏(45)がそれぞれ一騎打ち。小西氏と柳本氏は自公のほか立憲民主と共産党が自主支援、連合大阪が推薦するという、<維新vs.オール非維新>の構図になっている。

 大阪の知事選と市長選が注目される理由は、維新がオール与野党+連合を相手に孤軍奮闘するからではない。この選挙、他の首長選挙に比べてきわめて異質であり、かつ不可解なことだらけなのだ。

 まず、松井氏と吉村氏が、それぞれ任期を8か月以上も残して途中辞任したことが不可解である。両氏は、いわゆる大阪都構想の賛否を問う住民投票の時期をめぐって公明党と大ゲンカ。「公明党にだまされた。死んでも死にきれない」「だったら辞任して再び民意を問う」として、大阪では6月末にG20を控えているというのに公務を途中で放り投げた。放り投げて選挙に打って出たが、それに見合う大義は見当たらない。だから不可解なのだ。

 この背景を知るには、まずは大阪市廃止と特別区設置に関する構想、いわゆる大阪都構想(以下「都構想」と略)を説明しなければならない。

◆決着が付いている「都構想」を蒸し返す厚顔無恥
 都構想とは政令市である大阪市を廃止し、代わりに特別区を設置する大都市制度である。わかりやすく言えば、東京23区二番煎じ大阪府でやろうというものだ。ただし、大阪市を廃止しても特別法の制定か地方自治法の改正がない限り、大阪府は「大阪都」を名乗れない。あくまでも「都構想」とは維新の政治目標であり、実質的には大阪市マグロの解体ショーのようにバラバラにするものでしかない。

 もっとも、都構想の賛否は2015年5月17日に実施された住民投票で決着がついている。僅差ながら反対票が賛成票を上回り、その瞬間に都構想は露と消えたかに見えた。維新の代表だった橋下徹大阪市長も敗北をきっかけに潔く政界を去った。

 だが、往生際が悪いのが維新の会だった。同年11月に投開票された知事選、市長選の大阪ダブル選挙で維新が圧勝したことを理由に、「民意は再び住民投票を望んでいる」と主張。公明党がそれに同調したこともあり、再度の都構想議論が大阪で再開されたのだ。

 断っておくが、この住民投票は大都市法という法律に基づいたもので、結果には法的拘束力が及ぶ。しかも、1つの政策をめぐってYESかNOかを二者選択する直接民主制の住民投票と、多様な政策を掲げる政治家を選ぶ間接民主制の選挙は性質も次元も異なる。後者の結果で前者の民意をないがしろにする行為など、ごくごく普通の遵法精神を持つ者なら恥ずかしくてやらないだろう。

公明党との蜜月の終焉
 話を基に戻そう。

 都構想の制度設計をする場が法定協議会(以下「法定協」と略)である。ここに府議と市議の代表20名が集まり、あれこれ議論を重ねて都構想の設計図を作る。最終的には府議会と市議会の承認を得て住民投票で賛否を決める流れになる。

 なお、法定協のメンバー構成は会長(維新)を除くと維新9名に対して自民、公明、共産が計10名。過半数を持たない維新は公明党の協力がなければ一歩も前に進まない。そのため維新は2017年4月公明党とこっそり密約を結び、法定協の開催と住民投票の実施時期について合意文書を交わしていたことが、後に松井氏自身の暴露で発覚した。

 さて、最初は議論に前向きだった公明党だったが、事務方から出されてくる設計図の素案があまりにズサンなことに不信感を持ちはじめる。そのたびに修正と資料追加の注文を出すのだが、事務方からはまともな回答が帰ってこない。結局、法定協での議論はスタートから2年近く経っても設計図の概要さえ見えない状況だった。

