2019年3月26日、韓国のサムスン電子が異例の発表をした。「1~3月期の決算が市場の期待値を下回る」という内容だった。

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 決算期も終わっていない時期だけに、「どれほど悪いのか」という声も出ている。半導体依存度が高いため、韓国経済全体にも少なからぬ影響の懸念が出ている。

 「サムスン電子4月5日に1~3月期決算の暫定値を早々に発表することになっていた。それより前にこんな発表をするのは聞いたことがない」

ディスプレイ、半導体メモリーが期待水準を下回る

 韓国紙デスク3月26日の発表に驚いた様子だ。

 サムスン電子はこの日、「当初の見通しよりもディスプレイ、半導体メモリー事業を取り巻く環境が弱く、1~3月期決算が期待水準を下回る」と発表した。

 サムスン電子の2018年の四半期別営業利益は、以下の通りだった。(1円=10ウォン

1~3月期 15兆6400億ウォン
4~6月期 14兆8700億ウォン
7~9月期 17兆5700億ウォン
10~12月期 10兆8000億ウォン

 2018年には1年間で59兆ウォンもの営業利益を上げていた。だが、10~12月期から半導体メモリーの価格下落などの影響を受けて利益は減少に転じていた。

 2019年1~3月期は、利益の8割を稼ぎ出すディスプレイと半導体メモリーの2枚看板がそろって減益に転じるとの見通しが強かった。

 サムスン電子がこうした予測の中でさらに異例の発表を出したことで、「事態はさらに深刻なのではないか」(韓国紙デスク)という懸念が一気に広がっている。

 2018年秋以降、サムスン電子の半導体メモリー事業の主力製品であるDRAMとNAND型フラッシュメモリーの価格は、需要の伸び悩みと供給増が重なり、下落が続いている。

営業利益は6兆ウォン台?

 2019年1月以降も価格下落に歯止めがかからないのだ。

 証券アナリストは、サムスン電子の2019年1~3月期の営業利益を前年同期比47%減の7兆5000億ウォン前後だと予想していた。

 これでも相当の減益だが、サムスン電子はこれでも「高すぎる」と見て急きょ、「見通しよりも悪い」という発表を出したと見られる。

 韓国メディアは「営業利益は6兆ウォン台になるのでは」と報じている。

 半導体業界はこれまでも収益の上下を繰り返してきた。暫定値発表の直前に、さらにこうした発表をしたのはなぜなのか?

 スーパーサイクルといわれた半導体好況の間、韓国経済全体のサムスン電子と半導体事業への依存度がさらに高まってしまった。

 減益幅が大きかったときのショックを和らげる「予防注射」という見方だ。

 2018年の韓国経済見ると、サムスン電子の突出ぶりがさらに鮮明になってしまった。全上場会社の利益に占めるサムスン電子の利益の比率は15%だった。

 韓国の総輸出額は過去最高の6000億ドルだったが、このうち半導体は1000億ドルを占めた。サムスン電子に「異変」が生じることは韓国経済全体に大きな影響を与えかねないのだ。

 「それでも3月中に異例の発表をする必要があったのか?」という見方も消えない。

アマゾンがクレーム?

 そんな中、証券市場で1つのニュースが駆け巡った。

 「世界最大級の半導体メモリー需要家である米アマゾンが、サムスン電子DRAMについて品質問題を提起し、リコールを要請した」という衝撃的な内容だ。

 様々なニュースが駆け巡った。

 サムスン電子は「顧客に関する情報は明らかにできない」とだけコメントしたが、「何らかの問題が生じたようだ」(韓国紙デスク)という見方が多い。

 アマゾンとの問題は、事実関係が明らかになっていないので、サムスン電子の決算への影響も不透明だ。

 ただ、ただでさえメモリー価格の下落で減益になっているだけに、「タイミングが良くない」という見方は多い。

 「サムスン電子は大丈夫なのか?」

 こんな懸念の中、2019年4月1日、韓国の産業通商資源部は2019年3月の「輸出入動向(速報値)」を発表した。

4か月連続して輸出マイナスに

 3月の輸出は前年同月比8.2%減の471億1000億ドルだった。輸出がマイナスになったのは4か月連続だった。

 ここでも影響を与えたのが、「半導体」だった。輸出の牽引役だった半導体だが、2018年12月に輸出額がマイナスに転じた。

 2019年3月も前年同月比16.6%減の90億ドル600万ドルとなった。

 半導体だけでなく、自動車や石油化学もマイナスになったとはいえ、輸出のほぼ5分の1を占める半導体の落ち込みが最も大きな影響を与えた。

4月は7年ぶりに経常赤字か?

 「7年ぶりに経常赤字転落か?」

 輸出不振で、韓国の経常赤字が4月に赤字に転落するという見方も急浮上してきた。

 韓国は、貿易黒字で貿易外赤字を補う構造だ。2018年までは、巨額の貿易黒字のおかげで経常黒字も続いていた。ところが貿易黒字の縮小で3月の貿易黒字額は52億ドルになった。

 4月も貿易赤字に転落するという見方はほとんどない。ではなぜ4月にいきなり計上赤字になる可能性が高まっているのか?

 上場企業の配当金の支払いに当たるからだ。

 韓国を代表する大企業の外国人持ち株比率は50%を超えている場合が多い。

 2018年4月はこうした外国人投資家への配当金の支払いで「配当収支赤字額」が64億ドルになった。

 3月の貿易黒字額より10億ドル以上も多いのだ。

 韓国が経常赤字になると月次ベースでは2012年5月以来のことだ。経常赤字で何が問題なのか。

 民間研究所のエコノミストがこう解説する。

 「ウォン安に振れる可能性がある。ウォン安になると輸出にはプラスだが、今の世界経済を見るとウォン安ですぐ輸出が増えるとは予想しにくい」

 「それよりも資金が海外に流出する懸念が高い。韓国売りで、証券市場への影響も出るかもしれない」

 韓国経済は、世界経済、特に最大の輸出先である中国経済の鈍化の影響も受けている。

 内需も振るわない。自動車や化学、重工業といったこれまでの主力産業もぱっとしない。「半導体一本足打法」とさえ言われていた。

 「サムスンの減益」は韓国にとっては、一企業の決算をはるかに超えた大きな問題なのだ。

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