タモリなら「四カ国語麻雀」、ウッチャンナンチャンなら「レンタルビデオショップ」、ダチョウ倶楽部なら「どうぞどうぞ」、レイザーラモンRGなら「あるある早く言いたい」。

人気芸人には、記憶に残る“ネタ”がある。それは漫才かもしれないし、コントかもしれない。ドッキリに対するリアクションや、ハプニングに思わず発した一言でもいいだろう。

これらのネタから芸人を掘り下げるのが、戸部田誠『売れるには理由(わけ)がある』太田出版)だ。まえがきの「ネタを語ることはそのままその芸人を語ることでもある」の言葉の通り、ブレイクするきっかけとなったネタを入り口に、ルーツや方法論、生存戦略に至るまで、豊富なエピソードから芸人たちを切り取っていく。

目次に並ぶのは、総勢43組の芸人と「代表作」の組み合わせ。横山やすし・西川きよしからハリウッドザコシショウまで、新旧織り交ぜた圧巻のラインナップだ。

「売れる」ルートに王道はない
ひとくちに「売れる」といっても、その頂にたどり着く年月やルートはさまざま。たとえばナイツが「ヤホー漫才」を生み出すまでは、7年の月日を必要としている。

事務所の方針で内海桂子の弟子になったナイツ。当初は大きくボケて大きくツッコむ王道スタイルの漫才だった。毎日浅草の舞台に立つも、なかなか芽が出ない。あるとき、ビデオに撮った自分たちの漫才を見返してみると、「本日はお足元の“クサイ”なか、よく来てくださいました」などの小ボケがウケていることに気づく。「こういうことばかりやろうぜ」と生まれたのが「ヤホー漫才」だった。

同様に、ブラックマヨネーズは自身のラジオでのフリートークが、オードリーは春日のズレたツッコミに若林がツッコミ返すやりとりがウケていることに気づき、現在のネタのスタイルにたどり着いている。ネタのタネは既にそこにあった。そこに気がつくか否かが、彼らの運命を変えた。

偶然からネタが生まれたパターンもある。ロバート秋山の「体モノマネ」は、スタッフに発注した「梅宮辰夫の顔パネル」が奇跡的に顔にマッチしたことで完成したもの。コロッケの「野口五郎モノマネを早回しでやる」というネタは、スナックの営業でレコードの回転数を間違えたことがきっかけだった。

一方、本人の信念はそのままに、時代が追いついたのが古坂大魔王出川哲朗PPAPで世界的大ヒットを飛ばした古坂大魔王は、「底抜けAIR-LINE」時代から音楽ネタを作り続けていた。文法的にはデタラメな「出川イングリッシュ」で外国人と通じ合う出川哲朗は、『電波少年』などの海外ロケで言葉が伝わらない相手(トラなど)に必死にぶつかっていた。

仮に、その芸人にハマる「売れるパターン」があったとしても、どのパターンがハマるのかは誰にも分からない。積み重ねた努力、緻密な計算、ものにした奇跡、そして、芸人自身の「ニン(芸人の芸柄や人柄)」。43組の芸人たちが売れたストーリーは、多くの要素が複雑に絡み合うことを教えてくれる。「売れる」に王道はない。

売れた「あと」にも理由がある
『売れるには理由がある』には、売れた「あと」のことも語られているケースもある。フリップネタ「トツギーノ」でブレイクしたバカリズムもその一人だ。

ブレイク後、多くのネタ番組で「トツギーノ」を求められたバカリズム。しかし、とある結婚式に呼ばれ「トツギーノ」を披露したあと、手元のフリップを1枚残らず出席者に配ってしまう。「僕もう嫁げないっすわ」と、ネタを封印してしまった。

「トツギーノという芸人と思われ始めた」というのもあるが、本人にとってフリップネタは「誰がやっても面白い。舞台上では何の努力もしていない。だから俺はあんまり好きじゃないの。佇まいがダサい」ものだという。面白いものを追求していたバカリズムにとって、ダサいものを繰り返すことは耐えられなかったのだ。

かたや、強烈なキャラを守り続けた結果、「一発屋芸人」となった者もいる。「ルネッサーンス!」の乾杯ネタで大ブレイクした髭男爵は、ショートネタブームの荒波に揉まれ、テレビの露出を急速に減らしていった。短時間で強いインパクトを残すキャラは、売れるための「劇薬」となってしまった。

その髭男爵山田ルイ53世が上梓した『一発屋芸人列伝』は、2018年に第24回雑誌ジャーナリズム賞作品賞を受賞。文筆家としての“再ブレイク”を果たしている。

同じ一発屋芸人の生き様を追った『一発屋芸人列伝』もまた、芸人たちが売れるまで、そして売れたあとのストーリーに迫ったものだった。「売れる」の波に乗り続けることが、いかに難しいか。『売れるには理由がある』と併せて読んでおきたい。

芸人しりとりも楽しい
お笑いファンにとっては、芸人たちのエピソードが「しりとり」のように並んでいるのを眺めるのも楽しい。ナインティナインと極楽とんぼオードリー南海キャンディーズ、ツービートとB&Bなど、縁の深いコンビのが連続するようエピソードが配置されている。

さらに、ナイツの隣に師匠である内海桂子・好江が、その隣には内海桂子・好江を高く評価していた「日本一の漫才師」横山やすし・西川きよしが、さらに隣にはM-1グランプリで「日本一」になったブラックマヨネーズが……と、各エピソードの内容からリンクさせた並びもある。読みながら「なぜ次にこの人が?」と、ついつい理由を考えてしまう。まるでクイズのようだ。

あとがきには「まだまだ書きたい芸人さんがたくさんいます」「僕のライフワークのひとつになれば」との言葉がある。確かに、バナナマン、千鳥、サンドウィッチマン、紳助・竜介など、エピソードを秘めた芸人たちがまだ多く残っている。続編を期待して待ちたい。

戸部田誠『売れるには理由がある』(大田出版)

(井上マサキ

戸部田誠『売れるには理由がある』(太田出版)