推理作家・江戸川乱歩の小説の主人公として生まれ、それを題材に多くの映像作品が世に送り出されてきた「名探偵・明智小五郎」だが、3月30日(土)、31日(日)に放送される「2夜連続スペシャルドラマ 名探偵・明智小五郎」(夜9:00-11:10、テレビ朝日系※31日は9:00-11:05)では、そんなこれまでのどの「明智小五郎」にも、当てはまらない全く新しい現代版「明智小五郎」が誕生した。

【写真を見る】現代を舞台に「サイバー犯罪」に挑む新たな明智小五郎が描かれる

同作は、西島秀俊が名探偵・明智小五郎に扮(ふん)し、明晰(めいせき)な頭脳とアクションを駆使して、ネット犯罪の脅威が忍び寄るずる賢いサイバー犯罪に挑んでいく、現代日本を舞台に大胆なアレンジを加えたオリジナルストーリーを展開するサスペンス。

■ 「第1夜SHADOW~警察データベース流出!! 犯罪者連続殺人」あらすじ

国際手配されているハッカー集団「ファントム20」が突如、日本金融界の中枢を担う「ひかり銀行」にサイバー攻撃を開始。

警視庁刑事部長・浪越謙次朗(香川照之)が指揮を執り、捜査本部は極秘で緊急対応にあたるが、手も足も出ない状態。

だが、そんな未曾有の窮地を、ある男が救う。男の名は明智小五郎(西島秀俊)。優れたハッキング技術を持つ「チームBD」を率い、自らもずば抜けたサイバー系の知識と技術を誇る人物だった。

その才能に目をつけた浪越は、警視庁サイバー捜査支援室」の主任・小林芳雄(伊藤淳史)を明智の元へ送り、サイバー犯罪捜査のアドバイザーとして招集。

早速、ある事件の犯人を特定するよう依頼する。それは何者かによって、元未成年犯罪者たちの極秘データが流出しネットで公開されてしまう事件だった。

元未成年犯罪者への二次被害を恐れた浪越は、一刻も早く犯人を突き止めようと躍起になっていた。

明智はすぐさま問題のサイトに現れた暗号を読み解き、「SHADOW」と名乗る犯人との接触に成功。しかしその矢先、「SHADOW」が真の狙いに向けて行動を開始する。なんと「最初のターゲットに制裁を与える」と宣告し、難解な暗号を新たに提示したのだ。

暗号解読に与えられた制限時間は60分。「SHADOW」からの宣戦布告に、明智は不敵な笑みを浮かべ、真っ向から受けて立つのだが…。

■ 「第2夜VAMPIRE~巨大病院サイバージャック!!」 あらすじ

ある誘拐事件を鮮やかに解決した直後、明智はうっかり階段から転落。大病院「城西メディカル」に入院する。

くしくも同院は、厚生労働大臣・河本圭子(倍賞美津子)の旗振りのもと、ロボット支援手術など医療のIT化を積極的に取り入れている病院。

圭子がその安全性を自ら証明するため、心臓の手術を受けることも公表されており、にわかに注目を集めていた。

そんな中、奇怪な事件が起こる。何者かが万全のセキュリティー対策を突破し、厚生労働省の公式サイトをすべて料理のレシピにすり替えたのだ。

しかし、犯人特定の手がかりはまるで得られず、警視庁は手をこまねくばかり。そこで、浪越から明智に捜査協力を依頼するよう命じられた小林は、明智が入院している「城西メディカル」へ。折しも院内で、河本の手術が今にも始まらんとしていた…。

■ “木村マジック”が満載の作品

本作の監督を務めたのは「TRICK」(2000年、テレビ朝日系)や「ATARU」(2012年、TBS系)を手掛けた木村ひさし

木村作品の魅力と言えば、登場人物がとにかく“濃い”キャラクターたちと、随所に見られるオマージュや、くすっと笑える小ネタのオンパレードだろう。

第1夜の冒頭では、銀行の顧客データが「ファントム20」によりハッキングに遭い、サイバー捜査官の小林が捜査官たちを引き連れて、銀行のサーバールームへと向かう作品のつかみともいうべき緊迫したシーン。

そんな緊迫したシーンで、小林たちサイバー捜査官がエレベーターに乗ろうと待っているが開かず…「あっすいません。こっちです」と反対を案内されるという、シリアスの中に不意打ちのような笑いを入れ込んでくる木村監督の作風は、本作でも感じさせる。

他にも、明智が立ち上げた明智事務所のビルには「居酒屋金田一」や「シャーロック」といった看板があったり、しまいには明智がどこかのカンフー映画で見たことがあるようなアクションを始めたりするのだ。

そんな映像を見ているうちに「次は何がくるんだ?」と期待すらしてしまったり、「このシーンには、もしかして何か仕掛けられている?」と画面のいたるところを気にし始めたりと、もうすっかりと“木村マジック”にはまってしまった自分がいた。

2回、3回と見たくなるような映像の工夫は、まさに木村監督の真骨頂そのものだと感じた。

■ 「メインキャストって誰だっけ?」と感じさせるキャストの“濃度”

見どころは小ネタの数々だけではない。最初にも述べた木村作品特有のキャラクターたちの“濃さ”だ。

小林の妻で、“とある秘密の経歴”をもつ岸井ゆきの演じる真由美や、そんな真由美とある接点を持つことで小林を忌み嫌う大倉孝二演じる桂正一などなど、明智や小林を取り巻くキャストたちがくせ者だらけで、詳しくはネタバレになりそうで言えないのがもどかしいが、「メインキャストって誰だっけ?」と感じさせるくらいの濃度の高いキャラクターがばんばんと登場する。

特に印象にあるのが、生瀬勝久演じる“黒電話”。本名も経歴も不明で、名前の通り黒電話などレアものの電話を集めるコレクターでもありすご腕のハッカーでもある。

そして、第1夜のラストで衝撃の事実が明かされるキーパーソンでもある。ぜひ、“黒電話”について注目して見てほしいところだ。

現代社会の課題を考えさせられるストーリー

もちろん本筋のストーリーも引き込まれるものがあった。本作のテーマは「ネット犯罪」という非常に現代的なものが題材となっている。

作中では、犯人が「人間爆弾椅子」という元犯罪者たちを爆弾のついた椅子に括り付けて、ネット上で不特定多数の人間に投票させることで、その元犯罪者を裁くか裁かないかを決めさせるという恐ろしいことをし始める。

始めのうちはみんな戸惑っていたが、匿名で誰が投票かしたかもわからない仕組みと分かると1票、また1票と増えていくのだ。

現実に、SNS上で犯罪行為を動画投稿し、炎上する事件が頻繁に起こる昨今。匿名のネット上ならなにをやっても許されるという、間違った認識を持った人たちが増えた「ネット社会の闇」のようなものが反映されたようなストーリーに、思わず考えさせられる場面も多々あった。

第2夜では、ロボットを使った最先端の医療技術がサイバー犯罪によって簡単に乗っ取られてしまい、どうすることもできずに右往左往する人物たちが描かれる。

最近でも、大規模なネットワーク障害で多くの人たちが全く何もできなくなってしまうという「ネット社会の脆弱性」が垣間見えた出来事があったが、そんな現代社会の課題ともいえるテーマも散見されたのが印象的であった。

そんな「名探偵・明智小五郎」は、伊藤にインタビューを実施した際に作品を一言で表すと「究極のエンターテインメント」と称していた意味が、改めて分かった気がした2作品であった。(ザテレビジョン

「名探偵・明智小五郎」で明智小五郎を演じる西島秀俊と小林芳雄を演じる伊藤淳史(写真右から)