■がん細胞が生き残るのは、免疫系からの攻撃を抑制する能力があるため
■制御性T細胞が、IL-10やIL-35を放出して免疫系を抑えることでがん細胞への攻撃が抑えられる
■IL-10とIL-35がBLIMPを活性化することで、複数の抑制因子がキラーT細胞表面に現れる
がんを免疫療法で治す時代が、また一歩近づきましたよ!
ピッツバーグ大学医学部の研究で、腫瘍細胞が免疫の調節能力を悪用して、免疫細胞からの攻撃をかわす仕組みが明らかになりました。次の世代のがん免疫療法の開発につながる発見です。研究は「Nature Immunology」で発表されています。
https://www.nature.com/articles/s41590-019-0346-9
がんを免疫系の力によって治療するのが「がん免疫療法」です。PD1といった免疫系のブレーキを解除することでがんに対する免疫力を高め、がん細胞を排除するというのが、現在効果のある免疫療法でとられている主な戦略です。しかし、免疫療法による治療効果が見られるのは、治療を受けた患者の20%に留まっています。
人には本来、免疫系によって生まれたがん細胞を駆除する能力があります。がんの患者が高齢者に多いのは、免疫系の働きが弱まっていることも一因となっているのです。それに対して、がん細胞は免疫系が自然に持っている攻撃能力を調整する仕組みを悪用して生き延びようとします。その調節の一端を担っているのが、今回の主役となる制御性T細胞(Tレグ)です。
免疫機能を微調整するTレグ細胞
Tレグ細胞は、免疫系のもっている絶妙なバランスを保つ働きを持っています。免疫系は、侵入してきた異物を排除するのが主な働きですが、それが行き過ぎると健康な細胞をも攻撃しかねません。リウマチなどの自己免疫疾患は、このバランスが壊れて健康な細胞を攻撃するようになったものです。Tレグ細胞は、サイトカインと呼ばれるシグナル分子を放出することで、免疫系のいろんな細胞に働きかけることができます。
先行研究で、研究者たちはがん細胞がTレグ細胞を悪用して、腫瘍の周りでがん細胞を攻撃するキラーT細胞の働きを抑えることを明らかにしています。
Tレグ細胞がIL-10やIL-35を放出してキラーT細胞の働きを抑える
新たな研究ではTレグ細胞が、サイトカインであるインターロイキン10(IL-10)やインターロイキン35(IL-35)を使ってどのようにキラーT細胞を抑えているのかに注目しています。
最初に発見したのは、マウスとヒトの腫瘍において、Tレグ細胞がIL-10とIL-35を発現していたことです。ただし、その発現は同時に行われていたわけではありませんでした。各々のTレグ細胞は、IL-10とIL-35をそれぞれ1つだけを選んで発現していました。
次に、がん化したモデルマウスを使って実験を行いました。免疫系が抑えられてがんが進行しているマウスでは、IL-10とIL-35を分泌している2種類のTレグ細胞の存在が不可欠でした。
さらなる研究では、IL-10とIL-35の組み合わせでBLIMP1と呼ばれるタンパク質が活性化することがわかりました。BLIMP1はキラーT細胞に働きかけて、PD1やLAG3、TIM3、TIGHTといった細胞表面の抑制分子を発現させることで、がん細胞を見つけて攻撃する能力を奪います。
免疫療法への応用への期待
これらの発見は重要です。というのも、従来の免疫療法の標的が、PD1といった単一の抑制分子であるからです。IL-10やIL-35を標的とすることで、もっと効果的に幅広い抑制分子を抑えることができるのです。
実は、Tレグ細胞を標的とした薬の臨床試験はすでに行われています。研究によってその詳しい仕組みがわかれば、もっと効果的な薬を作るヒントとなるでしょう。また、既存の免疫療法に使われている薬の組み合わせをもっと効果的にできるかもしれません。
効果のある免疫療法は、まだ採用されるようになって日の浅い治療法であり、まだその仕組も一端しかわかっていません。今回のような発見の積み重ねによって、より効果のある治療法が確立していくでしょう。将来、がんは治る病気になるはずです。
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