平成も最後の最後になって、日本でも群雄割拠の様相を呈してきたスマートフォン決済サービス(以下、スマホ決済)。

JBpressですべての写真や図表を見る

 これまでの連載でも、中国のシェアバイクの興亡を通して、スマホ決済(モバイル決済)の破壊力をレポートしてきた。

【参考】中国のシェア自転車ビジネスが示す勝利の方程式
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52771

 モバイル通信キャリア系の2社、ソフトバンクヤフーが共同出資する「PayPay」、NTTドコモが運営する「d払い」が、ともに「20%還元」のキャンペーンを実施したこともあって、各社の新規顧客層の囲い込み合戦は加熱する一方だ。

 そんな中、今年2019年2月13日に、巨大なポイント経済圏を持つ、異色のプレイヤースマホ決済市場に参入した。日本のフリーマーケットアプリ(以下、フリマアプリ)のトップを独走するメルカリ子会社が運営する「メルペイ」だ。

【参考】メルカリ公式メルペイコンセプトムービー
https://www.youtube.com/watch?v=UbYGrgq425c


「メルペイ」はスマホ決済の風雲児となり自らのモーメンタム(勢い感)を加速させるのか、それとも本体の事業「メルカリ」の体力を削ぐリスク要因となるのか。

メルカリに立ちはだかる「理想と現実の壁」

『新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る』

 これはメルカリの企業ホームページの「企業情報」に堂々と掲げられている同社のブランドミッション(使命)だ。山田進太郎会長兼最高経営責任者の2013年の創業当初からの野望でもある。

 GoPro自撮り)、ルンバロボット掃除)・・・。秀逸なブランド体験は、かつてない新しい習慣を創造する。メルカリが、個人の保有する「遊休資産である中古品」をCtoC(個人間)で売り買いするフリマ文化を、ものすごい規模と勢いで根付かせた功績は大きい。

 事実、日本国内でメルカリアプリは約7500ダウンロード、月間の利用者数は1100万人を超える(2018年11月19日現在、メルカリ報道資料)と、威勢の良い数字が同社から発表されている。

 しかし、メルカリの足元の企業業績は意外にも脆弱であることはあまり知られていない。2018年7〜12月期のメルカリの連結売上高は前年同期比の45%増の237億円を記録したが、営業利益でみると36億円の赤字(前年同期も23億円の赤字)だった。

 国内のフリマ事業の営業利益は24%増の44億円と好調だった一方、米国事業のマーケティング投資がかさんだのが営業赤字拡大の主因であると、日本経済新聞2018年2月8日)では分析されている。

 メルカリが、ブランドミッションに掲げられている『新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る』ためには、米国事業の成功は石にかじりついても成し遂げたいはず*1

 今期(2019年1〜6月期)についても昨期同様に厳しい決算が見込まれる以上、安定的な収益源の創出が可及的速やかに必要になるだろう。メルカリ2018年6月19日に東証マザーズ市場に株式上場(IPO)を果たしているので、外部株主からのチェックの目も厳しいはずだ。

 そんな中、メルカリが導入した、フリマアプリに続く起死回生の武器が「メルペイ」なのだ。

*1:米国では、全土規模の中古品CtoCサービスは少なく、成長余地(ホワイトスペース)は一見大きいように見える。しかし、日本のような地域に密着したコンビニエンスストアチェーンがないこと、ヤマト運輸ゆうパックに代表される、国全体を網羅した質の高い宅配便のデリバリーサービスが整っていないことから、スマホアプリで取引を完結させるサービスの導入はハードルが高いと思われる。

「メルペイ」はメルカリの5番目の収益源

「メルペイ」は、メルカリフリマアプリ内で「CtoC取引の通貨」として利用されている売上金を、スマホ決済用途でポイントの形で切り出したものだ(1ポイント=1円)。

 つまり、「メルペイ」がサービスを開始した2019年2月13日以降は、「PayPay」「d払い」「LINE Pay」*2などと同様、加盟のコンビニエンスストアや飲食店などリアルの店舗で現金の代わりとして使えるようになったのである。

 メルカリの売上金・ポイントを「メルペイ」のポイントに転換する方法は極めて簡単である(図参照)。


 確認までに、メルカリの収益モデルを押さえておこう。

1. 支払手数料(中古品の購入者):100円クレジットカード、売上金・ポイント利用は0円)
2. 販売手数料(中古品の販売者):販売手数料の一律10%
3. 振込手数料(販売者が売上金の振込を希望する場合):1万円未満は210円(お急ぎ振込は410円)
4. 送料(原則、販売者が負担):送り方は多様。ゆうゆうメルカリ便(175円〜)、らくらくメルカリ便(195円〜)ではエスクロウ(匿名)取引が可能

