「(政府高官の)代理はいいね。(自分が)すぐに決断を下せるから。物事を柔軟に対応できる」

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 ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)は今月6日、ホワイトハウスの南庭に止まったマリーンワン(大統領専用ヘリコプター)に乗り込む直前、記者団に言い放った。

 トランプ政権が誕生して約2年3か月。閣僚を含めた政府高官の多くが職を辞した。

 トランプに直接解雇された人たちも少なくない。首都ワシントンにある大手シンクタンク、ブルッキングズ研究所がまとめた数字によると、政権発足以来の離職率は66%に達する。

 要職が空席になればすぐに次の要人が指名されるはずだが、トランプ政権内ではいま代理が幅を利かせている。

 代理はもちろん正規の長官や高官が決まるまでの「一時しのぎ」だが、トランプにとっては好都合なのだ。

 というのも、行政府のトップに君臨する大統領として、空席を埋める代理に対して絶対的な力を発揮しやすい状況をつくれるからだ。

 各省庁の正規の長官や高官はトランプに指名された後、上院で承認手続きを踏まなくてはいけない。

 だが代理という立場の人間であれば、省庁の利害よりもトランプの利害を比較的容易に推し進めることができる。

 長官が決めるべき案件を、トランプが特権的に決めることさえ可能だ。それが冒頭の発言につながっている。

 代理としてトランプに仕える筆頭はパトリックシャナハン国防長官代理である。

 昨年末、ジム・マティス前国防長官が事実上トランプに更迭された後、今年1月1日から代理を務めている。

 3か月半も正規の国防長官が不在というのは、トランプが故意に人選をしないとも思われても致し方ない。トランプが米軍を思うように仕切りたいとの意識の表れとも受け取れる。

 そのほかにも国土安全保障長官、国連大使、連邦緊急事態管理庁(FEMA)長官の職も空席のままだ。

 さらに大統領の最側近である主席補佐官も代理のままである。

 代理を務めるミック・マルバニー氏は行政予算管理局(OMB)の局長も兼任していて、51歳という年齢もあり、トランプにとっては「使いやすい」人物なのである。

 要職を空席のままにしておくのは本人が認めるとおり、「すぐに決断を下せるから」である。しかし中・長期的な政治的因果関係を考えると、トランプ政権を危機的状況に陥れないとも限らない。

 そんなトランプ政権の周辺で浮上している言葉が「独裁」である。

 独裁者というと、すぐにスターリンヒトラーという人物が浮かびもするが、いまのトランプが実践しているのは「ゆるやかな独裁」と呼べる政治的方向性だろう。

 少なくともトランプは民主的選挙で選出された大統領である。

 だがビル・クリントン政権時代の労働長官で、ハーバード大学教授も務めたロバート・ライシュ氏は最近、トランプをはっきりと「独裁者」と呼ぶ。

 民主主義ルールを守っていないと糾弾している。

 「大統領は国家が非常事態に陥った時にだけ非常事態宣言を発令できますが、議会が(壁建設)予算を計上しないだけで同宣言を発令するのは独裁者の行為です。これは民主主義にとって、脅威です」

 ライシュ氏は民主党支持者であり政権外部の人間だが、実はトランプ政権内部からも厳しい声が伝わってきている。

 昨年9月、トランプ政権の高官がニューヨークタイムズ紙の投稿欄に匿名で意見を載せた。それは「ゆるやかな独裁」を実践するトランプの傍若無人ぶりを暴く内容だった。

 「大統領とのミーティングでは話題がすぐに外れたり突然終わってしまったりします。暴言を繰り返し、衝動的な決定を下すこともよくあります」

 「また不完全で、情報不足のまま政治決断を下すこともあります。あまりに無謀なので、再検討が必要になることがよくあるのです」

 好例がメキシコ国境の封鎖宣言である。

 トランプ3月29日ツイッターで衝動的といえるほど、メキシコ国境を封鎖すると宣言したのだ。メキシコからの不法入国者が減らないことに苛立っての書き込みだった。

 「メキシコ政府が不法入国者を阻止できないのであれば、翌週には国境の大部分を封鎖する予定だ」

 米国大統領が述べる発言でないことは誰の目に明らかだった。

 年間約4億人が行き来する国境を思いつきで封鎖することがいかに理不尽で、両国に経済的・政治的に不利益をもたらせるかを配慮していない。

 国境封鎖の時期や場所、方法論には全く触れずにツイッターで感情的に言い放っただけだった。

 すぐに議会や財界から強い反発があった。

 米国・メキシコ両国の1日の貿易総額は約1700億円で、不法入国者と貿易不均衡に怒りを覚えたとしても国境封鎖は解決につながらない。

 周囲が大統領を説き伏せるまでにほぼ1週間かかる。そして4月4日トランプは自説を撤回して「国境封鎖は今後もないだろう」と述べた。

 独裁的で情緒的な言動について、前出の政府高官がさらに書いている。

 「大統領はこの国の健全さを損なうようなやり方を続けています。背景にあるのは大統領の規範のなさです」

 「一緒に働いたことのある人であれば、すぐにトランプが物事を決断する時に自分の規範・原則をもっていないことに気づきます」

 「共和党はこれまで自由な精神や自由貿易を規範としてきましたが、大統領にはそうしたことへの愛着がほとんどありません」

 この内部告発にトランプは真っ向から否定してみせたが言説は空虚で、自分の支持率が落ちていないと反論したにすぎない。

 前出のライシュ氏は民主主義と独裁制について、民主主義は「意思決定のプロセス」が重要であるが、独裁制は「結果」だけを重視することだと述べる。

 結果が得られるのであれば、手段は選ばない手法が独裁であり、単独で何でも決定してしまう今のトランプは「ゆるやかな独裁」を始めていると言えるかもしれない。

 これが今のトランプの姿である。

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