近年では胎児が重い疾患を持っている場合でも、出生前の治療が可能な時代になってきた。米フロリダ州に住むある夫妻は、検診で胎児に重い心臓病があることを知り、出生前手術をするという決断を下した。

フロリダ州ジャクソンビル在住のレイチェル・フィンさんは、妊娠20週の超音波検査でお腹の子の心臓に異常があることを告げられた。その後検査を重ねたレイチェルさんは、胎児が「左心低形成症候群(HLHS)」という非常に稀な先天性心疾患を抱えていることを知った。この病気は左心室が小さいためうまく機能せず、全身に血液を送ることができずに致命的となるため出生後は段階的な外科手術や心臓移植が必要となる。『People.com』によると、先天性心疾患は100人に1人の赤ちゃんに発生するが、左心低形成症候群はそのうちの5~9%で、適切な処置をしないと命の危険が伴うという。

4歳の息子がいるレイチェルさんと夫ジェフリーさんは、まだ生まれてもいない娘アイヴィーちゃんが重い病気を抱えているという現実を突きつけられて途方に暮れた。2人はなんとか娘を助けることができないかと多くの医師を訪ねたが、彼らは一様に「危険過ぎて手術をすることは不可能。誕生後の生存率はゼロに等しい。苦痛を和らげる緩和ケアを考えるべき」などと言い切った。アイヴィーちゃんの場合、心房を隔てる壁(心房中隔)に穴が存在する「心房中隔欠損症」を伴っていることもあり、夫妻は「現代医学をもってしても娘に何もしてやることができず、ただ死ぬのを待つしかないのか」と唇を噛み締めるしかなかった。

そんな時、2人は医師から「子宮にいる赤ちゃんに手術をすれば、助けることができるかもしれない。ただこれまでに同じ疾患を抱える胎児への手術を行ったことはなく、たとえ手術が成功したとしてもどのくらい生存できるのかはわからない」と告げられた。

2人に迷いはなかった。一縷の望みをかけて胎児治療を行うことに同意したジェフリーさんは、その時の気持ちをこう語っている。

「どんな結果になろうとも、希望があるのなら手術にかけてみようと思いました。たとえアイヴィーが10秒しか生きられなくても、100年生きたとしても、私たちは娘に寄り添って全力で愛を注ぐと誓ったのです。」

こうして昨年7月、テキサス州ヒューストンのテキサス・チルドレンズ病院で子宮にいるアイヴィーちゃんの心房中隔にステントを留置する手術が行われた。経過は良好で、アイヴィーちゃんは手術から2か月後の昨年9月に無事誕生した。レイチェルさんは『CBS News』のインタビューに、声を詰まらせながらこのように話している。

「アイヴィーが生まれ、純粋に喜びでいっぱいになりました。誕生後すぐ私の胸の上に置かれた娘は、大声で泣いていたんです。こんな日が来るなんて確証が持てなかったから…グッと心に迫るものがありました。」

誕生後、テキサス・チルドレンズ病院でさらに2回の手術に耐えたアイヴィーちゃんは今年3月に退院し、フロリダ州の自宅に戻ることができた。2歳から4歳の間に3度目の手術が予定されているが、医師らはアイヴィーちゃんが期待以上の頑張りをみせてくれたことに驚いているという。担当医は「小さなブドウの粒の中にある豆粒に手術をしたと思ってください。その豆は液体が詰まった風船のようなものです。難しい手術だっただけに、この成功はまさに奇跡と言ってもよいでしょう」と述べている。

なお、アイヴィーちゃんが病気と闘う日々の様子はインスタグラム『アイヴィーのストーリー(Ivy’s Story: A Journey through HLHS)』に投稿されている。アイヴィーちゃんを囲む家族の表情は温かく希望に満ちており、頑張り屋のアイヴィーちゃんの表情も日に日に逞しく、豊かになっているようだ。

画像は『Ivy’s Story: A Journey through HLHS 2018年12月21日付Facebook、2019年3月19日付Facebook「G-tube baby!」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 A.C.)

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