代替テキスト

「とりあえず演じて見せるのが俳優の仕事。監督に『全然違う、何してきたんだ!』と言われるのを恐れずにやってみることが、いちばん大切なことじゃないですかね」

静かだが熱を帯びた口調でそう語るのは、高良健吾(31)。現在の邦画界を牽引する監督たちがこぞって起用する、若手俳優の筆頭株だ。彼が今回タッグを組むのは84歳の巨匠、中島貞夫。20年ぶりの監督長編作『多十郎殉愛記』(4月12日よりロードショー)は、幕末の京都を舞台に、脱藩浪人・多十郎と小料理屋の女将・おとよとの命がけの純愛を描いた時代活劇。

高良演じる多十郎は、親の借金から逃れるため浪人となり、その日暮らしをしつつ彼に思いを寄せるおとよにも本心を打ち明けない。

「この時代を生きている男って自分の生き方にちゃんとカッコつけているんですよね。だから多十郎もカッコよく、粋でなきゃいけないということは意識していました」(高良・以下同)

カッコよさとは「思いを秘めること」だと高良は言う。クライマックスでは、多部未華子演じるおとよを守るため、多十郎のためにためた思いがあふれ出すちゃんばらシーンが、30分にわたり展開する。

「殺陣って数あるパターンの組み合わせで、きれいに見せるならいくらでもできると思うんです。だけど、この映画はもっと泥くさくリアルでいこうと。現場で初めて型がついて本番もほぼ1回。覚えられるかという緊張感がすごかったですね。絶対的なルールは『切る前に相手に必ず声をかける』こと。忘れたら声が聞こえた方向に向かっていく。そのこなれていない感じが、不思議と真剣と真剣の命の取り合いに見えるんですよ」

スタッフには中島が大阪芸術大学教授時代に育てた映画人や、東映京都のベテラン勢が参加した。

「監督のためにという思いをすごく感じる現場でした。東映京都の人たちって自分たちの歴史にプライドがある人が多くて、もう仕事人って感じでやることが早い。僕はそれがすごく好きです」

本作の公開は、高良の郷里で熊本地震が発生してから丸3年となる時期だが、今の思いは……。

「地元に帰って思うのは、熊本の人は明るいなと。ちゃんとカッコつけるというか、人を心配させない、災難や苦労を笑いに変える力というのがまだ残っている。それが熊本のいいところでしょう」

熊本県民の気質と多十郎の「カッコつけ」には通じるものがある。そこには高良の中の「秘めた思い」も宿されているのではないか。