2020年春、山手線に新駅「高輪ゲートウェイ駅」が開業する。27日、その名称について撤回を求める4万7930人の署名がJR東日本に提出された。署名を提出したのは、エッセイストの能町みね子さんらによる「山手線新駅の名称を考える会」だ。署名提出後、渋谷LOFT9で行われた記者会見リポートする。

公募で130位だった「高輪ゲートウェイ
新駅の名称が「高輪ゲートウェイ」に決定した経緯をおさらいしておこう。新駅名は2018年6月より一般公募が行われている。公募結果は1位「高輪」(8398件)、2位「芝浦」(4265件)、3位「芝浜」(3497件)。しかし選ばれたのは130位の「高輪ゲートウェイ」(36件)だった。

公募は「応募数では決めず、すべての駅名を参考にする」としていたが、上位とあまりにかけ離れた結果であること、再開発のプロジェクト名が「グローバルゲートウェイ品川」であることから、「公募の意味がない」「ゲートウェイありきだったのではないか」との批判がネットを中心に噴出。Jタウンネットのアンケートでは、「別の名称に変えたほうがいい」が1551票中95.8%を占めた。

「『高輪ゲートウェイ』に決まったときは愕然としました。歴史を踏まえていないし、語感も悪い。私以外にも多くの人が嫌がっているのに、何も言わないままだと決まってしまう。そう思った2,3分後には署名サイトを立ち上げていました」(能町さん)

発表4日後に立ち上げたChange.org 「高輪ゲートウェイ」という駅名を撤回してくださいには、1ヶ月で4万7930人の署名が集まった。2019年2月には、署名の趣旨に賛同した飯間浩明さん(国語辞典編纂者)、今尾恵介さん(日本地図学会)、小林政能さん(境界教会)、杉内由佳さん(立正大学非常勤講師)らによる「山手線新駅の名称を考える会」が発足。27日のJR東日本への署名提出へと至った。

「今回JR東日本に提出した署名は、あくまで「『高輪ゲートウェイ』という名称の撤回」のみを求めるもの。これに加えて、会として新たな駅名に「高輪」を提言しています。署名と提言は受け取ってもらえましたが、『駅名を変えるつもりはない』という回答は変わりませんでした」(能町さん)

ゲートウェイ」が付くことで失われる価値
山手線新駅の名称を考える会」はなぜ新駅に「高輪」を選んだのか。その条件は以下の提言にこめられている。

1)新駅名は「地域の歴史を受け継ぐ」「街全体の発展に寄与する」(JR東日本の見解)という趣旨にいっそうふさわしいものとすること
2)新駅名は、単に駅周辺のみならず、首都東京の新しい「地名ブランド」として、集客に貢献し、さまざまな場面で広く使うことが可能な、伝統的地名を選ぶこと。
3)新駅名は、多くの人々に支持される名称にすること


新駅が建設されている地域である「港南」一帯は、かつては海であり、埋め立てて作られた場所。一方、新駅予定地から山手線の線路を挟んだ西側である「高輪」は、江戸時代に大きく発展した街だ。浅野内匠頭と赤穂浪士の墓がある泉岳寺や、高輪皇族邸(旧高松宮邸)、高輪プリンスホテルがあり、新旧の歴史が積み重ねられている。

1962年に施行された住居表示法により、古い東京の町名はたくさん姿を消しました。しかし、山手線の駅名は旧国鉄時代から変わっていません。原宿、田町、御徒町は町名から姿を消していますが、駅名として残り続けている。歴史的な地名をそのままつけるのが妥当ではないでしょうか」(今尾さん)

また、「グローバルゲートウェイ品川」という商標から「ゲートウェイ」を駅名に付けることで、駅名が指し示す範囲が限定されるのでは、という危惧もあるという。

「『高輪』に『ゲートウェイ』を付けることで、歴史的価値のある地域が対象からはずれ、意味が矮小化されてしまう。高輪という歴史的な地名から、何も足したり引いたりせず、シンプルなものが一番いいのではないか」(今尾さん)

「変な駅名をつけられない」というプレッシャー
高輪ゲートウェイ」がここまで反発される理由には、「文字数が長い」「カタカナ」というものがあるだろう。山手線の駅名はこれまで最大4文字(西日暮里、新大久保)だったし、カタカナがついた駅名はなかった。だが、既に全国にはカタカナがついた駅はたくさんあるし、文字数で言えば「南阿蘇水の生まれる里白水高原」(南阿蘇鉄道)、「長者ヶ浜潮騒はまなす公園前」(鹿島臨海鉄道)のほうがよほど長い。

なぜ高輪ゲートウェイだけを?という疑問に、能町さんは「本当は他の駅も反対したい」としつつ、山手線の影響力を理由に挙げた。

山手線は日本トップクラスの乗降客を誇る駅。高輪ゲートウェイ駅の隣にある田町駅の乗降客は1日15万人で、他の路線とは規模が大きく異なります。地図や路線図などへの影響範囲も広い。カタカナ駅名の代表格として、考え直るきっかけになってもらいたい」(能町さん)

こうして声をあげることにより「新しい駅名を付けるのに慎重になる」という効果も期待される。この例として会見で挙げられたのが京浜急行だ。

実は京浜急行も、山手線の新駅と同時期に駅名の公募を行っている。既存の駅名をリニューアルするもので、公募の対象は沿線の小中学生。歴史的な背景を理解しているとは考えにくく、「スーパー○○」など名付けてもおかしくない。しかし、ふたを開けてみると新名称は「大師橋」「花月総持寺」「京急東神奈川」「逗子・葉山」に落ち着いた。この4駅の発表は、高輪ゲートウェイ騒動のあとだった。

能町:小学生が考えるような駅名じゃないですよね。花月総持寺とか。
今尾:となりの大火事にヤバいと思って、順当なものにしたのかもしれませんよね。

「成功した」「失敗した」じゃない

JR東日本に署名を提出したものの、その場では「変えるつもりはない」と断言された。今後の動きについて、3人は「勝ち負けではない」「ケンカをしたいわけではない」と言う。

「今回は記者会見という場ですが、もっとカジュアルイベントなどでざっくばらんに語っていきたいですね。『E電』のように20年かけて消えた例もありますし、草の根で『高輪と呼ぼうよ』という声かけをしていきたい。成功した、失敗したという二元論ではなく、長く続けていければ」(能町さん)

高輪ゲートウェイ駅」が話題になった当初、テレビネットでは「どうでもいい」というコメントもあった。ひとつの駅名がどう決まるなど些細なことかもしれない。だが駅名に限らず、誰かにとっての「些細なこと」が、他の誰かにとって「大切なこと」なのは往々にしてあるだろう。声をあげなければ、大切なことだと気づいてすらもらえない。

「私も最初は傍観者でしたが、声をかけていただいて行動する側に考えが変わりました。行動することで世の中の人の考えも変わり、メディアの関心も変わり、ひいてはJR東日本にまで届いたらいい。共感を得ることで、提言を受け入れる人が増えてくれたらと思います」(飯間さん)

(井上マサキ

会の今後については未定。「なんらかの形で続けていきたい」と能町さん