もしも愛する我が子が息も絶え絶えで苦しみ続けることになったら、親は身を裂かれる以上の思いをすることだろう。このほどベルギーで、がんに苦しむ娘を殺害した母親が実刑を免れたことで世間の注目が集まっている。『Mirror』などが伝えた。

14歳の娘にビニール袋をかぶせて窒息死させた母親メルナス・ディジャー(Mehrnaz Didgar)は今月21日、ベルギーのフラームス=ブラバント州ルーヴェンの裁判所で有罪判決が下されるも、執行猶予5年を言い渡され刑務所行きは免れた。

メルナスは熟練の脳神経外科医だが、人の命を重んじる医師が愛する娘の命を奪うことは許されるべきことではない。しかしながらピーター・ハートック(Peter Hartoch)裁判官は「これまでで最も心が重く、最も判決に困難な裁判」と述べうえで今回の判決を下した。

実はメルナスの娘エリンさん(Eline)は7歳の時に甲状腺がんと診断され、母娘は7年間もがんと向き合ってきた。だがエリンさんは病魔と闘うことに疲れてきたのか、自ら死を望む言葉を発するようになったという。

エリンさんは「なぜ、私達は死が来るのを待たなければならないの? 私は今すぐ死にたいの。この先結婚もしたくないし子供を持つこともしたくない」とメルナスに告げた。娘の苦悩を痛いほど感じたメルナスも、これに心が折れてしまったようだ。

そして2017年7月26日、メルナスは勤務先のルーヴェン大学病院から薬を持ち出し、自宅でエリンさんの意識を朦朧とさせる薬を投与した。その後、メルナスはエリンさんの口と鼻の上にビニール袋を15分ほどかぶせ続けて窒息死させた。

その直後、メルナスは友人に電話で自分がしてしまったことの始終を告白し、車に乗って自宅を離れた。すぐに友人が警察に通報したことで、1時間後に道端でタイヤがパンクした車に乗っていたメルナスの身柄を警察官が拘束した。その時、メルナスは「死のうと思って橋に車を突っ込んだ」と話していたそうだ。

またメルナスは法廷で「当時の私は死んだも同然の状態でした。そして患者によく処方していた薬を持ち出していました。この時、私と娘は死ななければならないと思っていたのです。こうすることが全ての解決につながると思っていました」と語っている。

しかしエリンさんの父親でメルナスの元夫スティーブン・パンズさん(Steven Pans)によると、エリンさんは年を重ねるごとに病気と向き合うことができるようになっていたという。また、痛みが酷いときでさえ死にたいという意思表示をしたことはなかったと主張した。

今回の裁判で、検察側ではメルナスを懲役26年とし刑務所への収監を求めていた。しかし、メルナスの弁護士であるジェフヴェルマッセン氏(Jef Vermassen)は「今回の事件は親が子供を愛するがゆえに至ってしまったもので、彼女にとって唯一の犯罪です。彼女は自分の罪の重さをよく認識しています」と訴え、執行猶予を求めた。その結果、執行猶予5年の判決が下されたが、他にも精神的なサポートを受けるように言い渡された。

メルナスは判決後、「自分に再度人生をやり直す機会が与えられるとは思ってもみませんでした。これからはしっかり歩んでいこうと思います。もし時間が戻せるなら、こんなことは決して起こらなかったことでしょう。私は人殺しになんかなりたくなかった。そしてエリンの父であるスティーブンの心の痛みを感じるとともに、彼にとって私が彼の最愛の娘を奪ってしまった相手だということも十分理解しているつもりです」と明かしている。

画像は『Mirror 2019年3月25日付「Doctor who suffocated cancer-stricken teen daughter with plastic bag avoids jail」(Image: CEN)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher)

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