(姫田 小夏:ジャーナリスト)
外国人留学生の急増によって日本語学校の運営が混乱している。伝統校、新設校を問わず、どこの学校でも教員と職員がお手上げ状態だ。問題となっているのは、学生の質の低下だ。
首都圏の、ある日本語学校では「カンニング」が問題になっている。
「留学生のカンニング行為は本当に頭痛の種です。特に中国やベトナムからの留学生のカンニングに手を焼いています」(同日本語学校の関係者Yさん)
単元テストや学期末テストが終わるたびに、日本語教師は落胆する。学生たちが揃って同じ解答を記入してくるのだ。正しい答えも間違った答えも、みんな同じである。誰かの解答を丸写ししていることは間違いない。
「ある学生が答案を書き終えて教室を出て行きました。すると、みんなが一斉に答案用紙に解答を書き始めたんです。恐らく、何らかの方法で解答が伝達されているのでしょう」(Yさん)
現在、テスト時には監督2名を教室の前と後ろに立たせて目を光らせている。だが、それでも“答案一致”の状況はなくならない。
別の日本語学校でも“解答の共有”が横行している。その学校では、生徒を午前組と午後組に分けて試験を行う。試験はどちらも同じ内容だが、「午前の問題と解答が、午後の組に即座に伝わる。問題用紙をこっそりとスマホで撮影したり、テストの解答が机に小さく書き残されていたりする」のだという。
中国ではカンニングがビジネスに
中国の教育機関は、長年にわたってカンニング対策に頭を痛めてきた。特に最近は、「補聴器型の米粒大カンニング器」「眼鏡式信号受信器」「チューイングガム式振動器」など、スパイ映画さながらのカンニング道具が出現するようになり、対策に追われている。
中国ではカンニングがビジネスにもなっている。カンニングの方法を事前にレクチャーしたり、試験当日に解答を無線で飛ばしたりするサービスがあり、入試や各種資格試験の現場に入り込んでいるという。
あまりのカンニングの横行に、中国政府の教育部(日本の文部科学省に相当)は対策として「国家教育試験違反処理法」の見直しを行った。試験会場では主催者がスマートフォンやバッグなど受験者の私物をすべて直前に回収する。金属探知機を導入して「身体検査」を行う学校もある。しかし、それでもカンニングの撲滅には至らない。
解答の売買を先生は見て見ぬふり
なぜ中国の学校ではカンニングが当たり前のように行われているのか。
中国人女子大生のLさんは中学時代をこう振り返る。
「私の出身中学は上海市内の進学校でしたが、裏口入学で入った『官二代』(政府高官の子弟)が大勢いました。彼らはいつも、成績のいい子に『お金を払うから協力して』とカンニングを頼んでいました。高官の息子だし、たくさんお金をくれるから、頼まれる方も断れないんです」
学校の教師たちは、そうした買収行為を黙認していたという。「先生たちは見て見ぬふりです。権力とお金のある官二代には手出しできませんでした」(Lさん)。
Lさんは官二代の特徴をこう語る。
「官二代は『将来は中国を離れて海外に行く』と思い込んでいる子がほとんどです。小さい頃から親にそう言われているんでしょう。だから、小学校のときから全然勉強していません。当然、学力はすごく低い。でもみんな『成績なんかどうでもいい』という感じでした。親のお金と権力で何でも解決できると思っているんです」
Lさんの同級生だった官二代は実際にどこの国に行ったのだろう。尋ねてみると、日本に行く生徒が少なくなかったという。「学力のある官二代は英語圏に留学しました。けれどもそうではない生徒たちは日本を留学先に選びました」。
Lさんの話を裏付けるのが、前出の日本語学校関係者Yさんのコメントだ。
「当校には、中国の提携校からまとまった数の留学生が送られてきます。彼らには2つの共通点があります。1つは『お金持ち』であること。そしてもう1つは『驚くほど勉強ができない』ということです。字すらろくに書けない学生もいるのです」
テストが「写経大会」と化す日本語学校も
W君もそんな1人かもしれない。官二代のW君は中国での大学受験に失敗して日本にやってきた。中国にも浪人生はいるが、受験に失敗した時点で海外留学を選ぶ学生も少なくない。
W君は2年間日本語学校で勉強し、その後、日本の大学に進学する計画を立てていた。だが、日本語学校での成績は惨憺たるものだった。単元テストは合格点をはるかに下回り、再テストを受けてもクリアできず、再々テスト、再々々テスト、を繰り返している。
それでも真面目にテストを受けるW君はマシな方だ。ある日本語学校関係者のSさんは、「うちの学校のテストは“集団写経大会”です」と明かす。
Sさんによれば、「教師がテストの問題と解答を事前に教え、テストでは学生が答案用紙に解答を書き写すだけ」というのだ。この学校の生徒たちは、もはや勉強が留学の目的ではない。ただアルバイトで稼ぐために日本にいるのだ。真面目に勉学に打ち込む学生や、母国の奨学金で日本にやってくる優秀な学生はもはや少数派だといわれる。
選考基準の緩さがこの結果を招いた
なぜ外国人留学生向け日本語学校がそんな状況になっているのだろうか。
問題の1つは、生徒の選考基準にある。日本語学校は海外の提携先から送り込まれてくる生徒をきちんと選考しているとは言い難い。
法務省入国管理局が公開する「日本語教育機関の告示基準」を見ても、それは明らかだ。告示基準の中に定められた「入学者選考」には、「経費支弁能力を確認せよ」とは示されていても、「学習能力」や「学習意欲」の有無を確認せよとは書かれていない。
入国管理局は「学習能力、学習意欲はあるのが当たり前なので明記はしていない」というが、蓋を開ければこの混乱ぶりだ。選考基準の緩さが招いた結果であることは否定しようがない。
さらに言えば、日本語学校に見る現場の“カオス”は、「留学生30万人計画」を掲げて“量の確保”を急いだ結果でもある。もし「教育機関」「学校」であり続けようとするならば、国も学校ももう一度原点に立ち戻り、選考基準を見直すべきだろう。このままでは日本は“留学三流国”に堕ちてしまう。
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