 これに業を煮やした松井氏は昨年12年末、市内のホテル公明党の議員らと会談し、「来年4月の統一地方選と同時に住民投票をやりたい」と強く迫った。これに対して、統一地方選に専念したい公明党は「実施は知事と市長の任期が来る11月ごろと認識している」と突っぱねて松井氏らと決別。それ以来、松井氏ら維新は「公明党はウソつきだ」と罵り、公明党の支持母体である創価学会は維新を完全に敵対視、いまや“仏敵”あつかいである。

◆理念なき「選挙の私物化
 今回のダブル辞任も公明党との大ゲンカの果てに起こったことであり、しかも知事と市長を入れ替えて選挙をするという想定外の手法に出た。もっとも、松井、吉村の両氏が仮にダブル当選しても法定協のメンバー構成が変わらない限り、都構想議論は1ミリも前に進まない。何のための途中辞任と知事選、市長選かがさっぱり不明。だから不可解なのである。

 とは言え、今回のダブル選の裏の狙いははっきりしている。統一地方選と同時に実施することで世間の関心を高めて投票率をあげ、維新候補を1人でも多く当選させるためだ。

 橋下氏が去ってからというもの、維新に以前ほどの勢いはない。そこで少しでも風を吹かせ、府議会と市議会で単独過半数を取るのが今回のダブル選の狙いなのだ。世間ではこれを党利党略と呼ぶ。

 知事と市長を入れ替えて出馬するクロス選」も異質である。いや、異様と言ってもいい。

 そもそもクロス選は、いわゆる出直し選挙ではない。出直し選とは信任投票であり、知事や市長が自ら掲げる政策の賛否について公職を賭して有権者に問うものだ。そのため公職選挙法259条2項は出直し選に関する任期の例外を規定し、選挙で当選して復職しても任期は辞める前と変わらないと定めている。なぜか。

 これがないと現職の知事や市長はいくらでも任期を伸ばせるからだ。政敵の準備が整わないうちに出直し選に打って出れば当選する確率は高い。そのたびに4年の任期が手に入る。事実、過去にはこのようなことが国内各地で起こり、そこで公職選挙法を一部改正して任期の例外規定を設けた経緯がある。

 ところが、さすがの公職選挙法クロス選までは想定していなかった。完全に法の抜け穴で、違法ではないが脱法行為と呼んで差し支えないと思う。こんな事態が許されるのなら知事と市長が示し合わせば、いつでもクロス選に打って出られる。知事選、市長選は現職が有利の実情から見て、当選する確率は高くなるだろう。

民主主義を踏みにじる維新の非道
「政治は駆け引き。クロス選という手法も許される」などと擁護をする一部の評論家がいる。だが、「法律に書いてないことはやってもいい」と考える政治家など、どこまでいっても遵法精神など持ち合わせず、いつまでたっても民主主義を守らない。そのとばっちりは、いずれ国民が受けるだけだ

 知事選と市長選で、しきりに都構想の推進を全面的にアピールする松井氏と吉村氏。ここでも不思議なことに「大阪市はなくならない。なくなるのは市役所と市議会だけ。街並みや地域コミュニティーは変わらない」といった奇妙キテレツなナゾ理論を有権者の前で披露している。都構想の法的根拠である大都市法の第一条には、法の目的として「この法律は、道府県の区域内において関係市町村を廃止し(以下、略)」と明記されているのに、だ。

 異質で異様、そして不可解な大阪ダブル選。果たして、どれだけの有権者がそれに気づくのか。問われているのは都構想の是非だけではない。有権者の冷静な眼も同時に問われた選挙である。

<取材・文/吉富有治>

よしとみゆうじ●ジャーナリスト1957年12月愛媛県生まれ。金融専門誌、週刊誌の記者を経てフリーに。大阪を中心に地方自治を取材。著書に『大阪破産』(光文社)、『大阪破産からの再生』(講談社)など。

ダブル選挙に関して会見する大阪府の松井一郎知事(左)と大阪市の吉村洋文市長=8日、大阪市中央区(写真/時事通信社)