6人組のガールズグループ・BiSHが注目を集めています。2月放送の日本テレビ系トークバラエティー「しゃべくり007」では、俳優の生田斗真さんが「BiSHのファン」と公言。番組にはBiSHも出演し、ツイッターのワールドトレンド1位を獲得するなど話題になりました。独自性あふれる楽曲やパフォーマンスで、芸能人からの支持も獲得しています。

 昨年12月には、千葉・幕張メッセ国際展示場で単独公演「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL“THE NUDE”」を開催し、グループ最大規模となる約1万7000人を動員しました。幾多のガールズグループが活躍する現在、結成からわずか3年ほどですが、“異例の出世スピード”で快進撃を見せる彼女たちの魅力に迫ります。

BiSHとは果たしてアイドルなのか

 結成のきっかけは、2015年1月にさかのぼります。当時、同じ所属事務所WACKに所属していたアイドルグループ・BiS新生アイドル研究会)が2014年7月に解散したことを受け、プロデュースを務める渡辺淳之介氏が「BiSをもう一度立ち上げる」と宣言し、BiSHが誕生しました。

 2015年3月に、初期からのメンバーであるアイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニーを含む5人体制での活動を発表。その後、メンバーの脱退と加入を経て、ハシヤスメ・アツコリンリン、アユニ・Dを加えた現在の6人体制が完成しました。

“楽器を持たないパンクバンド”を自称する彼女たちですが、結成当初のキャッチフレーズは“新生クソアイドル”。グループ名である「Brand-new idol SHiT」を意訳したものですが2016年1月、avex traxからのメジャーデビューを機に「avexに失礼なので…」との理由から変更しています。

 しかし、彼女たちの神髄は“クソ”という言葉にあります。結成のきっかけであるBiSはメンバーと抱き合える“ハグ会”を試みたり、1stシングル「My lxxx」のミュージックビデオ(MV)では、樹海で全裸ではしゃぐ姿を公開したりするなど過激なパフォーマンスをしており、BiSHはその遺伝子を受け継いでいるのです。

 その象徴となる活動の一つが、代表曲「BiSH-星が瞬く夜に-」のMVです。アイドルの使命を負った彼女たちの決意を表す楽曲ですが、MVでは、彼女たちが“くそまみれ”になって叫んでいるような演出がなされました。明らかな“汚れ仕事”にも打ち込めるガールズグループという印象をファンに与えたのです。

 そんな彼女たちには、しばしば「果たしてアイドルなのか?」という議論がなされます。しかし、重要なのは、その答えではなく、この議論が生まれるほど、BiSHは既成概念にとらわれない面白さを秘めているということなのです。

 アイドルの定義は千差万別で、とりわけ2010年代に“戦国時代”が叫ばれて以降、数々の議論が繰り返されています。ただ、ことBiSHに関してはモモコの著書「目を合わせるということ」の一節が参考になります。

 モモコは、アイドルのイメージを「からっぽ」と表現しました。その根拠には、裏方でアイドルを支える大人の存在があり、「その人たちが考えた何らかのメッセージのようなものを体現化する手段だと思うから」とつづっています。

 一方で、BiSHの楽曲は松隈ケンタ氏がサウンドプロデュースを務めていますが、歌詞は原則的にメンバー間のコンペによって選ばれ、振り付けはアイナが担当しています。モモコは「BiSHは何かと自由だ」とし、BiSHというグループを「アイドルではない、とわたしは言いたい」と主張しています。

 彼女の言葉を受けるなら、アイドルは“大人の考えを表現する存在”であり、BiSHは“自分たちの意思でグループを作り上げている”ということ。この視点を踏まえると、BiSHは真にアイドルとは呼べないのかもしれません。

デコボコな個性の絶妙なバランス

 楽曲の衣装は基本的に統一されているBiSHですが、メンバーそれぞれの個性が際立っているのも魅力の一つです。

 結成当初からのファンは、彼女たちの魅力を「個性がデコボコ」と表現し、各メンバーのバランスがうまくかみ合っていると話します。そして、パフォーマンス力の高さもさることながら、常に成長と変化を続ける「完全なる『未完成』」であることが、応援したくなる理由だといいます。

 歌のパート割りでメインを任される機会の多いアイナは、BiSHそのものを表すかのような存在感を発揮しています。一度耳にしたら記憶に残るハスキーボイスが武器のアイナは、ソロでCMソングを担当するなどボーカリストとしての地位を確立。さらに、彼女が手がける振り付けは、客席の盛り上がりを考慮して、「サビでは基本的に頭の上に手がある」ことが多く、ライブ会場全体に一体感をもたらしています。

 まっすぐな歌声で存在感のあるチッチは、かつてキャプテンを務めていたものの、ダイエット企画で降格させられたという苦い経験を持っていますが、今なおグループ内で重要な発言を任されるなど持ち前のリーダーシップを見せています。

 モモコはメンバー内で歌詞の採用数が最も多く、先述の著書や2018年4月発売の文芸誌「文学界」に掲載されたコラムなどで文才を発揮しています。

“無口担当”で引っ込み思案な印象のあるリンリンは、ライブで披露する代表曲「GiANT KiLLERS」の冒頭で、「お前らの喉ちんこ、焼き殺してやるからな!」と過激なあおりで豹変(ひょうへん)するギャップが持ち味です。

 メガネが特徴的なハシヤスメは、ワンマンツアーではコントコーナーの中心として振る舞い、過激な歌詞の楽曲「NON TiE-UP」のソロパートなどでは伸びやかな歌声を披露しています。

 グループに一番遅く合流したアユニは、2018年9月にベース&ボーカルとして自身のソロプロジェクト「PEDRO」を始動して以降、歌声の変化が目立ち、BiSHの“成長のバロメーター”のような存在になっています。

 テレビ番組出演などもある一方で、多くのファンが求めているのは、ライブのパフォーマンスを通した彼女たちの“生きざま”そのものです。今年2月、「週刊文春」でアイナのスキャンダルが報じられましたが、多少の賛否両論はありながらも、炎上するどころか“ほぼノーダメージ”だったのは、その証拠と言えるかもしれません。

 BiSHはかねてより、日本武道館を目標の一つに据えています。いまだ実現されていないにもかかわらず、武道館のキャパシティーをはるかに超える幕張メッセ国際展示場での公演を成功させるなど、どこか道筋が読めないことも、不思議と引きつけられる理由です。自分たちの手で未来を築き上げていくBiSHの活躍を見守るのは、今からでも決して遅くはありません。

編集者・ライター カネコシュウヘイ