 販売者(サプライヤー側)からだけでなく、購入者(利用者側)からも手数料を徴収するビジネスモデルは、ウーバーやエアー・ビー・アンド・ビーのようなCtoCのシェアリングサービスでは「常道」でもあり、「商売の旨味」とも言える部分である。

 さらにメルカリの場合、少額取引のお客さまからも売上金の「振込手数料」や「送料」(メルカリの手数料は不明)の形できっちりフィーを徴収するのは、良くできたビジネスモデルである証拠である*3

 そして、今回取り上げた「メルペイ」は、上記に加え、メルカリ5番目の収益源である「決済手数料」(リアル店舗の加盟店がメルカリに支払う)を生み出す。

*2:2019年3月27日LINEの「LINE Pay」とメルカリの「メルペイ」は今夏をメドにスマホ決済サービスで連携すると発表。「LINE Pay」を利用できる店舗は2018年末で133万店。一方、「メルペイ」は135万店の見込み。
*3:売上金の目減りが嫌でメルカリから離脱するお客さまも少なくないだろう。要はコスト負けしてしまうと感じるのがメルカリのペインポイントのひとつである。

売上金のポイント転換は「諸刃の刃」と考えられる本当の意味

 メルカリホームページによれば、加盟店がメルカリに支払う手数料率は1.5%である。ちょっと皮算用してみよう。

 メルカリの半年間(2018年7〜12月)の日本国内の売上高は2280億円なので、年間ベースに換算すると約4500億円*4になる。そのうち20%の売上金が「メルペイ」のポイントに換算されるとすると、スマホ決済市場に流れる金額は900億円、コンビニや飲食店など加盟の小売店からメルカリキックバックされる手数料率1.5%は13.5億円にもなる計算だ。

 もちろん「世界のメルカリ」を実現するために米国事業の赤字(=投資コスト)全てを賄うことはできないにしても、「メルペイ」がメルカリにとって「一振りで二人の敵を薙ぎ倒せる強力な武器」になる可能性がある。

 2018年8月に鳴り物入りスタートした「メルカリ メゾンズ」(ブランド品に特化)、「メルカリNOW」(中古品をすぐに現金化)、「teacha」(学びを対象)を経営判断で相次いで畳んでしまったことを考えるとなおさらだろう。

 加えて、最近、頻繁に飛んでくるようになったメルカリからのお知らせメールによると、2019年4月23日(火)15:00から振込ルールが変わり、金額に関係なく通常振込200円、お急ぎ振込400円に変更になるという。

 つまり1万円を超える振込でも、今後は振込手数料を差し引かれることになるので、(これをルールの改悪と解釈するかどうかは別にして)メルカリの売上金を「メルペイ」のポイントへ転換する流れを加速する要因になる可能性は大と考えるのが自然である。

 しかし、あえて穿った見方をするならば、この目論見は今後3年間以上、メルカリが対前年比50%増以上の成長を継続することが前提になってはいないだろうか。

 対前年比50%増の成長を3年間続ければ、3年後にはメルカリの国内流通額は現在の約3.4倍の1兆5300億円。前述の20%のポイント換算率を前提にすれば、スマホ決済でメルカリが手にする手数料率は45億円を超え、仮に米国事業が現在と同じレベルで赤字を出し続けると仮定しても、理論上は連結決算が黒字転換することを意味する。

 だが、一方でメルカリの国内流通額の伸びが頭打ちになる、またはフリマアプリの競合であるラクマ(楽天が運営)、ヤフオクヤフーが運営)の急追で、流通額がネガティブインパクトを受けるというワーストシナリオを描いた場合はどうだろうか。

 仮にダウントレンドに入った場合、ポイントの形で売上金がメルカリ経済圏からどんどんキャッシュアウトしてしまうことは、バーチャルフリママーケット規模の縮小につながり、集客の求心力を削いでしまうばかりか、その衰退を早めることにつながってしまう。

諸刃の剣」はそれを振り回す兵士に勢いがあるときは強力な武器として機能するが、身体の側にも刃があるがゆえに、一旦兵士の体力が落ちたり、防御に回ったりする際には逆に兵士を傷つける。

 CtoC個人間取引を出自とする、スマホ決済の異色なプレイヤー「メルペイ」。

 しばらくはその一挙手一投足に目が離せない。

*4:『日経ビジネス2019.02.25 時事深層「CtoC+決済でメルカリ襲来 ポイント経済圏に4000億円枠」

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  群衆の狂気、仮想通貨に復活の芽はあるのか?

[関連記事]

「ネット上での資金支援」が可視化するものとは

サブスクリプション時代が求める「顧客中心主義」

2019年3月27日、メルペイとLINE Payは業務提携を発表した。(写真:つのだよしお/アフロ)