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Point
■人間の持つ遺伝子情報は、染色体以外にミトコンドリアDNAに書き込まれた遺伝子もある
ギリシャで体外受精による不妊治療で両親の染色体と、ドナーのミトコンドリアDNAを持つ男の子が生まれる
■ミトコンドリア移植はミトコンドリア病が問題になる際にだけ使われるべきであり、安全性や効果が定かではない段階で不妊治療に使われるべきでないという批判がある

生命の神秘

3人から受け継いだDNAをもった子供がギリシャで生まれ、不妊治療の観点から議論が巻き起こっています。この赤ちゃんは男の子で、体重2.9kg。32歳の母親共々健康に異常はないようです。

処置を行ったのは、ギリシャスペインの医者達で、不妊治療における歴史的快挙だと述べています。というのも3人のDNAを使った、体外受精技術による不妊治療というのは今回が初めてだからです。

イギリスの専門家たちは、この方法による治療を決定したことについて批判していますが、それは、証拠による後ろ盾がない上、正当化出来ないリスクも含んでいるからです。

3人のDNAってどういうこと?

このミトコンドリア移植として知られる実験的体外受精では、母親の卵子と父親の精子、そして女性ドナーから提供された卵子を使います。多くの人の遺伝子のおよそ99.8%は、核に含まれる23対の染色体の中にあります。通常の体外受精では、これらの遺伝子は父親と母親に由来します。

しかし、非常に少ない割合ですが、細胞内小器官であるミトコンドリアにも遺伝子があります。ミトコンドリア移植では、母親のミトコンドリアを卵子から取り除き、ドナーのミトコンドリアと置き換えるのです。

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この治療法は、ミトコンドリア病やミトコンドリア弱体化した母親から、子供へと病気が受け継がれることを防ぐ目的で、もともと開発されています。

治療法は2015年にはイギリスで合法化されていますが、今の所他の国でこの技術を法律的に承認しているところはありません。この治療が臨床的に行われた例が、一例だけあり、それはヨルダンの家族がアメリカの医師たちによって、メキシコの病院で行われたもので、物議を醸しました。

最新事例に関わった医師たちの主張では、「ミトコンドリアは妊娠の成功に役割をもっているので、不妊治療にもっと広く使われるべきである」そうです。今回の治療が行われた32歳の母親はこれまでに、4回の体外受精を受けていますが、いずれも失敗しています。

スペインの胎生学者ヌーノ・コスタ・ボーグスは、この治療は多くの女性が母親になる助けになり、不妊治療の革命であると言います。

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特にミトコンドリアに異常がない夫婦へ適用するのは問題では?

しかし、多くの学者はこれに懸念を示しています。リスクが全くわからないところで、ミトコンドリア病の恐れもない母親に対して使うことが許されるのか、疑問だからです。

また、今回うまく行ったことで、この治療が有益であったことの証明にもならないといいます。というのも、治療の有効性を評価するための比較対象が、今回の治療には存在しないからです。

イギリスで、ミトコンドリア移植が許されるのは、子供に致死的なミトコンドリア病が遺伝する可能性がある場合、個別に判断することになっています。今回のように、妊娠率を高めるためだけに手軽に使われるべきではないと考えられるのです。

 

どちらの言い分にも理由はあるのですが、一人の人間を生み出すというのは極めて繊細で、人生がかかった問題でもあります。悲劇を産まないためにも慎重を期してほしいところです。ただ、子供を持ちたいのに不妊に陥っている家族の、今現在の悲劇の解決につながる技術である可能性もあります。悩ましいところですが、解決するには科学的な証拠を一歩づつ積み重ねていくのが、結局は近道ではないかと思います。

1人の赤ちゃんが2人の「母親」によって出産される 世界初

reference: The Guardian / written by SENPAI
「3人」のDNAを持つ子供がギリシャで誕生する