木枯らし紋次郎」「まむしの兄弟」「新・極道の妻たち」など数々の傑作映画を撮り続けてきた巨匠・中島貞夫監督。20年ぶりとなる長編作「多十郎殉愛記」は、愛するものを守るために刀を抜く男の姿を映し出す。主演を務めるのは高良健吾。映画界が待ち望んだ中島監督の新作に主演として抜擢されたことへの思い、また初の“ちゃんばら”時代劇への挑戦についてなど、詳しく話を訊いた。

【写真を見る】ちゃんばらに挑戦するためトレーニングは欠かせなかったそう。「とにかく走って持久力を上げました」

幕末の京都。名高い侍でありながらも借金から逃れるために長州を脱藩した清川多十郎は、大義も夢もなく過ごしていた。居酒屋を切り盛りするおとよは多十郎に好意を寄せるが、多十郎は気付かぬふりをしていた。そんな中、多十郎の存在を知った京都見廻組は、新撰組に目にものを見せようと多十郎の襲撃を企てる。

主人公・多十郎を高良が熱演し、おとよを多部未華子腹違いの弟・数馬を木村了が演じる。監督補佐として中島監督の一番弟子である「私の男」の熊切和嘉が参加するなど、中島監督の熱い思いを受け、豪華なキャスト、熟練のスタッフたちが集結した。

■ 「ちゃんばらにはドラマがある」

ー中島監督20年ぶりの新作、しかも主役ということで、最初にオファーをもらったときの気持ちはいかがでしたか?

嬉しかったですし、幸せでした。中島監督の20年ぶりの新作で長編、しかも主演、そして時代劇、京都での撮影で稽古もできる。そんな贅沢なオファーはないので、ラッキーだなと思いました。

ー高良さんがこれまで出演してきた時代劇とは違って、殺陣などちゃんばら要素が強い作品ですね。

「ちゃんばらにはドラマがある。それを表現したい」という中島監督のお言葉にとにかく応えられるように、殺陣をとにかく稽古しなくてはと思いました。練習は2ヶ月ぐらいで、クランクインする最後の2週間は京都に住んでみっちりやりました。

ーアクションと殺陣は全然違うものですか?

本作のちゃんばらは早くて綺麗なものではありません。きっと今のスタイルだと人を早く斬る方が多いかもしれませんが、本作ではあんまり斬ってないんですよね。愛する人を守るためや自分の逃げ道を作るための一太刀なので、目的があって人を斬っているわけではない。ラストの寺島進さんと対峙するシーンも派手じゃないし数手なんです。それを中島監督に聞いた際「手練の剣士と戦ったら数手で勝負が決まる」と仰っていて。中島監督はそういうことをやりたかったのかなと。

ーすべてのシーンに「嘘がない」と感じました。後半の殺陣シーンでは高良さんの汗や息遣いが生々しいですし。

大掛かりなアクションは事前に練習するものですが、今回は自分がどういう殺陣をするのか現場に行くまでわからない。現場に行って殺陣をつけてもらうんですが、20分ぐらいの中で五十手ほどあり、正直覚えてられないんですよ。でも、稽古をしていたのでルールや動きが頭に染み込んでいて、相手がこっちから来たら自分はこう動くとか反応することができました。それが命のやりとりに見えるんですよね。

ー後半の殺陣のシーンでは太ももが露になって、ふんどしが見えるぐらいリアルな殺陣でした。

ふんどしは中島監督が衣装合わせで一番こだわったポイントです。今回はふんどしを見せていこうと、それだけ泥臭い殺陣を見せていくんだっていう中島監督の思いもあって、長さや色にしてもこだわりました。僕自身、ふんどしを見せていくことで多十郎のキャラもわかってきて。確かにふんどしが効いてますよね(笑)

■ 「侍を演じるなら、粋で格好つけたい」

ー初めての中島組はいかがでしたか?

京都・太秦の東映のスタジオでの撮影で「これが中島監督スタイル」なんだなと。現場は職人の集団ばかりで準備から何から何まで本当にすごくて、ちょっと感動しました。現場に行くのが楽しいですよね。入り時間の30分前ぐらいには入って「こんな風になっていたんだ」と、セットを見ていたら、なんとなく多部さんも早いんですよね。多部さんもセットを見て楽しんでました。

ー同世代の多部さんとの共演はどうでしたか?

天才といったら簡単かもしれないですけど魅力的な方です。お芝居を見た人は絶対思うはずですが、よくあそこまで演技をもっていけたなと。現場ではたまに中島監督の話をしていましたね。「今日、中島監督がこんなこと言っていたよ」とか「こんな現場にいれるって幸せだよね」とか。

ー本作には「5万回斬られた男」としても知られる福本清三さんもご出演されていますね。

福本さんは稽古の時もお世話になって。「お前、考えすぎや。真面目すぎる」と言われて(笑)。目の前で斬られる演技を見ることもできて、学ぶことが多かったです。

ー本作に出演して時代劇の見方が変わったのでは?

変わりました。どうしても派手で格好いいものに目がいくし注目されますが、この人は斬られるのが上手いなとか思うようになりましたね。

ー高良さんは目が印象的なので、時代劇にぴったりなお顔立ちですよね。

それは役者冥利に尽きるというか。正直、目力を意識するのは苦手なんですが、せっかくこの時代の侍を演じさせてもらうなら粋で格好つけたいって思いはありました。

■ 中島監督からは「男の生き様」も学んだ

ー「男の生き様」を感じる作品でもありますが、多十郎を演じてご自身に変化などはありましたか?

さらけ出しすぎず、ちゃんと秘めること。本当に大切なものを秘めて、より大切にする。そういうところは多十郎の格好よさでもあり、色気にも繋がっていると思います。あと、中島監督と仕事ができたことは自分の中でも大きくて。中島監督は侍みたいな人なんですよね。切れ味も鋭いですし。映画に人生を捧げた生き様も格好いい。自分だったらこれだけ好きなことに情熱を注げるのか、命をかけられるのかなと、そういうことを考えるきっかけになりました。

映画「多十郎殉愛記」は、梅田ブルク7ほかにて公開中。(関西ウォーカー・山根翼)

高良健吾の新しい一面が垣間見れる「多十郎殉愛記」